第38話 弓士へのジョブチェンジ
次の日の朝、今日もキュリーのいない受付に、ルイスは向かった。
弓を借りるためだ。
愛想の悪い受付の男から弓を受け取り、C級ダンジョンに向かう。
朝一で弓士のジョブを出現させ、ジョブチェンジする予定だったが、そううまくはいかなかった。
ルイスが、C級ダンジョンの1階層で、羊に向かって弓を構え、引き絞る。
その瞬間、弓に張ってある弦が切れた。
力加減を考えず、全力で引き絞ったから当然だ。
ルイスの力で、初心者用の非力な者でも使える弓を全力で引き絞れば、簡単に弦が切れる。
ルイスはとぼとぼと、冒険者ギルドに戻った。
「あの~、すみません」
「ん?なんだ?」
「えっと~、弓に張ってある紐が切れてしまいまして…」
「ああ、これは弦って言うんだ。しかし、なぜ全力で引き絞った?」
「…すみません、初めてだったもので…」
「なぜ教えてくれと言わなかった?」
「…出来るんじゃないかなと…」
ルイスは、冒険者ギルドの中で、弓の力加減を教わった。
これが非常に難しく、矢がなんとか飛ぶようになるまで、5本の弓をダメにしてしまっている。
「さすがに弁償してもらうぞ」
「…すみません」
ルイスは現金を持っていない。
キュリーがいなければ、お金を引き出す方法も分からないと説明し、冒険者ギルドの預金から、弁償することになった。
「…お前か、キュリーさんが目をかけてる新人ってやつは」
「…そうですね、大分お世話になってます」
「弁償の事はキュリーさんに言っておく」
「あ、すみません」
「…ご利用、ありがとうございました」
「え、あ、はい、こちらこそ、ありがとうございました」
「では、お気をつけて」
「…はい、行ってきます」
突然丁寧な言葉遣いになり、腰を折って頭を下げてきた受付の男に、丁寧に返礼するルイス。
ルイスはここ最近、気づいてきたことがある。
キュリーが、ちょっとおかしいことだ。
例えば防具屋。ぼったくり価格でルイスに防具を売り付けようとしていた防具屋のおじさんが、キュリーの名前を出すと、突然腰が低くなった。
この受付の職員もそうだ。
ルイスとキュリーとの繋がりが分かると、突然丁寧に礼を始めた。
それに、キュリーは強すぎるのではないかとも思い始めた。
ルイスをもってしても、キュリーが魔物を攻撃する際の剣筋を視認出来ない。
たまに、ダンジョンの中で他の冒険者の戦いを見ることがあるが、ルイスから見ると、少し遅い動きに感じる。
キュリーは何者なのだろうか。
と、少し考えたルイスだが、すぐに興味を失った。
キュリーが何者でも、ルイスには関係無いし、ルイスも異世界から来ていることを隠している。
キュリーにも隠したいことがあるだろうし、ただの職員と冒険者の関係だ。
そこまで込み入った事を話す理由も無い。
ルイスは、弓士であろうジョブを解放するため、C級ダンジョンに向かった。
弓を持ち、C級ダンジョンの1階層で、ルイスは羊を前に立ちつくしている。
「普通、武器持ったら攻撃力って上がるんじゃないの?」
ルイスの不満も最もで、どうやっても羊を殺せないのだ。
ルイスがこの初心者用の弓を使っても、放たれる矢はひょろひょろという擬音が似合うスピードしか出ない。
これ以上のスピードを出そうとすれば、弓が壊れてしまう。
弓がもっと上級者用で、力が強い者向けの弓であれば、放たれる矢のスピードも、違ったものになっていただろう。
しかし、ルイスが持つのは初心者用。
ルイスは、羊を弓で殺すことを諦め、D級ダンジョンに向かうことにした。
ルイスはその前に、もうB級ダンジョンの前にジェシカが来ていてもおかしくない時間になっているため、ジェシカに一声かけるつもりだ。
その時に、昼食ように、一匹だけB級ダンジョンの1階層で牛でも狩って渡そうと決めた。
B級ダンジョンに着くと、やはりもうすでにジェシカがルイスを待っていた。
ルイスはすぐに1階層で牛を狩り、ジェシカに塊肉を渡して、D級ダンジョンに向かった。
