角畑 英次

第6話


  第二章 角畑 英次

 

 疑念の三日、羨望の三日、そして不審の一日が過ぎようとしている。


 角畑が経営する民間車検工場は神戸にあり、バラック風の吹けば飛ぶような年季が入った建屋だ。

 リフトも二台で、数台しか車を収容する事ができない。

 そういえば、この前の台風の時に対策を怠ったため、強風でシャッターが捲れあがり、本当に吹き飛んでしまった苦い経験がある。

 その時の修理代は数十万円にものぼり、痛い出費となったのは忘れられない。


 仕事柄、土日こそが忙しい曜日となっている。だが車検整備は楽になったと思う。

 ひと昔前と違い自家用車はメンテナンスフリー化が進み、自己診断システムも完備。

 完全自動運転を始めとするコンピュータによる自己制御化も進み、心臓部は丸ごとユニット交換が主流となっている。

 つまりブラックボックスとも言える電子機器の割合が車体の構成要素の多くを占めるようになり、昔ながらの整備士の技術が要求される場面は、駆動系を中心とした足回りのみになりつつある。


 電気自動車は内燃機関と違いオイル交換も必要なく、冷却水やエアクリーナーエレメントも存在しない。車検ごとの交換部品も極端に少なくなってきている。

 このまま行くと、車検制度自体が廃止されてしまうのではないかと危惧せざるをえない。


 陸運事務局から事務所に戻り、煩雑な書類整理をしていると携帯に着信があった。

 この一週間、角畑の心の内を多く支配している堀田からだ。カード型の携帯電話を財布から抜き取った。


 午後六時ぐらいだろうか……。


「よう、カクさんか。まだ仕事中だろうが、元気にしていたか」


 拍子抜けするほど脳天気な声だった。


「おかげさまでな……。その後どうなんだ、新生活の調子は?」


「権利を買ってからだいぶ経つが、今のところ問題ないし、すこぶる快適な生活だよ。ところで今晩の予定は? 都合がつくなら、頼みたい事があるんだが」


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