第50話 キュリー激怒

 次の日の朝、親方が鍛冶工房に入ると、ルイスが笑顔でぐにゃぐにゃの剣を見せてきた。

 昨日の夜から、夜通し剣を打っていたのだろう。

 鍛冶が楽しくてしょうがない奴に、よくあることだ。

 このままいけば、ルイスを鍛冶が好きで好きでたまらない若者に出来る。


「親方、これどうですか?」

「いいじゃねぇか、表面の気泡が減ってるな。昨日よりも格段に進歩してるぞ」

「ありがとうございます、よく出来てるとおもったんですよ」

「そうだな、成長してるぞ。しかしいいのか?夜通し剣を打ってたんだろ?ダンジョンに行く元気はあるのか?」

「それは全然大丈夫です。あまり体を動かしていなかったので、あまり疲れてないんですよね。じゃあ、このまま行ってきます」

「…そうか、気をつけてな」


 ルイスはそのまま、鍛冶工房を出て、ダンジョンに向かった。


「疲れるだろう、普通」


 ルイスが出ていき、すでに閉まっている扉に向かって、親方は言葉を発した。


 体を動かしていないとはどういうことだろうか。

 鍛冶は全身を使う。

 金槌を振るうため、もちろん腕を使う。

 融かした鉄を運んだり、鉄を冷やすための水を運んだりもする。

 重いものを運ぶのは、もちろん全身運動だ。


 いや、ルイスのスピードを目の当たりにしたが、力の数値も同じだとしたら、この鍛冶工房にある物など、なんの重さも感じないのかもしれない。


 しかし、炉の熱で体力を奪われ、疲れはたまるだろう。

 というか、そもそも寝不足だろう。

 なぜあんなに元気そうにしているんだろうかと、親方は首をひねった。


 なぜルイスはあんなにピンピンしているのかというと、

 そもそも、40歳で不健康な体の時でさえ、徹夜でレベル上げをしていた。

 そんな人間が、20歳の健康な体を手に入れ、ステータスという謎の鎧を纏っている状態だ。

 全力で走り回ってのレベル上げでも無く、ステータスが高いために、金槌を振り続けるのも全く体に負担が無い。

 体は疲れないし、楽しさしか感じていないため、眠くもならない。

 鍛冶という遊びを夜通しし続けたに過ぎないし、鍛冶の後はレベル上げという遊びをするだけだ。


 ようするに、20歳の若者が、夜通し遊んでいたに過ぎないのだ。


 親方は、自分に当てはめて考えているため、ルイスを心配しているが、もう少しルイスの性格を知れば、キュリーと同じ苦労を背負うことになるだろう。


 そんな未来を知らない親方は、自分の仕事を始めた。




 ダンジョンで昼までレベル上げを行ったルイスは、ジェシカと昼食を取りながら雑談に興じている。


「おっちゃん、今日は一緒に納品に行こう」

「なんで?」

「なんかキュリーばあが、おっちゃん連れてこいって」

「え~、なんでだろ。おっちゃんなんかした?」

「う~ん、わかんない」

「あ、牛を納品し過ぎたとかかな。兎の角の時と同じパターンかも」

「兎の角?」

「うん、兎の角を納品しすぎてさ、なんかこれ以上納品してくれるなって言われたことあってさ」

「へぇ~、なんでいっぱい納品したらダメなの?」

「んっとね、需要と供給のバランスがとれてないとダメなんだよ」

「需要と供給?」

「よし、今日の勉強は需要と供給にしようか」

「オッケー」


 ルイスはジェシカに勉強を教え終わり、ジェシカと牛を乗せた台車をルイスが引き、冒険者ギルドに向かった。


「キュリーさん、お疲れ様です」

「お疲れ様です」

「なんか呼ばれてるって聞いたんですけど…」

「なんか?」

「はい…」

「ジェシカから聞きましたが、引っ越しをしたそうですね?」

「はい」

「一言ぐらいあってもいいのではないでしょうか」

「すみません、引っ越しました」

「ええ、1日遅いですね」

「えっと…怒ってます?」

「…今なんと?」

「キュリーさん、怒ってるんですか?」


 キュリーの眉間に、ハッキリとしたシワが寄った。

 怒髪天を衝くとはこの事だろう。

 物理的に、キュリーの髪の毛が逆立っている。


「キュ、キュリーさん?」

「あなたにとって、私が何時間もダンジョンを走り回ったのは、別に関係の無いことです。しかし、本人に自覚が無いということに、これほどの怒りを感じるとは思いませんでした」

