第57話 エッチなルイス
ルイスは昔を思い出し、止まらない涙を拭いながら、冒険者ギルドの扉をくぐった。
扉の正面には受付カウンターがあり、そこにはキュリーが1人で静かに座っている。
そんなキュリーの目に写ったのは、止めどなく涙を流しながら、絶望に満ちた表情をしているルイスの姿だ。
キュリーは親方から聞いていた。
ルイスの悪ふざけで死にかけたので、少し本気で性根を叩き直します。
3日ほど地獄を見せる予定です、と。
あれから3日間。
鍛冶工房からは夜を徹して金槌の音が鳴り響いていた。
ルイスもそれなりに地獄を見せられたのだろう。
しかし、いつもほんわかとした表情。
言い換えれば底抜けにアホそうな表情をしていたルイスが、涙を流しながら落ち込むようなことになるだろうか。
さすがに親方がやり過ぎたということだろう。
ルイスは復讐にとらわれ、精神的に不安定だ。
ここで慰めるのも自分の役目だろうと考え、泣きながら冒険者ギルドの奥にある寮に入っていったルイスの後を追った。
過去の絶望に打ちのめされ、涙を流しながらベッドに体育座りの格好で座っているルイス。
そんなルイスの耳に、扉を優しくノックする音が聞こえる。
ズビッと鼻を1度すすり、「はい」と返事をする。
すると扉の向こうから、キュリーがいつもより優しく聞こえる声で「大丈夫ですか?」と語り懸けてきた。
「…大丈夫です」
「何があったのか聞いても?」
「…聞かないでください」
「分かりました。…辛かったんでしょう?」
「…はい」
「私は知っています。あなたが辛い日々を過ごしたことを」
「…知ってたんですか?」
「はい、3日前から」
ルイスは驚いた。
なんとキュリーは知っていたらしい。
なぜ3日前なのか分からないが、なぜか3日前から知っていたらしい。
数ヶ月前までの髪の無い暗黒時代のことを。
いや、黒くなかったのだから黄金時代といった方がいいだろうか。
「…辛かったんです」
「頑張りましたね」
「…はい」
「入ってもいいですか?」
「…はい」
キュリーは、落ち込み涙を流しているルイスに、膝枕くらいはしてあげてもいいかもしれないと考えている。
ちょっと理解出来ない言動があったり、イラッとさせてくることもあるが、ステータスがどこまで伸びるのか想像もつかないという、途方もない将来性があるし、顔も良い。そう、顔がすごくいいのだ。
落ちんでいる男は、エッチなことをしたら元気になると聞いたこともある。
膝枕というエッチな行動をこちらからするのは少しはしたないが、
まぁ求めてきたら、ちょっとだけしてやってもいいだろう。
キュリーはそう考えながら、扉を開けた。
「くさっ」
「えっ?」
部屋に入った瞬間漂ってくる圧倒的な悪臭。
こいつはまた風呂に入っていないのか。
つい先ほどまで、膝枕くらいならしてあげてもいいと考えていたことなど頭から吹き飛び、この悪臭に耐えようと、手で鼻を押さえた。
「…臭いですか?」
「はい、少し。我慢は出来るので大丈夫です」
「すみません」
「お気になさらず。それで、辛いことがあったのでしょう?」
「はい。…グスッ」
「詳しくは聞きません。あなたなら乗り越えられると信じていますから」
「キュリーさん…」
「あなたは辛いことをたくさん乗り越えて、この街に来たんでしょう?」
「…そう言われれば、そうかもしれません」
「あなたなら、ここでも乗り越えられます。断言します」
「…」
「なにか手助けが必要ですか?」
キュリーは瞬間的にしまったと思った。
こんな状況で手助けをするなどと言ってしまっては、膝枕を頼まれてしまう。
膝枕だけではなく、頭をなでなでしろと言われてしまうかもしれない。
こんな臭い男の頭を膝にのせ、頭をなでなでするなど、新手の拷問である。
しかし、自分から言い出したことをやっぱり無しとは言えない。
キュリーは自ら地獄への入口を開けてしまったのだ。
地獄の入口に立っていると自覚すると、キュリーの頭のなかでは、自分が酷い目にあってしまう妄想が始まった。
悪臭を放つ男に膝枕を頼まれ、悪臭を放つ男の手が自然とキュリーの尻に回る。
弱った男はゆっくりと、しかし着実にキュリーの身体をまさぐり、いつの間にか服を脱がせる。
次第にルイスも脱ぎ始め、断り切れずにキュリーはルイスの身体を嫌々ながらも受け入れてしまう。
キュリーがそんな妄想をしている最中、ルイスが口を開いた。
「…じゃあ、1つだけお願いがあります」
き、来た!
キュリーはいつの間にか悪臭の存在を忘れ、妄想をさらに1段加速させる。
ああ、私はどうすることも出来ず、この男のお願いを聞いてしまうだろう。
この男はその整った顔で、私の唇をむさぼるように奪ってしまうのだろう。
さあ来なさい。どれだけ卑猥なお願いをしようとも、私は嫌々それを受け入れなければならないのですから!
「そろそろミノタウロスのいる階層に行ってみたいんですけど…」
「…」
なんだそれは。
「ダメですか?」
「…いいでしょう。準備しなさい」
「…すみません、ありがとうございます」
「受付で待っておきます」
「ありがとうござ…」
ルイスの最後のお礼の言葉の途中で、キュリーは扉に進み、勢い良く扉を閉めた。
バタンという音が大きく響き、ルイスの言葉を遮る。
キュリーは無表情で寮にある物置代わりの自室に向かい、以前ルイスに貸し出した巨大な斧よりもまだ大きい斧を持ち、無表情で冒険者ギルドの受付カウンターに向かった。
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