第7話


 堀田からの依頼は珍しい。何か困った事でも起こったのだろうか。壁に掛っている時計を確認した。


「ああ、何でも言ってくれ、今日は何とか時間を空けとくよ」


 電話しながら火がついたままのタバコを灰皿に擦りつけ、客から預かった書類を鍵付きの引出しにしまい、車のキーの束を専用ケースに保管した。


「そうか、じゃあピザでも注文して待ってるよ。場所はもちろんポートアイランドにあるシンニフォン社だ」


「おそらく、ここからだと渋滞していなければ三十分ってとこか」


「そんなに急がなくたって大丈夫。すまんな……、カクさんも仕事が忙しかったろうに」


 堀田からの電話を切った後、角畑は急いで工場と事務所のシャッターを下ろした。今日はリフトアップした車の下に潜ったので、シャワーを浴びたかったが、着替えるだけで後回しにしよう。堀田の頼みごとの内容が気に掛かる。


 ナビを見ながらブルーメタリック色のフランス車を走らせる。サスを固めてあるので、疲れた日には車の振動が腰に響く。噂のシンニフォン社は神戸の中心部から、かなり離れた場所に存在するのだ。


 目立たない会社だった。敷地面積は広いのだが、高さがない。メインは地下に施設を埋没させているので、外から見ると何かの工場プラント……。いや、見覚えがある。そうだ、某有名テーマパークそっくりじゃないか。


 塀に囲まれた施設の一角に入口があり、警備員の詰所脇を通らないと中に入る事はできない。ビハイヴ自体のセキュリティ問題があるので、警護はかなり固そうだ。

 多くの顧客が日々の生活を営み、暮らしていく施設でもある。閉鎖的ではあるのだが、緑地化もされており、ストレスフリーな生活に心配りされていると思われる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る