第53話 便意との戦い

 最近、ダンジョン都市には新しい職業が誕生した。

 その名も、牛追い。

 これはジョブでは無く、金を稼ぐ手段という意味での職業であり、B級ダンジョンに潜れる冒険者だけが、この職業につくことが出来る。


 仕事内容としては、毎朝B級ダンジョンに潜るキュリーの弟子の後を着いていき、そのキュリーの弟子が放置した牛を持ち帰り、納品するという職業である。


 そのため、冒険者ギルドには大量の牛が持ち込まれ、価格の大暴落が起こっているが、大した問題にはなっていない。


 なぜなら、兎の角を定期的に納品している弱い冒険者とは違い、牛を定期的に納品しているような冒険者は皆高い実力を持っており、牛の買い取り価格が下がったのならば、別の仕事を簡単にこなせるくらいの実力がある。


 それに、兎の角は腐ったりなどはしないため、別の街に輸出されることも多いが、牛にそのような部位は無い。


 一応角があるが、兎の角のように魔力を貯めておく性質は無いし、武器になるほど硬いわけでも無い。

 皮は使い道があるが、これも特別な性質などは特に無いため、そこまで需要は無い。

 牛の価値は、ほぼ全てが肉なのだ。


 肉は腐るため、他の街に輸出されることは少ない。

 街の中に住む金持ち用の肉というのが、一般的な認識だ。


 牛の価値が下がって生活が出来なくなるような者は出ないし、商人が大量に買い付けることも無いため、冒険者ギルドからすれば平気で価格の大暴落を起こせるのである。


 冒険者ギルドの存在意義はどうなのかという質問があっても、冒険者ギルドは胸を張るだろう。

 毎日牛を納品する冒険者に許可は取っているし、そもそも他の冒険者が狩った獲物を我が物顔で納品する様な者達のために価格を高く設定し続ける理由も無いと。


 そんなこんなで、今や牛肉は高級品では無く、庶民がちょっと頑張れば買える物になっている。


 価格の大暴落に庶民は喜び、ハイエナをする冒険者は楽して金を稼ぐことが出来、毎日毎日牛を納品している当事者はどうでもいいと言う。

 もともとたまに牛を狩っていたベテラン冒険者達は面白くないが、冒険者ギルドからダンジョン以外で割りの良い仕事を紹介してもらっている。

 誰も困らない現状だ。



 しかし、ルイスは困っている。

 もちろん、金銭面では無い。


 ルイスは、襲いかかってくる腹痛に困っているのだ。


 ルイスは毎日大量に食べる。

 尋常ではない量を食べる。

 物理的に不可能ではないかと思われる量を食べる。


 ゆえに出る。

 尋常ではない量が出る。

 物理的に不可能ではないかと思われる量が出る。



 この世界でのトイレは臭い。

 親方の家のトイレは汚くはないが、やはり臭い。

 汲み取り式トイレの性質故に、仕方の無いことだろう。

 毎日排泄物を処理しても、1日たった排泄物の臭いというのは強烈だ。


 そのためルイスは、基本的にトイレを使わない。

 小であれば、息を止めてなんとかなる。

 しかし大は無理だ。

 息を止めたまま、肛門に力をいれることは難しい。

 だからルイスは、毎朝ダンジョンで用を足している。


 少し前のある日、ルイスが毎朝の日課である排便を済ませようとダンジョンに入ろうとすると、数人のグループに声をかけられた。


 そのグループは、普段はB級ダンジョンの1階で狩りを行っているグループのため、ルイスの狩りを見たことがあった。

 一撃で牛を倒し、それを放置して2階層への階段がある方向に走り去る行動だ。

 そんなルイスを見たグループの中の1人が言った。

「くださいって言ったら、貰えないだろうか」


 ダメ元で頼んでみることになった。


「あの、ルイスさんですよね?」

「はい。おはようございます」

「おはようございます。1つお願いがあるんですけど…」

「なんでしょうか」

「ルイスさんがいつも放置される牛を、もしよければ頂けないかなと思いまして…」

「いいですよ」

「あっ、良いんですか?」

「はい、構いません」

「ありがとうございます」

「いえいえ」


 こんな感じで気軽に許可を出したルイスだったが、今では後悔している。


 毎朝ダンジョンの前に、数十人が待機しているからだ。

 彼らは、ルイスが牛を狩るまで帰ってくれない。

 便意に耐えきれず、1度牛を狩らずに5階層まで一直線に降りたこともあるが、彼らは命懸けでルイスに着いてきた。


 そのため、ルイスは毎朝便意に襲われながら牛を何匹も狩っている。

 彼らが牛を持ち帰って初めて、ルイスは落ち着いて排便出来るのだ。


 ルイスが狩りの場所を変えても、彼らは着いてくるだろう。

 獲物を持ち帰るのは別にいいから、後ろを着いてこないで欲しい。


 誰もいなくなったダンジョンで、もりもりと排便しながら、ルイスは思った。

 今のルイスの、切実な願いである。



 ーーーーーー



 土属性魔術師ジョブの基本設定


 レベルアップ時のステータス上昇値

 HP 0

 MP 3

 力 0

 丈夫さ 0

 魔力 3

 精神力 1

 素早さ 0

 器用さ 1


 転職条件

 鉱物の基礎知識


 1 アースニードル 針のような土を撃ち出す 消費MP2

 10 アースアロー 矢ような土を撃ち出す 消費MP5

 20 アースランス 槍ような土を撃ち出す 消費MP10

 30 アースシールド 魔力を防ぐ土の盾を出現させる 消費MP10

 40 アースボム 爆弾ような土を撃ち出す 消費MP20

 50 アースウォール 魔力を防ぐ土の壁を出現させる 消費MP30

 100 ??? 消費MP100

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