「は、はぁ」

「まあいいでしょう、ジェシカから、あの鍛冶士が熱烈に勧誘していたと聞いています。今日の夜、顔を出すと伝えておきなさい」

「は、はい」

「いえ、やはり別に伝えなくともいいでしょう。どちらにせよ、私を不機嫌にしたという事実は覆りません」


 明らかな怒りの波動を発しているキュリーに、ルイスはおどおどしながら、ジェシカに事情を聞いた。


「ね、ねぇ、ジェシカ?なんでこんなキュリーさん怒ってる?」

「こ、怖くねぇし。カヒュッ」

「いや、ねぇ、大丈夫?」


 ジェシカは、顔を真っ青にしながら、ガタガタと震えている。

 キュリーは、怒りから、濃厚な魔力を体から放出している。

 ルイスは高い精神力の数値を待っているため、少し威圧感を感じるだけに留まっているが、ジェシカは一桁の精神力しか持っていない。

 そのため、すでに意識は飛んでおり、呼吸すら覚束無くなっている。


「ジェシカ!ねえ!大丈夫!?」

「これは失礼しました」


 キュリーがジェシカの状態に気づき、体から漏れ出る魔力を抑えた。

 その瞬間、ジェシカが白目を剥き、後ろ向きに倒れた。

 そんなジェシカをルイスが抱き止め、名前を叫ぶが、ジェシカが返事をすることは無い。


「ルイスさん、ジェシカを私に」

「は、はい、お願いします」


 先ほどのキュリーを見たルイスに、逆らうという選択肢は無いし、そもそもこれまでも、困ったらキュリーに頼って来たのだ。

 ルイスは素直に、ジェシカを差し出した。


 キュリーは猫を持ち上げるように、ジェシカの首を右手で持ち、ジェシカの背中に左手をかざし、治癒魔術を発動させた。

 ジェシカの顔色は、血色の良さそうで健康そうな顔色に戻った。


「これで大丈夫でしょう」

「ありがとうございます」

「いえ、私が原因ですので」

「それは、なんとなく分かります」

「ジェシカは普通の子供ですから、少し刺激が強かったのでしょう」

「はぁ、なぜ僕は平気なんでしょうか?」

「ステータスの精神力が高いからです。あなたの後ろにいる、他の冒険者達も、まだ震えているでしょう?」


 ルイスが後ろを振り向き、椅子に座っていた数人の冒険者を見ると、確かに下を向き、震えている。


「え、でも、皆さんベテランの方ですよね?」

「ベテランとは言っても、私達と比べれば、素人に毛が生えた程度です」

「は、はあ」

「ジェシカはこちらで寝かせておくので、あなたは帰りなさい」

「あの…親方も同じ目に?」

「さあ?彼次第でしょう」

「今日は、寮に泊まってもいいですか?」

「私の許可が必要な事柄ではありません。自由にしなさい」

「…じゃあ泊まります」

「寝る前に、公衆浴場に行ってきなさい。臭います」

「分かりました。行ってきます」


 キュリーはジェシカを持ち、寮への扉をくぐって行った。

 それを確認したルイスは、キュリーは怒らせないようにしようと、心に刻み、公衆浴場に向かった。



 ーーーーーー



 あとがき

 このあとがきは読まなくてもいいです



 今日、緊急家族会議がありました。


 妹が妊娠したそうです。

 もちろん独身です。

 両親と妹の3人で、なかなか白熱したバトルになっていました。

 席を外そうとすると、ここにいろと言われ、終わるまでとりあえず正座していました。

 結局、二時間ほどで決着しました。


 直接言う勇気は無いので、ここに吐き出させて頂きます。読書の皆様、ごめんなさい。





 1つだけ、両親と妹に言いたいことがあります。


 今日の家族会議さ、





 兄、いる?

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