今のルイスから見ると、弱すぎる兎だが、弓で矢を当てるとなると、当てられる気がしない。
そのため、兎を踏みつけ、地面に固定しようとしたルイスだが、そのまま踏み潰してしまった。
逃がさないように、強めに踏んでしまったためだ。
2匹目の兎を、優しく踏みつけ、地面に固定する。
この時点で、すでに兎は瀕死に陥っているが、ルイスにとっては好都合。
弓に矢をセットし、ぐったりとしている兎に、上から出来るだけ近づける。
首の当たりを狙い、弓の弦を切らないように、慎重に発射した。
一応、矢は兎の首に刺さったが、兎は死んでいない。
そのため、ルイスは兎が死ぬまで、この姿勢のまま待つことにした。
セルフジョブチェンジを発動し、その画面を見たまま、兎が死ぬのを待つ。
数分後、セルフジョブチェンジに無事に弓士が表示された。
兎から足をおろし、そのまま弓士へのジョブチェンジを済ませる。
弓士の転職条件を満たすのは、本当に大変だった。
何本も弓を壊し、弓を壊さないようにする力加減を覚え、それで手に入れた技術は、ひょろひょろとしたスピードでしか進まない矢を放つ技術だけ。
無事に弓士にジョブチェンジすることは出来たが、本当にそれだけだ。
まあそれは、槍士も変わらないが。
ルイスは、1度冒険者ギルドに戻り、弓を返却した後、ジェシカの待つB級ダンジョンに向かった。
弓士へのジョブチェンジを済ませたルイスは、これまで狩場にしていた4階層から、5階層に降りた。
5階層の魔物は、色が赤くなっただけの牛。
これまでとサイズは変わっていない。
しかし、素早さが大きく上昇している。
ルイスはそんな牛の頭に、いつも通り剣を振り下ろす。
一撃で絶命した牛は、そのまま横倒しになった。
「なんか…余裕だったな」
ルイスは、余裕であることはありがたいが、余裕過ぎるんじゃないかと思いながら、レベル上げをスタートさせた。
レベル上げスタートから2日。
弓士ジョブのレベルは50になった。
ルイス・キング・ロイドミラー
HP 500
MP 150
力 700
丈夫さ 250
魔力 50
精神力 150
素早さ 600
器用さ 400
ジョブ
戦士Lv50,旅人Lv50,盗賊Lv50,剣士Lv50,槍士Lv50,武道家Lv50,弓士Lv50
ジョブチェンジ可能
スキル
叩き割り,回転切り,吸収切り,獣切り,地砕き
種火,飲み水,虫除け,安眠,地図
罠看破,聴力強化,煙幕,鍵開け,縄抜け
剣の舞,一刀両断,ドラゴン切り,精神統一
薙ぎ払い,槍投げ,3連突き,獣突き,風壁
掌底打ち,回し蹴り,正拳突き,踵落とし,金剛拳
連射,山打ち,乱れ打ち,鳥打ち,吸収矢
ユニークスキル
マイステータス閲覧
セルフジョブチェンジ
転職条件閲覧
成長限界無効化
弓士のレベルが50になった瞬間、いつも通りスキルを覚えた。
そして直感的に、スキルの使い方と、スキルの効果が分かった。
連射は別にいい。MPを使って自動で体を動かし、3本の矢を連射するというもの。
山打ちも、対象に当たるように上に打つという効果。
乱れ打ちは、ショットガンのように、5本の矢を一気に打ち出すというもの。
鳥打ちは、鳥へのダメージを増やすという、他のジョブでも似たような効果を持つスキルがある。
ここまでの4つは、特に何も思わず、どうせもう弓なんか使わないしな~、ぐらいにしか考えていなかったルイスは、Lv50で覚えたスキルに衝撃を受けた。
吸収矢は、与えたダメージの10%のMPを吸収する。
「え、うそ…」
ルイスはこれまで、MPの回復手段を持っていなかった。
MPを回復させるには、睡眠を取るしか無い。
だから、飲み水スキル以外には、極力MPを使わないようなレベル上げをしてきた。
しかし、吸収矢というスキルを使えば、MPのことを考えることなく、レベル上げが出来るようになる。
ルイスは、弓を練習することに決めた。
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