第65話 静まりかえる冒険者ギルド

 冒険者ギルドへの道は、静まり返っている。


 いつもなら、呼び込みをする屋台、あと一歩で喧嘩になりそうな言い争い、道行く女に声をかける男、道行く男に声をかける女、大笑いしながら机を叩く音、何かが壊れる音。

 様々な音が響き渡り、隣にいても小さな声では聞こえないこともある冒険者通りだが、今日はいつもより賑やかでないとおかしい。


 つい先ほどまで、ドラゴン媚薬を求める叫び声がそこかしこから響き渡り、パニック寸前だったのだが、今では静まり返っている。化物が歩いているからだ。


 ルイスが一歩進むと、人波が一歩分割れる。

 道を開ける人々の目は畏怖を孕み、時折「ひっ…」という声も聞こえる。

 股間からそそり立っている怪物で人混みを割るルイスが冒険者ギルドに到着すると、ドラゴン媚薬を求める人混みが静かに割れ、これまでは人だかりで見ることすら不可能だった入口があらわになる。


 入口でドラゴン媚薬を販売していた受付嬢2人の手が止まる。

 同時に、媚薬作成のお手伝いが終わり、キュリーがどこかへ行ってしまったため、受付嬢に頼まれ販売のお手伝いをしていたジェシカの手も止まる。

 全身から湯気を噴出しながらゆっくりと近づいてくるルイスに、思考が追いつかない。


 ゆっくりとした歩みで冒険者ギルドに近づくルイスだったが、ジェシカを見つけ歩くスピードを上げる。そして、ジェシカの正面に立つと、その細く肉の少ない腕を掴む。

 ジェシカを見て、極小サイズではあるが理性が復活し、ジェシカと子どもたちにドラゴンを見せようとしているのだ。


 しかし、傍から見れば、少女に恐ろしい事をしようとしているようにしか見えない。

 その姿を見て、勇気を振り絞る存在がいた。

 受付嬢だ。


「そ、その手を離してください…」


 ジェシカの股から、頭を超えてしまうほどの大きさ。

 即死は免れない。

 ジェシカを守らなければ。という思いが、彼女を突き動かした。

 目の前にいる化物が、いつもなぜかニコニコしており、冒険者らしからぬ丁寧な物腰で接してくるルイスでなければ、動くことなど出来なかっただろう。

 本来であれば、勇気にあふれる行動で良い結果になるであろう行動は、今日この瞬間に限り、余計な行動だ。


 ルイスは、ジェシカをメスだと認識していない。

 しかし、受付嬢のことはメスだと認識している。

 受付嬢の正義感が、ジェシカを見て理性を取り戻し始め、危険ではなかった存在を、自分に牙を剥きかねない恐ろしい存在に変えてしまった。


 ルイスの目が受付嬢に向き、服の奥に隠れている豊満なおっぱいをガン見しながら、ゆっくりと受付嬢に手が伸びる。


「い、いやっ…」


 受付嬢のささやくような小さな声が静まり返った空間に響く。

 それに合わせて、固唾を飲んで見守っている人々が、小さな悲鳴を上げる。

 受付嬢はどうなってしまうのだろう。

 助けようとする者はいない。心の中では助けようとしていても、恐怖で体が微動だにしない。人々は恐ろしい想像をし、受付嬢を助けられる存在の登場を望む。


 人々の心が1つになったその時、冒険者ギルドの奥にある職員用スペースへと続く扉が開き、キュリーが現れた。

 髪を下ろし、胸元がザックリ開き、非常に挑発的な服装で。


「ルイスさん」


 キュリーの姿を見たルイスの体が、微振動から超振動に変わる。

 遠目からキュリーを見る野次馬の男たちも唾を飲み込み、キュリーに見入ってしまう。

 全身から発情の気配を発しているキュリーには、男の目を釘付けにする魅力があり、女の目も釘付けにしている。


 その場にいる人々は全員が気づいた。

 キュリーは今日、決めるつもりだと。


 数か月前、また世界のどこかで救ってきたと思われるまだ幼さの残る青年を弟子にし、スパルタで鍛え上げるキュリー。

 今まで、キュリーが弟子を育てたことなど無い。

 過去にはあるのかもしれないが、この街の住民たちは知らない。あっても、100年単位で時間を遡らなければならないだろう。


 弟子入り希望者はそれなりにいるが、それを全て断ってきたキュリーが、なぜ突然弟子を育て始めたのか。


 それは、この日のためだったのだろう。

 毎日休ませることもなくダンジョンに送り込み、倒れるまで狩りを繰り返させ、意識を失い冒険者ギルドに運ばれるルイスの姿を住民たちは何度も目撃しているし、キュリー関連の噂として、知らない者などいない。


 それは全て、圧倒的なステータス差を埋めるためだったのだろう。

 強すぎる自分に釣り合う男を探すのではなく、好みの男を自分のレベルまで引き上げる。なんとロマンのある話だろうか。

 その場にいる人々が全員理解した上で、心の中でエールを送る。


 物理的に鉄の処女であることが公然の秘密となっているキュリーが、ついに自身の鉄壁を打ち破る男を作り上げた。

 あれほど美しいにもかかわらず、これまでそういう話を一度も聞いたことのないキュリーが、ついに大人の階段を昇ることになるのだろう。


 キュリーとルイスの視線が強烈に絡み合い、

 ルイスがキュリーの後を追うように、2人は扉の奥に消えていった。


 ーーーーー




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