第47話 親方の夢

 鍛冶工房から出たルイスは、いつも通りB級ダンジョンに来ている。

 階段を降り、5階層に降り立ったルイスは、後ろを振り返り、そこにいる人物の顔を見る。


 ルイスの目線の先には、人の背丈ほどの大きさがある金槌を持った、強面のおじさん。

 ジョギングで5階層まで駆け降りてきたルイスの後ろを、全速力で着いてきたのだ。

 その額には汗が流れ、肩を激しく上下させている。


「大丈夫ですか?」

「…大丈夫だ」


 ダンジョンに行かなければと、鍛冶工房を出たルイスに、数年ぶりに自身の武器である大金槌を引っ張りだし、同行している。

 ルイスがあまりにも首を縦に振らないため、痺れを切らした鍛冶士の親方は、とりあえず自分を信用させる作戦に出たようだ。


「えっと…始めますよ?」

「…もうか…大丈夫だ、始めてくれ」


 ルイスが遠目に見える牛に、軽く走って近寄る。

 軽く走っているように見えるにも関わらず、自分とのあまりの速度の差に、親方は舌打ちをし、全力疾走で追いすがる。


 牛に接近し、足を止めて攻撃をするのかと思いきや、横を走り抜け、すれ違い様に手に持った剣を頭に振り下ろす。

 そのまま次の牛を目掛けて進むのを、親方は驚愕しながら追いかける。


 ルイスがB級ダンジョンに潜ると聞いて、持っている武器の中で、最も攻撃力の高い大金槌を選んだのが失敗だった。

 もっと軽く小さい武器だったならば、もう少し楽に走れていたかもしれない。

 いや、小さい武器を持ってきても変わらないだろう、ステータスの数値が全く違う。


 親方のステータスは低くない。

 戦闘経験は少ないが、ステータスだけを見れば、ベテランの冒険者よりも高いだろう。

 そのため、B級ダンジョンでも恐れることなく、ルイスについてきたのだ。

 そんな親方の全力疾走でも、ルイスのジョギングの速度についていくのがやっと。


「…さすがはキュリーさんの弟子だな」


 まだ2匹の牛を狩っただけだが、追いすがるのを諦め、遠く離れていくルイスを眺める親方。

 おそらくこれから、まだまだ狩りを続けるのだろう。

 牛の死体を回収しない目的は分からないが、キュリーから指示されてのことだろう。


 ルイスに信頼させる作戦を諦め、弟子にするのを諦めたのかと思われた親方だったが、その目には熱い炎が宿っている。


「これだけの逸材だ…弟子にしてぇな」


 親方はルイスの能力を垣間見た。

 圧倒的なスピードに、片手で剣を振るうだけでB級ダンジョンの牛を瞬殺出来るパワー。


 先ほどまでは、キュリーへの恩返しだと思っていた。

 今でもそれはあるが、それよりも、ルイスを鍛冶士として鍛えてみたいと思ったのだ。

 もし、鍛冶士のレベルを50まで上げられたら、自分を越えるレベルまで上げることが出来たら…鍛冶の高みを、見せてくれるのではないだろうか。

 自分では見ることが出来なかった景色を、ルイスが見させてくれるのではないだろうか。


「確か名前はルイスだったか…逃がさんぞ」


 ルイスにとっては不吉な呟きを残し、親方はB級ダンジョンから出た。



 いつも通りの時間よりも大分早くダンジョンにやってきたジェシカは、ダンジョンの前に座る強面のおじさんが、こちらを見ているのに気づいた。


「なんだよ」


 ジェシカは怯まない。

 ルイスが恐れおののくような顔面をしていても、ジェシカは全く怯まない。

 顔面が怖いくらいでビビっていれば、ストリートチルドレンなどやっていけない。


「おお、気が強いガキだな」

「人のことをじろじろ見てんじゃねぇよ」


 吐き捨てるように言い放ち、強面のおじさんの前を通りすぎ、いつもの場所に台車を置き、ジェシカは弓の練習を始めた。

 強面のおじさんは、まだジェシカを見ている。


「なんだよ!」


 この大声は威嚇のためでは無い。

 人気の無い場所であるがゆえに、誰か気づいてくれという大声だ。

 襲われれば、ジェシカでは大人に敵わない。

 普通の大人でも敵わないのに、B級ダンジョンに居るような大人に敵うはずも無いし、逃げることすら不可能だろう。

 それゆえの、大声での威嚇だ。


 その意図を知ってか知らずか、強面のおじさんはジェシカに問いかけた。


「お前か?ルイスが飯を食わしてるガキってのは」

「あ?おっちゃんの知り合いかよ」

「まあな、あいつの師匠だ」

「はあ?おっちゃんの師匠はキュリーばあだろ、お前そんなことも知らねぇのか?」


 すでに街中の住人が知っていることを知らないのかと思いながら、強面のおじさんを睨み付ける。

 すでに警戒心はMAXだ。

 嘘をついてどうするつもりか。

 そうまでして、ジェシカと話す理由は何なのか。


「いや、知ってるさ。キュリーさんに言われたんだ、弟子にしろとな」

「なんでキュリーばあがそんなこと言うんだよ」

「それは俺にも分からん。キュリーさん考えを理解出来る人なんかいねぇだろうしな」

「…」

「まあそんなことはいいんだ。ルイスはよ、お前に飯を食わせるために、俺の弟子にはならねぇって言ってんだ」

「…え?」


 一瞬でジェシカの顔が赤く染まった。

 先ほどまでの、警戒し、威嚇するような目付きから一転。

 恋する乙女の表情になった。


「…おっちゃんが?」

「ああ、お前のために牛を狩らないといけないって言ってたな。それでよ、これからは俺が代わりに牛を狩るからよ、ルイスにもお前から言ってくれねぇか?」

「…おっちゃんが、俺の…私のために…」

「だからよ、お前からも言ってくれねぇか?」

「ふふふ」

「な、なんだお前、気持ち悪いな…突然笑い始めやがって」

「ふふふ、弓の練習でもしよっと」

「おい、どうした?」


 親方の額に冷や汗が浮かんだ。

 会話の途中で急に笑い始め、木に向かって矢を放ち始めた子供。

 とても理解が及ばない存在に、久しぶりに恐怖を覚えた親方だった。



 ーーーーーー



 火属性魔術師ジョブの基本設定


 レベルアップ時のステータス上昇値

 HP 0

 MP 3

 力 0

 丈夫さ 0

 魔力 3

 精神力 1

 素早さ 0

 器用さ 1


 転職条件

 熱の基礎知識


 1 ファイアニードル 針のような炎を撃ち出す 消費MP2

 10 ファイアアロー 矢ような炎を撃ち出す 消費MP5

 20 ファイアランス 槍ような炎を撃ち出す 消費MP10

 30 ファイアシールド 魔力を防ぐ炎の盾を出現させる 消費MP10

 40 ファイアボム 爆弾ような炎を撃ち出す 消費MP20

 50 ファイアウォール 魔力を防ぐ炎の壁を出現させる 消費MP30

 100 ??? 消費MP100

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