第4話
気付けばツマミがなくなっていた。白い割烹着の店員にハツと砂ずり、せせりを注文する。
「トレーニングジムみたいに一時利用とか、短期会員にはなれないものなのか」
角畑が、誰もが抱く疑問をぶつける。
「もちろん、お試し期間はあるさ。いきなり大金を払う奴なんて一人もいない。だが、ビハイヴにちょっとでも触れた者は、たちまちのうちに虜になってしまう……。カクさん、TVゲームを初めて買ってもらった時の事を覚えているか? あの感覚に近いかな」
堀田の細い目が、らんらんと輝いてくる。
「中毒性があるのか……。おい、何だか危険な香りがするぜ」
「そう、そこだよ」
周囲の目は気にせず、堀田は膝を叩いて椅子を揺らせた。
「ビハイヴは、我々に夢を見させてくれるのだが、短期使用は夢と現実の区別が曖昧となって非常に危険らしい。催眠術にかかったまま、野に放たれるようなものか。だから長期利用を前提とした完全管理下の元で、心のバランス調整と肉体のケアが、どうしても必要なのさ」
角畑はさすがに引いた。
――完全管理、心と体のケアだと? 老人ホームのようなものとは聞こえがいいが、常軌を逸している。洗脳して金を巻き上げているだけじゃないのか?
堀田の目を見据えた。その眼差しは子供のようでもあるが、狂気やマイナス方面の濁りは見出せなかった。
――こいつを騙すのは容易ではない。基本、誠実ではあるが昔から狡猾な面もあり、逆に騙されてしまうほどだ。何を考えているのか、分からないところはあるが。
「気持ち悪い。そんなに見つめるなよ、カクさん」
堀田の間抜けな台詞に、心配している自分が何だか馬鹿らしくなってきた。
そのうちワインボトルも空になり、澱でグラスが濁ってきた。残った串の数本を竹筒の中に放り込む。
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