第32話 槍士へのジョブチェンジ

 冒険者ギルドに戻ったルイスは、受付にいるはずのキュリーを探したが、見当たらない。

 そのため、受付に1人で座っている、男性に声をかけた。


「あの~、すみません。槍って借りられますか?」

「ん?ああ、ちょっと待ってろ」


 とてつもなく愛想が悪い男が、奥の部屋に入っていく。

 男が入って行った部屋は、冒険者ギルドの倉庫であり、そこには貸し出し用などの、様々な武器が仕舞われている。

 その中から、鉄で出来た槍を取り出し、ルイスに渡す男。

 ルイスはそれを受け取り、男にお礼を言った。


「あ、すみません、ありがとうございます」

「ああ、使い終わったら受付にいる者に返却しろ」

「はい、分かりました」


 キュリーならばかけてくるはずの、気をつけてや、お疲れ様などの言葉も無い。

 ルイスは、もうちょっと教育してから、受付に座らせた方が良いんじゃないかと思いながら、冒険者ギルドを出た。


 槍を右手に持ち、のんびりと歩きながら、どうやって槍で魔物を倒そうかと考えている。


 いつも使っている、剣とは名ばかりの鉄の棒の場合は、上から振り下ろし、頭をかち割ればいい。

 しかし、今ルイスが持っている槍は、基本的に刺すための武器だろう。

 剣と同じく頭を狙い、振り下ろすのではなく突き刺せばいいのだろう。


 B級ダンジョンに戻って来たルイスは、1階層の牛の頭に、鉄で出来た槍を突き刺した。

 初めて槍を使ったにも関わらず、1発で牛の頭に直撃させることが出来た。


 ガッ、という音が響き、牛を殺すことが出来たが、槍は折れている。

 穂先は吹き飛び、柄の部分も真っ二つになっている。

 鉄の槍は、牛の頭蓋骨を貫通することが出来ず、牛はルイスの高い力によって、撲殺された形になった。

 その際、牛の硬い頭蓋骨と、ルイスの高い力で板挟みになり、限界を越える圧力がかかったため、弾け飛ぶように折れたのだ。


「…やば」


 ルイスは3本になった槍を拾い、不安そうに眺める。

 人から借り受けた物を壊してしまった。

 鉄でできており、頑丈そうに見えたが、たった1度の攻撃で使い物にならなくなってしまった。


「怒られたりするかな…」


 ルイスは不安になりながらも、転職条件閲覧を発動させた。

 そこにはしっかりと槍士が追加されており、これで良かったのかと安心した。

 使った武器が壊れても、魔物さえ殺しておけば良いらしい。


「どうしよう、これ」


 そんなことよりも、ルイスは壊れた槍をどうしようかと悩んでいる。

 さすがに、借りた物を修復不可能な状態で返却しなければならないのは、気が引ける。

 しかし、とりあえず謝罪をするのが先だろうと考え、ただの鉄の塊と化した、槍であった物を抱え、ルイスは冒険者ギルドに戻った。



 冒険者ギルドに戻ったルイスは、どう謝罪しようかと考えながら、受付に目をやった。

 そこに座っているのは、先ほどの男では無く、キュリーだった。

 なぜかホッとしたルイスは、キュリーに詳細を説明するため、話しかけた。


「キュリーさん、お疲れ様です」

「はい、お疲れ様です。それは?」

「えっと…先ほど借りた槍なんですけど…」

「折れていますが」

「はい、なんかこう、簡単に折れてしまいまして…」

「そうですか」

「はい、すみません…わざとじゃ無いんですけど…」

「別に構いません。いつかは壊れるものですので」


 いつも通りの無表情で、別に構わないと言われても、罪悪感がある方からすれば、罪を追及されてしまうような気分になってしまう。

 ルイスは縮こまり、申し訳なさそうに頭を下げた。


「あ、いや、ほんとすみません」

「ですから構いません。もともと、ひびでも入っていたのでしょう」

「…いや、でも、壊してしまったことにかわりはないですし…」

「ですから、構いません」

「…本当にすみません…」


 そこから何度か、不毛な押し問答を繰り返し、やっとルイスの持つ、罪悪感が薄まった。

 キュリーからしてみれば、すぐに壊れるような武器を貸し出した、冒険者ギルド側にも責があると思うが、ルイスは違うらしい。

 最後には、弁償しますと言い出した。


 鉄の槍も、安い物では無いが、別に弁償を求めるほどの物では無い。

 その旨を説明して、やっとルイスは納得した。


「じゃあ、ダンジョンに戻ります」

「さっきまで、ダンジョンにいたのでは?」

「え?そうですけど?」


 なぜまた当然のようにダンジョンに戻るのか。

 B級ダンジョンに、1日中潜る必要など無いだろう。


「なぜそこまでダンジョンに潜り続けるのですか?」

「え?レベルを上げるためですよ?」

「…そうですか、夜になる前に帰ってくるようにしてください」

「はい、分かりました。ご迷惑をお掛けしました」


 ルイスは冒険者ギルドを後にした。

 冒険者ギルドの受付には、その背を少し心配そうに、見つめるキュリーが残された。



 ルイスはダンジョンに向かう道中、槍士にジョブチェンジを済ませ、ステータスを確認した。



 ルイス・キング・ロイドミラー


 HP 351

 MP 100

 力 353

 丈夫さ 152

 魔力 50

 精神力 100

 素早さ 351

 器用さ 201


 ジョブ

 戦士Lv50,旅人Lv50,盗賊Lv50,剣士Lv50,槍士Lv1


 スキル

 叩き割り,回転切り,吸収切り,獣切り,地砕き

 種火,飲み水,虫除け,安眠,地図

 罠看破,聴力強化,煙幕,鍵開け,縄抜け

 剣の舞,一刀両断,ドラゴン切り,精神統一


 ユニークスキル

 マイステータス閲覧

 セルフジョブチェンジ

 転職条件閲覧

 成長限界無効化



 これでジョブチェンジも4回目、感動が薄れても良さそうなものだが、ルイスの顔は、満面の笑みだ。

 レベルを無限に上げ続けるのも、楽しいだろうが、やはりこういう区切りがあった方が良い。

 どんどん強くなっているというのを、心から実感出来る。


 ルイスはスキップで、B級ダンジョンに向かった。



 ーーーーーー


 剣士の基本設定


 レベルアップ時のステータス上昇値

 HP 2

 MP 0

 力 3

 丈夫さ 0

 魔力 0

 精神力 0

 素早さ 2

 器用さ 1


 転職条件

 剣で魔物を殺した経験


 覚えるスキル

 10 消費MP

 20 剣の舞 対象に2回攻撃 消費MP5

 30 一刀両断 一撃だけ与えるダメージ2倍消費MP 20

 40 ドラゴン切り ドラゴンに与えるダメージ3倍 消費MP 5

 50 精神統一 1分間力1.5倍 消費MP50

 100 ??? 消費MP 200

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