第40話 生まれ持ったジョブ
ルイスは今、B級ダンジョンの5階層でレベル上げをしている。
腰に剣をぶら下げたまま、矢筒を背負い、弓を引き絞り、放った矢で牛を狩っている。
倒れた牛に刺さっている矢を回収し、外れた矢を地面から拾い上げるルイス。
その顔は、眉間に皺が寄り、口はへの字に固く結ばれている。
「楽しくない」
ルイスの感情は、その一言に集約されている。
これまでは、走り回りながらすれ違いざまに、剣で牛の頭を叩き割るという、スピード感に溢れるものだった。
しかし、今日のレベル上げは、弓の練習と称して矢を放ち、放った矢を回収するという、非常に時間効率の悪いものだ。
ルイスは、ジョブチェンジの効率が悪くても、あまり気にならない。
出来るだけ効率が良くなるようにはするが、知らず知らずのうち、遠回りになっていたとしても、別に気にすることは無い。
生活面で効率が悪い行動をしても、何も気にならない。
しかし、レベル上げという作業は別だ。
ルイスの趣味は、レベル上げである。
強くなることではない。
強くなることも好きだが、レベル上げという作業が、大好きなのだ。
その大好きなレベル上げで、効率が悪くなるような行為は、絶対にしたくない。
それが今や、武器の練習という名目で、圧倒的に効率の悪いレベル上げを行っている。
矢が無限に使えるのなら、このレベル上げもいつも通り楽しい時間になっていただろう。
しかし現状として、矢は有限だし、回収もしなければならない。
ゆえに、全く楽しくない。
これから先、MPが必要になるようなレベル上げを始めたら、弓を使うことにしようと決め、弦を斜めに体に掛け、弓を背負い、剣を抜いた。
剣を使い、いつも通りのレベル上げを始めたルイスは、満面の笑みで、牛を狩りまくるために、駆け回り始めた。
昼食の時間、ダンジョンの外に出たルイスは、ジェシカに弓を渡し、キュリーに返しておいてほしいと頼んだ。
ジェシカはそれを了承し、昼食を食べ終わり、ルイスがダンジョンに戻った後、弓を受け取り、冒険者ギルドに向かった。
「お疲れ様です」
「おう、納品頼むぜ」
「お疲れ様ですと言われたら、お疲れ様ですと返しなさい」
「はあ~、毎度毎度うっせぇな、これ、おっちゃんが返すってよ」
「そうですか、分かりました」
「なあ、その弓って俺でも借りられるのか?」
「ええ、私の私物ですので大丈夫ですよ」
「貸してくれねぇか?」
「…まあ、いいでしょう」
「教えてくれよ、使い方」
「なぜですか?」
「いや、特に理由はねぇけど」
「ルイスさんと一緒にダンジョンにでも潜りたいんですか?」
「ち、ちげえし!」
一瞬で顔が真っ赤になるジェシカ。
キュリーは、好きな相手と出来るだけ一緒にいたいという思いを理解しながらも、ジェシカに忠告をした。
「練習するのはいいでしょう。しかし、ルイスさんと共にダンジョンに潜るのはやめておいた方がいいです」
「なんでだよ!」
「終着点が違います。あなたが、世界一の天才だったとしても、ルイスさんが将来身に付ける強さには、遠く及びません」
「はあ?やってみねぇとわかんねぇだろ」
「チャレンジは自由です。しかし、不可能なこともあると、知っておきなさい」
「うるせえな、俺も強くなればいいんだろ?おっちゃんくらいに」
キュリーはため息をつきながら、ジェシカを連れて、誰もいない会議室に入った。
ジェシカも、文句を言いながらも、キュリーの誘導に従う。
「私がなぜ、あなたを拾ったと思いますか?」
「…いや、それは感謝してるよ」
キュリーは、ジェシカからの感謝の言葉を、意図的に無視した。
「あなたに価値があったからです」
「価値?」
「人は、ジョブにつくことが出来ます。それは知っていますね?」
「ああ」
「ジョブは、本人の行動や感情に起因して、発現すると言われていますし、ほぼ間違いなく事実です」
「…それがなんだよ」
「しかし、ごく稀に、例外が生まれます」
「…だから、それがなんだよ」
「あなたがその例外です」
「はあ?」
ジョブは、1つ1つに転職条件が定められている。
その条件を満たすことで、そのジョブへのジョブチェンジが可能になる。
しかし、ごく稀にではあるが、生まれた時から、ジョブチェンジ可能なジョブを持っていることがある。
そういうジョブで有名なジョブは、勇者ジョブや魔王ジョブ。
数十年に1度、このどちらかのジョブを持つ者が生まれる。
それ以外にも、一般的に上級職と考えられているジョブを持って、生まれてくる者もいる。
可能性としては、非常に低いが。
その上級職だろうジョブを持っていたのが、ジェシカだ。
偶然にも、その事を知ったキュリーは、ジェシカを拾い、この街の孤児院に放り込んだ。
「え?でも俺のジョブって戦士だろ?」
「はい、まだジョブについていない状態でしたので、戦士にジョブチェンジさせました。ジョブについていない状態ですと、転職可能ジョブを見る方法が存在しますので」
「…なんなんだよ、その、俺が持ってたジョブって」
「それはそのうち分かるでしょう。しかしおそらくですが、非常に強力なジョブでしょう」
「…じゃあさ、おっちゃんくらい強くなれるだろ?」
「それは無理です。もしあなたが最強のジョブを持っているとしても、ルイスさんには追い付けません」
「だから!追い付けるかも知れねえだろ!」
「…努力するのは自由です。しかし、追い付けないと知って、絶望することが無いよう、忠告したまでです」
「…キュリーばあが何と言おうと、俺は努力する。今決めた」
「…分かりました。この話は、他言無用ですよ」
「わかってるよ」
キュリーとジェシカは、会議室を後にした。
ーーーーーー
武道家の基本設定
レベルアップ時のステータス上昇値
HP 1
MP 0
力 3
丈夫さ 1
魔力 0
精神力 1
素早さ 2
器用さ 0
転職条件
素手で魔物を殺した経験
覚えるスキル
10 掌底打ち 掌底で、下から突き上げるように攻撃 対象に力の1.5倍ダメージ 消費MP4
20 回し蹴り 体を半回転させながら、蹴りを繰り出す 範囲内の対象に力の1.5倍ダメージ 消費MP6
30 正拳突き 真っ直ぐ拳を打ち抜く 対象に2倍ダメージ 消費MP20
40 踵落とし 脚を振り上げ、踵を落として攻撃 対象の素早さを少し下げる 消費MP50
50 金剛拳 1分間力1.5倍 消費MP50
100 ??? 消費MP30
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます