第49話 初めての鍛冶

 次の日の朝、親方夫婦と朝食を取ったルイスは、いつも通りの時間にB級ダンジョンに行き、いつも通りジェシカと昼食を取り、勉強を教え、牛の納品を任せて鍛冶工房に戻った。


 ついに今日から、鍛冶の修行が始まる。

 ルイスの目に写るのは、鍛冶工房の入口で、キリッとした表情でまっすぐにルイスを見つめる親方。

 袖を捲り、腕を組んで仁王立ちしている。


「ちゃんと戻ってきたな」

「はい」

「よし、ついてこい」

「はい」


 ルイスの表情は、戦々恐々というよりは、覚悟を決めたものになっている。

 昨日の夜、修行の内容を簡単にではあるが、前もって聞いていたからだ。


「昨日も話した通り、まず初めに、剣を一本打ってもらう」

「はい」


 これは、鍛冶士への転職条件を満たすためだ。

 まず、無茶苦茶な物でもとりあえず作り、鍛冶士へとジョブチェンジする。

 鍛冶の実力を高める修行はそれからだ。


「だからまず、俺の言うとおりに動け。難しいことは言わねぇ。昨日言った通りだ、分かってるな?」

「はい、お願いします」


 ルイスが剣を打っている間、親方は口出しを一切しなかった。

 手順の説明はするが、こうした方が良い剣が出来るなどの口出しはしない。

 出来上がった剣は、分厚く、刃も無く、所々気泡があるような始末だ。


 そんな剣を嬉しそうに見つめているルイスに、親方が声をかけた。


「楽しかったか?」

「はい、思っていたよりずっと楽しかったです。もう一本作ってもいいですか?」

「そうか、とりあえずジョブチェンジしてからだな」

「もうしました。早速やってもいいですか?」

「分かった分かった、ジョブチェンジしてからな」

「ジョブチェンジは終わりました。やってもいいですか?」

「バカ言ってないで、どこでもいいからジョブチェンジしてこい。冒険者ギルドまで行くのがめんどくさいんなら、近くに商業ギルドもあるからな」

「…はい、戻ってきたらやってもいいですか?」

「そうだな、いいぞ」

「やった!行ってきます!」


 走って出ていくルイスの後ろ姿を見つめる親方。

 その表情には、安堵が浮かんでいる。


 親方は経験があった。

 国の鍛冶責任者になる前は、普通の親方だったのだが、

 新しく弟子を取り、期待をかけて育てると、実力がついていない状態でも、早く独立しようとするし、楽しくなさそうに鍛冶をするようになる。

 あまり期待をかけていなかった弟子は、いつまでも教えを乞いに来るし、楽しそうに鍛冶をするようになる。


 あまり口出しをせず、聞いて来た時だけ教えてやればいい。

 そうした方が、鍛冶を楽しいと思ってくれるようになるし、いつまでも師匠と慕ってくれる。


「戻りました!」

「…早いな」

「ダッシュで行ってきましたから」


 確かに、ルイスのスピードなら、商業ギルドまで10秒もあれば行けそうな気もする。

 しかし、人にぶつかれば、即死させてもおかしくないだろう。


「誰にもぶつかってないか?」

「え?はい」

「そうか、ならいいんだ」

「じゃあ、やってもいいですか?」

「やってもいいが、もう夜だぞ?」

「全然問題ないです」

「そうか、じゃあやったらいい」

「ありがとうございます」

「ああ」


 親方の許可を取ると、ルイスはすぐさま鍛冶を始めた。


 ちなみに、ルイスはジョブチェンジなどしていない。

 今ついている土属性魔術師のレベルが、50に達していないためだ。

 ルイスは、嘘をついてでも鍛冶をやりたかった。

 それほど、鍛冶が楽しかったのだ。


 ルイスは、嘘がばれないうちにレベル上げをしようと決め、鍛冶を続けた。



 ーーーーーー



 お昼の冒険者ギルド


 いつも通り牛の納品に来たジェシカに、キュリーは目を剥いた。

 B級ダンジョンを走り回り、結局ルイスが見つからなかったため、死んでダンジョンに吸収されたのかと思っていたからだ。


「お疲れ様です」

「お疲れ様です。納品頼むよ」

「ルイスさんはどこに?」

「なんか鍛冶士に弟子入りするって」

「そうなんですか?」

「鍛冶の親方が、キュリーばあに頼まれたって言ってたけど」

「そんなこと、頼んだ覚えはありませんが」

「え?でも確かに言ってたけどな」

「昨日の夜、ルイスがどこにいたか知っていますか?」

「親方の家に住むって」

「私に一言も無く?」

「なんでキュリーばあの許可がいるんだよ」

「許可はいりませんが、一言あってもいいでしょうね」

「ふ~ん、まあ、納品頼むわ」

「はい、分かりました」


 キュリーの眉間には、わずかに皺が刻まれていた。



 ーーーーーー



 風属性魔術師ジョブの基本設定


 レベルアップ時のステータス上昇値

 HP 0

 MP 3

 力 0

 丈夫さ 0

 魔力 3

 精神力 1

 素早さ 0

 器用さ 1


 転職条件

 気体の基礎知識


 1 ウィンドニードル 針のような風を撃ち出す 消費MP2

 10 ウィンドアロー 矢ような風を撃ち出す 消費MP5

 20 ウィンドランス 槍ような風を撃ち出す 消費MP10

 30 ウィンドシールド 魔力を防ぐ風の盾を出現させる 消費MP10

 40 ウィンドボム 爆弾ような風を撃ち出す 消費MP20

 50 ウィンドウォール 魔力を防ぐ風の壁を出現させる 消費MP30

 100 ??? 消費MP100

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