第48話 引っ越し

 弓を構えているジェシカを、親方が困惑しながら眺めているところに、ルイスが牛を持ってダンジョンから出てきた。


 最近、力の数値が上がったことにより、牛をまるまる一匹外に運び出すことが出来るようになったのだ。


「あの、何をしているんですか?」


 ルイスから見れば、年端もいかない少女を凝視している親方。

 ロリコンなのかと疑いながら、親方に話しかける。


「ん?ああ、終わったのか。しかし、片手で持ち運べる物なんだな、牛」

「最近持ち運べるようになったんです。で、何をしているんですか?」

「あのクソガキにな、お前を説得してもらおうと思ってな」

「え」

「こいつの口からお前に言ってもらえば、お前も納得出来るだろ」

「…ちょっとすみません」


 ルイスは親方の側を離れ、ジェシカに近寄り、声をかけた。


「おはよ」

「おわっ!」

「ははは、ごめんごめん、おはよ」

「びっくりした~、おはよう」

「これいい?」

「オッケー」


 ルイスは牛を示し、ジェシカと並んで、まな板がわりに使っている台車の前に立つ。

 ルイスは牛を両手で引き裂き、ブロック肉にしていく。

 ルイスの横で、ブロック肉を次々と捌いていくジェシカ。


「ねぇ、あのおじさん何て言ってたの?」

「おっちゃんを弟子にしたいって」

「…嫌だなぁ」

「じゃあ、そう言えば?」

「言ったんだけど…諦めてくれないんだよね」

「じゃあなれば?」

「え?でも嫌なんだよ?」

「嫌なことなんか、生きてりゃいくらでもあるだろ。職人なんか、弟子になりたいって奴が山ほどいるし、弟子にしたいって言われることってさ、すごい幸せなことだと思うし」


 ルイスの動きが止まる。


「でもさ、おっちゃんは冒険者で食っていけるだろうし、本気で嫌なら断ったら?」

「…そうだよね、生きてたら嫌なことなんか、いくらでもあるよね」

「うん、無限にあるな」

「…いつかは通らなきゃいけない道だし。ちょっとだけ頑張ってみようかな」

「応援してるよ」

「うん」


 そこから無言で肉を引き裂いていたルイスは、肉を引き裂き終えると、少し離れた場所にいる親方に近寄る。


「あの…よろしくお願いします」

「…分かった。何を言われたか知らねぇが、あの子の考えか?」

「はい、僕よりも、余程大人でした」

「そうか、まあ、そういうこともある。大人びた子供っていうのは、そこそこいるもんだ」

「はい、それで相談なんですけど…」

「なんだ?言ってみろ」

「弟子になった後も、午前中だけでもダンジョンに来てもいいですか?」

「…いいだろう。あの子のためか?」

「…はい」


 嘘である。

 ルイスがダンジョンで狩りをしなくとも、親方が代わりに牛を狩ってジェシカに渡してくれると言っていた。

 ルイスは、ジェシカのためでは無く、レベル上げが出来なくなることを恐れたのだ。


「しっかり食わしてやれよ」

「はい」


 それを悟らせないキリッとした表情で頷くルイス。

 その目には安堵が浮かんでいる。


「じゃあ、今日から俺の家に住め」

「…はい」


 ジェシカと親方と3人で昼食を済ませ、ルイスは親方の後に続き、親方の家に向かった。



 親方の家についたルイスは、親方の妻に挨拶をした。


「これからお世話になります、ルイスです。よろしくお願いいたします」

「あら、これはご丁寧に、よろしくお願いいたします。ナンシーです」


 とても普通の住人とは思えないほどのキレイな礼をする、まだ30歳ほどに見える美しい女性。

 親方が50代に見えることを考えれば、年の差婚だろうか。

 この若い女性は、親方がまだとある国の鍛冶の責任者だったころ、その国の貴族家から嫁いできた女性である。


 もうすでに子供は巣立っており、親方と妻しか住んでいない。

 そのため、部屋は余っている。


 ルイスはその部屋に入り、すでに布団が準備されていたベッドに倒れこんだ。

 これからは、冒険者ギルドでは無く、怒鳴り散らしてくる強面のおじさんと暮らさなければならないし、レベル上げの時間も減る。


「はぁ~」


 しかし、なんとか午前中だけはレベル上げをさせてもらえる。

 午前中はレベル上げをして、昼食をジェシカと食べ、午後からは怒鳴られながらの鍛冶修行という生活サイクルになるのだろう。

 いつかは通らねばならない道だ。

 ルイスは諦め、親方のもとに戻った。



 ーーーーーー



 次の日の冒険者ギルド


 昨晩、ルイスの帰りを確認していなかったキュリーは、寮にあるルイスの部屋を確認した。


 もちろんルイスの姿は無い。

 昨日から親方の家に住むことになっている。


 しかしキュリーは、そんなことは知らない。


「またですか」


 キュリーは呟きとともに、B級ダンジョンに向かい、隅から隅まで探し回った。



 ーーーーーー



 水属性魔術師ジョブの基本設定


 レベルアップ時のステータス上昇値

 HP 0

 MP 3

 力 0

 丈夫さ 0

 魔力 3

 精神力 1

 素早さ 0

 器用さ 1


 転職条件

 水の基礎知識


 1 ウォータニードル 針のような水を撃ち出す 消費MP2

 10 ウォータアロー 矢ような水を撃ち出す 消費MP5

 20 ウォータランス 槍ような水を撃ち出す 消費MP10

 30 ウォータシールド 魔力を防ぐ水の盾を出現させる 消費MP10

 40 ウォータボム 爆弾ような水を撃ち出す 消費MP20

 50 ウォータウォール 魔力を防ぐ水の壁を出現させる 消費MP30

 100 ??? 消費MP100

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