第39話 船乗りへのジョブチェンジ

 弓士ジョブのレベルが50になったルイスは、いつも通り公衆浴場で、セルフジョブチェンジを発動した。


 戦士Lv50,旅人Lv50,盗賊Lv50,剣士Lv50,槍士Lv50,武道家Lv50,弓士Lv50,僧侶,魔術師,商人,医師,調合士,船乗り,踊り子,吟遊詩人,芸人,画家,木工士,釣り士,料理人


 今回はたった2日でレベルが50になった。

 そのため、船乗りと木工士の2つのジョブをLv50まで上げても、4日もあれば、魔術師にジョブチェンジが出来る。


 しかし、弓も練習したい。

 魔術師ジョブにつけば、なおさらMP吸収のスキルが活きてくるだろう。

 冒険者ギルドに帰り、もしも受付にキュリーが居れば、弓を教わろう。

 受付にいた男の職員でも良いのだが、あの職員は少し、いや、かなり愛想が悪い。

 そのため、ルイスは出来ればキュリーから指導を受けたい。


 ルイスはとりあえず船乗りへのジョブチェンジを済ませ、冒険者ギルドに戻った。

 冒険者ギルドの受付には、キュリーが座っている。


「お疲れ様です」

「あ、キュリーさん、お疲れ様です、お帰りなさい」

「はい」


 お帰りなさいと言ったのにも関わらず、はいとしか返さない無愛想なキュリー。

 愛想が悪くないだけで、とても愛想が良いとは言えない。

 しかし、愛想が悪くないだけで、とても印象が良くなるのは、あの職員を見た後だからだろう。


「キュリーさんに、ちょっとお願いがあるんですけど…」

「はい、なんでしょう」

「弓の使い方を、教われないかなと思いまして」

「弓ですか?なぜでしょうか、その剣で十分では?」

「えっと…弓士のジョブレベルが50になると、MP吸収のスキルを覚えるんです」

「なるほど、非常に便利なスキルですね」

「はい、それで、弓を使えるようになろうかと」

「ルイスさんの器用さの数値であれば、すぐに使いこなせるでしょう?」

「え?」


 ルイスは、冒険者ギルドで借りた弓を何本も壊してしまったことを、キュリーに説明した。

 キュリーはなるほどと言った後、寮への扉をくぐり、戻ってきた時には、1つの弓を持っていた。


「この弓なら、全力で使っても大丈夫でしょう」

「え?本当ですか?」

「はい、大丈夫です。試しに引いてみてください」

「…はい、分かりました」


 ルイスは、若干怯えながら弦を引き絞った。

 ルイスにとって弓とは、ほんの少し力を入れただけで、簡単に壊れてしまう物というイメージだ。

 そのため、本当に少しずつ力を入れていった。

 そのまま力を強くしていっても、キュリーの言うとおり、どれだけ力を入れて弦を引き絞っても、弓は壊れない。


「おお~、本当に壊れませんでした」

「はい、それを貸しますから、もう弓の指導は必要無いでしょう」

「いや、でも一応教えてもらえれば…」

「必要無いと思います」

「えっと、分かりました…」


 ルイスは、キュリーから借りた弓を持ち、自室に戻った。



 次の日の朝、ルイスが寮から出て冒険者ギルドに入ると、受付に座るキュリーと目が合った。

 キュリーと目が合うのは当然だ。

 寮から出て、受付の横を通る時、受付に座る職員は全員、横を通る者を見るからだ。


「あ、おはようございます」

「おはようございます」


 他の職員が座っている時は、挨拶をしても、ぶっきらぼうな返事が返ってくるだけだが、キュリーの場合は、丁寧な挨拶が返ってくる。

 そのため、一言二言会話をしなければならないような気分になる。


「今日は、この弓で6階層に行こうと思います」

「それはやめた方がいいでしょう」

「え?でも、5階層の魔物はもう余裕なんですよ?」

「B級ダンジョンは、6階層から、次元が違います」

「はぁ、そうなんですか?」

「はい、5階層まではただの牛ですが、6階層からは、ミノタウロスになります」

「へぇ~」


 ルイスの頭では、牛の頭を持ち、人間の体を持つ魔物が想像されている。

 ムキムキの体で、上半身を露出させ、棍棒を持っている姿。

 誰もがミノタウロスと聞いて、想像するだろう姿だ。


「一応の目安として、魔物にはランクが設定されています」


 魔物には、G~Aの7段階で、危険度が設定されている。

 危険度はほとんどの場合で、強さを表す。

 D級ダンジョンに出現する兎の危険度はF~D。

 1~5階層に出現する兎がFランクで、5~9階層に出現する兎がEランク。

 10階層に出現する兎が、Dランクだ。

 そのダンジョンに出現する、最も強い魔物の強さが、ダンジョンのランクになっている。


 C級ダンジョンは、E~Cランクで構成されている。


 そして、B級ダンジョンは、C~Aランクで構成されている。

 1階層に出現する牛が、Cランク。

 2~5階層に出現する牛がBランク。

 そして、一般的な冒険者には縁の無い6~10階層に出現する魔物が、ミノタウロス。

 その危険度はAランク。

 本来であれば、A級ダンジョンと呼ばれるべきダンジョンではあるが、B級ダンジョンと呼ばれている。


 昔は普通のB級ダンジョンであり、6階層以降も、牛の魔物が徐々に強くなる、普通のダンジョンだった。


 それが突然、6階層以降に出現する魔物が、牛からミノタウロスに変化した。

 なぜかは分かっていない。

 若かりしキュリーが、B級ダンジョンの調査を行った次の日、ミノタウロスが出現するようになったという事実だけが、残されている。

 そのため、現在ではA級ダンジョンだが、昔からB級ダンジョンと呼ばれていたため、そのままの名残で、いまだにB級ダンジョンと呼ばれている。


 そしてルイスは、ダンジョンに出現する魔物が変化すると聞いても、別に何とも思わない。

 ダンジョンに出現する魔物の変化など、有史以降起きたことがないのをルイスは知らない。

 そのため、特に疑問を持つことも無い。


「へぇ~、そんなことがあったんですね」

「はい、非常に不可解な現象です。私も心当たりが全くありません」

「キュリーさんも、知らない事ってあるんですね」

「はい、その通りです」


 ルイスがこの世界に来て、キュリーが何かを知らないというのは初めてだ。

 そのため、キュリーに知らない事があるとは考えてもいなかった。

 キュリーに聞けば、知りたいことを全て教えてくれる。

 ルイスにとってキュリーとは、何でも知っている、広辞苑のような存在だ。


「では、今日のところは5階層に潜って来ます」

「分かりました、6階層に降りる時は、お知らせください。同行します」

「ありがとうございます」


 ルイスは6階層に降りるのをやめ、5階層でレベル上げをすることに決めた。

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