第8話


 警備員には角畑の事が通達されているらしく、彼らは名前と車を確認した後、すんなりと堀田のいる区画を案内してくれた。


 中を歩いている人々は少なかったが、みな朗らかで自由な生活を満喫しているようだ。年齢はバラバラで、やや高齢者が多いように思える。

 ざっと見て、老人ホームや病院に出入りしている者のように、どこか物悲しげな雰囲気を醸し出している者は皆無。どちらかと言えばギラギラしているオヤジがほとんど。女性は少数派なのか色々探してみたが、すれ違う事はなかった。


 中央にある、ひときわ目立つパステルカラーの建屋を指定されていた。パーキングエリアに置いたアルピーヌA110から降りて、エントランスへと向かう。

 並んだ受付嬢から『おかえりなさいませ』と言われる。角畑は部外者と言いたかったが、緊張していたので、適当に受け流す。


 堀田のいる区画はどこか問い合わせると、映画館のチケット売り場にいそうな美人スタッフが、少し考えた素振りを見せた後、内線でどこかに連絡を入れた。そういえば、ブースというか各部屋の配置が、シネマコンプレックス風になっているではないか。


 七番のスペースに入室して下さいと言われ、カードキーを渡された。廊下から覗くと間接照明のシックな部屋の、一番分かりやすい所に【7】の数字が淡く光っているのを見つけた。


「ここが噂の『ビハイヴ』ってか……」


 扉のカードリーダーにキーを通すと、千鳥の鳴くような弱い電子音が聞こえる。金メッキされたドアノブを押し下げて、重めのドアを今押し開いたのだ……。


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