第35話 ジェシカの心

 ルイスは今、ジェシカと昼食を取っている。


 ジェシカが、どこからか持ち込んだ鉄板の上で、次々とスライスされた牛肉が焼かれ、そこに塩をまぶし、口に運んでいる。


 最近のジェシカの成長は著しい。

 毎日にょきにょきと背が伸び、痩せぎみだった体は少しふっくらとしてきており、どこからどう見ても、健康的な体をしている。


 そんなジェシカは、ルイスに恋をしている。

 別にルイスと何がしたいとかは無く、ただ一緒にいられるだけで楽しいし、なぜか嬉しい。

 ピュアな初恋である。


 ジェシカにとってのルイスとは、

 美味しい肉をこれでもかと与えてくれ、

 抱き締めたり、振り回されたり、いつも楽しくさせてくれ、

 毎日、ジェシカに肉を取ってくるために、一生懸命努力してくれて、

 でもジェシカがいてやらないと、ご飯を食べられなくて、困ってしまう存在。

 そしてイケメン。


 こんなもの、恋をするなという方が、無理な注文だろう。


 しかし、ルイスはそんなことには気づいていない。

 なぜなら、ルイスにとって、ジェシカは我が子のような感覚であるし、男の子だ。

 いや、男の子だった。


 二人で焼肉を食べながら、昨日は孤児院で誰々がこうした。

 誰々が可愛かったと、楽しそうにお喋りするジェシカを眺めるルイスは、困惑している。


 ジェシカの胸の辺りが、少し膨らんでいるような気がするのだ。

 ルイスの心の中は、ん?んん?え?ん?といったところ。


 ジェシカの周辺の者達は、ジェシカのことを10歳くらいだと思っている。

 ジェシカ自身も、それくらいだと思っている。

 これまでは、栄養が不足気味で、元々成長が遅いタイプだったこともあり、それくらいの年齢だろうと思われているのだ。


 別の街のストリートチルドレンで、たまたまその街に出向いたキュリーに捕獲され、この街の孤児院で過ごすことになったジェシカは、ストリートチルドレンとして極限の生活を送っていたため、自分の年齢など考えたこともなかった。


 ジェシカの本当の年齢としては、13歳。

 もうそろそろ14になろうかという時期。

 そういう意味で言えば、14歳と言ったほうが良いかもしれない年齢。

 その年で、急に栄養満点の食事に切り替わったため、数年分の成長期が、どっと押し寄せて来た。

 それゆえに、急に胸が膨らんできた。


 昨日の出来事を楽しそうに、ルイスに報告するジェシカの話をぶったぎって、ルイスの口から言葉が飛び出た。


「ジェシカってさ、女の子?」

「はあ!?」


 ルイスは困惑しているのだ。

 胸が膨らみ始めるような年齢の女の子を、毎日抱き締めたり、持ち上げたり、振り回したり。

 思春期の女の子にしていい行動では無い。

 場所が違えば、犯罪者になっても文句は言えない。

 そんな困惑から、ポロッと、口をついて出てしまった。


「お、お、お、女の子じゃねぇし!」

「え?あ~、うん、分かった」

「わ、分かったなら良いんだよ」


 ジェシカは最近、女になっていく自分を自覚している。

 ルイスを男として見ていることも。

 そしてルイスが、自分の事をただの子供だと思っていることも、自覚している。

 そんな恋心を見透かされてしまったようで、急に恥ずかしくなり、とっさに否定してしまった。


 しかし、ジェシカの本心など知らないルイスは、気づいてしまった。

 ジェシカの心に。

 胸が膨らむなど、間違いなく女の子なのだろう。

 しかし、必死の否定。

 ここから導きだされる答えは1つ。


 ジェシカの心は、男の子なのだ。


 確かに、体は女の子なのかもしれない。

 しかし、心は男の子なのだ。

 金八先生でもやっていたし、そういうジェンダー問題について、ルイスは知っている。

 実際に会ったことはないが、知識としては知っているし、同性同士の結婚くらい、認めれば良いじゃないというスタンスだった。

 なのでルイスは、ジェシカの心が男の子だということを、すぐに受け入れた。

 別に今まで通りか、と。


 ジェシカは、急に喋らなくなり、黙々と肉を食べている。

 ルイスも、自分が傷つけてしまったと自覚しているため、どう声をかければいいか分からない。


 いつもなら楽しい食事も、今日は沈黙のまま、終わってしまった。



 なんとなく、気まずいまま終わってしまった昼食の後、ルイスは3階層から4階層に降りた。


 武道家のレベルも28まで上がり、ステータスも力と素早さが大きく伸びている。

 そのため、いけるだろうと考えてのことだ。


 しかし、数日前に死にかけた痛みは忘れていない。

 そのため、初めて3階層に潜った時よりも、慎重に行こうと決めている。


 4階層の牛は白い。

 その白い牛が、ルイスに攻撃をしようと、走り出している。

 ルイスはその牛に素早く駆け寄り、頭に剣を振り下ろす。

 これまで通りの一撃だ。


 4階層の牛は、3階層の牛と、それほど変わらない素早さしか持っていない。

 その分、攻撃力が大きく上昇しているが、当たらなければ問題ない。


 これまでならば、ここも余裕だったから、もう1つ降りようとなっていたのだが、痛みを知っているルイスは違う。


 4階層である程度レベルを上げ、5階層の魔物相手にも余裕で行けると思い始めたら降りる。

 そんな慎重さを身につけている。

 そのため、しばらくは4階層でレベル上げをすることに決めた。



 ーーーーーー


 槍士の基本設定


 レベルアップ時のステータス上昇値

 HP 1

 MP 0

 力 3

 丈夫さ 2

 魔力 0

 精神力 0

 素早さ 1

 器用さ 1


 転職条件

 槍で魔物を殺した経験


 覚えるスキル

 10 薙ぎ払い 範囲内の対象に力の1.5倍ダメージ 消費MP6

 20 槍投げ 槍を投げる際、軌道が曲がらない 消費MP5

 30 3連突き 素早く3回攻撃 消費MP10

 40 獣突き 獣へのダメージ3倍 消費MP5

 50 風壁 槍を高速回転させ、その一面を風でガード 効果時間5秒間 消費MP30

 100 ??? 消費MP80

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