第55話 三日三晩
時刻は夜中。本来であれば静かになる時間にも関わらず、鍛冶工房からは金槌で金属を叩く音が聞こえる。
それも1つや2つでは無い。
何人もが同時に振るっているかのような、けたたましい轟音だ。
この鍛冶工房は、すでに自分の鍛冶工房を持っている一流の鍛冶士のみを弟子として受け入れ、技術指導を行っているため、1度にこれだけの音が響くのは珍しい。
そんな鍛冶工房に、珍しく親方の怒声が響く。
「働けお前らぁ!手を休めるなぁ!」
「「はい!」」
一心不乱に金槌を振り下ろしている弟子達は、もうすでに24時間以上休み無しで鍛冶を続けている。
その目は虚ろで、生気は失われている。
なぜこんな過酷な労働をしているのかというと、前日の弟子達のイタズラにぶちギレた親方が、前々から溜まっていた着火棒と給水棒の生産を弟子達にさせているからだ。
ルイスが属性付与を覚える前は、親方しか属性付与のスキルを使用することが出来なかった。
そのため、生活を便利にする小さな着火棒や給水棒などの依頼は、全て親方に来ている。
しかし親方は優れた鍛冶士であり、単価の低い着火棒や給水棒を生産するよりは、単価の高い武器を生産した方が儲かるし、なにより楽しい。というよりも、着火棒や給水棒の作成はつまらない。
そのため、着火棒や給水棒は後回しになっていた。
そんなところにルイスの登場である。
属性付与という優れたスキルを持ちながら、絶望するような鍛冶の才能しか持っていない救世主。
これまでルイスが作成した属性付与された鉄の棒も、実はこっそり着火棒として納品していた。
求められている物よりも大分大きいが、些細な問題だろう。
そんな24時間ぶっ通しの過酷な労働の途中、ルイスが金槌を地面に置き、伸びをした。
「ルイスゥ!休むなぁ!このバカがぁ!」
「すみません!」
親方の怒声に、ルイスが慌てて金槌を握り、再び振り下ろす。
ルイスに怒鳴った親方の横に、弟子の1人が並び、声をかける。
「親方、もうそろそろみんな限界です」
「見りゃあ分かる」
「なぜここまで?」
「死を覚悟するようなイタズラをされたからな」
「すみません」
「いや、分かっている。大方あいつらがルイスのスキルに嫉妬でもしたんだろ?」
「…はい」
「嫉妬したあいつらの目を逸らさせるために、全員で笑えるように俺にイタズラしたんだろ?それくらい分かる」
「はい、すみません」
弟子は親方が理解してくれているということが分かり、安堵のため息をついた。
「おい、なに自分は悪くないですみたいな顔してんだ?」
「えっ?」
「主犯はお前だろうがぁ」
「いや、でも…」
「お前はよぉ、目の前が突然炎に塗り潰されたことがあるか?一瞬の内に火事になるだの設備を守らなければと考えたことがあるか?」
「い、いえ…」
「初めて見たんだよなぁ、走馬灯ってやつを。本気で死を覚悟したんだぜ?」
「は、はい」
「こっちは死を覚悟してよぉ、本気で恐怖を感じたのによぉ、その結果がイタズラでした?皆で笑ったので仲良く出来そうです?なめてんのか?」
「す、すみません」
「おい、さっきからなに休んでんだ?手を動かせ」
「いや、でも、もうみんな限界で…」
「知るかボケェ、死ぬまで働けバカが」
「ちょっとだけ休憩させてもらえませんか?お願いします」
「回復薬は配ってんだろうがぁ、回復薬さえ飲めば死にはしねぇよ」
「そ、そんな…」
「分かったら戻れぇ!」
「は、はい!」
鍛冶工房から聞こえる音は、三日三晩響き続けたという。
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