第66話 怪物と鉄壁

 服を着ていないキュリーに覆いかぶさり、ルイスが必死に腰を振っている。

 いつかくるこの時のために、キュリーが持ち得る全ての素材と技術を使って作成していなければ、ベッドは粉々に砕け散っていたと確信出来るほどの激しい腰振り。

 ルイスの表情は、色々な感情を超え、もはや狂気。

 そんなルイスに、キュリーが優しく声をかける。


「まず服を脱ぎなさい」


 いまだ怪物はズボンの中。

 理性をなくしたルイスは、全身キッチリと服を着たまま激しく腰を振っている。


「止まりなさい」


 キュリーの言葉は、ルイスに届かない。

 ただひたすら、意味もなく超高速で腰を振り続けるだけのモンスターとなっている。


 キュリーは無表情で、ルイスのズボンとパンツを一瞬でこま切れにし、隠れていた怪物をあらわにする。

 娼館で見た時から、さらに数段大きくなっている怪物に、思わず柔らかな吐息をもらす。

 これほどの物ならば、これまでの悶々とした長い時に終止符を打つことができるだろう。


 下半身があらわになったルイスは、自身の体からそそり立つ怪物を、キュリーに挿入しようと勢いよく腰を突き出す。


 ルイスの怪物とキュリーの鉄壁が何度かぶつかり、火花を散らす。

 もう少しでめでたし、というところでボギンというまるでとんでもなく硬い金属が力任せにへし折られるような音が、大音量で響く。

 その瞬間、ルイスの口からはこの世のものとは思えないような悲痛なうめき声がもれた。


 キュリーがため息とともに、治癒魔法を発動し、ルイスのへし折れた怪物を元に戻す。


「もう一度、やってみましょう」


 ルイスは震えたまま動かない。

 怪物は依然そそり立っているが、体が震え、先ほどまでのような凶暴性は鳴りを潜めている。

 その姿はまるで、大型犬に絡みまくっていたが、少し反撃されたことで自分が弱いということを思い出したチワワのようだ。


 近づいてこないルイスの反応を見て、キュリーがため息をつく。

 キュリーに無いものが折れる痛みは理解出来ないが、言葉を話すことが出来ないほど理性を失っているにも関わらず、すでに治癒したはずの痛みにおびえている姿から、よほど痛みがあるのだろうことは想像できる。


 裸のままゆっくり堂々とルイスに歩み寄り、ルイスの鼻から先ほどルイスが飲んだ量の数倍の量の媚薬を無理やり流し込む。

 鼻に大量のドロドロとした液体を流し込まれたルイスが苦しそうなうめき声を発するが、キュリーは気にしない。


 流し込み終わって数秒後、ルイスの体からとてつもない勢いで放出される蒸気が部屋に充満し、何も見えなくなった。




 ーーーーー




 ジェシカがおびえながら、受付嬢に質問をする


「なんで揺れてんの?」


 受付嬢はどう伝えようかと少し悩み、ある程度正直に予想を答える。


「キュリーさんが、ルイスさんを治療してるのよ」

「なるほどな」


 ジェシカはその言葉に納得し、うなづく。

 優しさしか持っていないようなルイスがあんな状態になっている。相当ヤバい状態なのだろう。治療するにも、相当難しいのだろうと簡単に予想できる。

 キュリー以外は、ルイスがたまに行う狂気の狩りを知らない。だからこそ、皆はルイスに対して優しく物腰の柔らかい印象しか持っていない。もちろん、ジェシカも例外ではない。


「ちゃんと治るかな?」

「治るわよ、たぶん」


 本当に治るのかは分からない。

 しかし、キュリーが治せなかった場合、どうなるのだろうか。

 そこを考えると、キュリーに絶対に治してもらうしかない。でなければ、とんでもない被害が出るだろう。被害者になる可能性が1番高いのはジェシカか自分だろうと考え、受付嬢は恐怖に震える。


 不安そうな2人が震源地である扉の奥に、理由は違うが同じこと祈る。

 すると突然、何かが折れるような音が大音量で響き渡り、揺れが止まる。

 人々は不安そうに顔を見合わせ、何が折れたのか想像する。何人かの男は自分の股間を押さえ、顔を青くしてうずくまる。


「な、なんだよ、今の音? 治ったのか?」

「…おそらく、失敗ね」

「…うそだろ? なんでだよ!」

「なんでかは、なんとなくしか分からないわ。でもたぶん、とんでもないことになったんじゃないかしら」


 ジェシカは困惑する。

 とんでもないこととはなんだろうか。

 そもそも、人を治療するのに「ボキン」という音がするのはおかしくないだろうか。

 キュリーがミスって、ルイスの骨でも折ってしまったのだろうか。

 であるならば、薄っすらと聞こえてくるルイスの非常に痛そうなうめき声にも納得がいく。


「骨でも折れたのか?」

「骨じゃないと思うわ」

「じゃあなにが折れたんだよ」

「プライドかしら…」

「はあ?」


 2人がそんな会話をしていると、突然、立っていられないほどの揺れが始まった。

 先ほどまでの揺れとは比べものにならぬほどの揺れに、人々は悲鳴を上げながら、地面に手をつき、恐怖に耐える。


 人々の恐怖はそれだけでは終わらない。

 キュリーとルイスが消えていった扉の隙間から、白く濃い蒸気が流れ出て、この揺れの中では逃げられないようなスピードで人々に迫る。


 蒸気に隠れた人々は、男女関係なく自身の下半身が熱を帯び始めたのを感じた。

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