第30話 テーブルマナー

 冒険者ギルドに併設されている、冒険者ギルド職員用の寮。

 その一室である、ルイスの部屋のベッドには、ジェシカが寝かされている。


 ルイスの部屋に、ジェシカを運び込んだキュリーは、ルイスのベッドのあまりの臭いに顔をしかめ、新しいシーツに交換した。

 汗だくのまま、2日間眠り続けたり、何週間も同じ服を着続けたりしていれば、ベッドが悪臭を放ち始めるのも当たり前である。


「そんなに臭いですか?」

「はい」

「…そうですか」


 キュリーはジェシカを寝かせる前に、新しいシーツに交換し、ジェシカが臭くならないように配慮した。

 もっともジェシカであれば、ルイスがどれだけ臭くても、いい匂いだと感じるだろうが。


 そこに寝かされて比較的すぐ、ジェシカは目を覚ました。


「おっちゃん!」

「…びっくりした~、おはよ」

「おっちゃん!生きてるか!?」

「え?う、うん、死にそうだったけど」

「よかった~、キュリーばあが、突然おっちゃんの腹を切り裂いてよ、殺されたかと思ったぜ」

「あ~、まあ、そう見えてもおかしくないかもね」

「焦ったぜ、マジで」


 キュリーがルイスの腹を切開しようとし、それを止めようとジェシカがキュリーに飛びかかり、気がつくとルイスのベッドで寝ていたらしい。

 ルイスがそういう治療だと説明すると、最初は信じなかったジェシカだが、最後には理解し、納得した。

 なぜ突然ジェシカが意識を失ったのかは、分からないようだ。


「キュリーばあは?」

「仕事に戻るって」

「ふ~ん」

「お腹は減ってない?」

「減ってる」

「じゃあ、何か食べにいこうか」

「馬鹿野郎、外食ってすげー高いんだぞ、知らねえのか?」

「え?そんなことは無いんじゃない?」

「いやいや、母さん達が言ってたんだ。間違いねえ」

「あ~、そういう教育ね」

「そういう教育ってなんだよ」

「い~や、じゃあ、今日は助けてもらったお礼として、特別に外食しようか。高いけど」

「おっちゃん、そんな金持ってんのか?」

「どうだろ、キュリーさんに聞いてみないと分かんないけど、多分大丈夫だと思うよ」


 キュリーに現在の預金を聞いてみると、まだ150万ほどあるらしい。

 これだけあれば、どんな高級店でも大丈夫だろう。

 ジェシカに聞いてみると、何でもいいとのこと。


「では、あのレストランにしましょうか」

「え?あ、はい、分かりました」


 キュリーの一言で、行く店が決まった。

 ルイスは、キュリーも行くのかと思いながら、拒否することも出来ず、3人でレストランに入った。


 まるで宮殿のような内装に、執事のようなウェイター。

 とんでもないところだ、と思いながら食事を済ませ、キュリーが会計を済ませた。

 ルイスの預金だが。


「58万ゴールドでございます」

「お、お~」

「では、これで」



 店を出たキュリーは、冒険者ギルドへの道を3人で歩きながら、1人で考えている。

 ジェシカのテーブルマナーは、それはそれはひどいものだったが、ルイスに教わりながら、なんとか取り繕っていた。


 キュリーの予想通り、やはりルイスは、テーブルマナーを知っていた。

 耳で得た知識だけでは、フィンガーボールのことなど分からないだろう。

 それに、洗練されたナフキンの使い方。

 ナイフとフォークだけでなく、ナフキンまで使いこなしてみせた。

 何度もきちんとしたコース料理を食べていないと、身に付かないことだ。

 やはり、没落されられた貴族か何かの出身だろう。

 没落させた相手を恨んでおり、復讐するために、トラウマと闘いながらも、必死に自分を強化しているのだろう。


 自分も一時期、復讐にとらわれていたことがある。

 いつの間にか、そこまで気にならなくなっているが。


「キュリーさん、美味しかったですね」

「はい、あそこは評判ですからね」

「まあ、無茶苦茶高いですしね」


 この無邪気な笑顔を見せている青年は、夜な夜などす黒い感情と闘っているのだろう。

 年齢に似合わない、落ち着いた1面を見せることもある。

 それは、落ち着くしかない事情があったからに間違いない。


 願わくば、この青年に、幸多からんことを。



 高級レストランに行った次の日、ルイスは昨日死にかけたばかりのB級ダンジョンを走っている。


 とりあえず、2階層の魔物を狩りまくり、剣士ジョブのレベルを上げなければ、また3階層の魔物に殺されかけてしまう。

 というのは後付けで、ルイスは今日も、趣味に没頭しているだけだ。


 1階層では、他の冒険者をちらほら確認することが出来ていたが、2階層では1人も確認出来ない。

 2階層を狩場にしている冒険者は、多くても週に1度ほどしか狩りをしないからだ。


 C級ダンジョンの深層と同じく、ルイスしかいない草原を笑顔で駆け回り、牛の頭をかち割っていくルイス。

 さすがはB級ダンジョン、ガンガンレベルが上がり、今日1日でルイスのレベルは37まで上がった。



 ルイス・キング・ロイドミラー


 HP 324

 MP 100

 力 311

 丈夫さ 150

 魔力 50

 精神力 100

 素早さ 324

 器用さ 187


 ジョブ

 戦士Lv50,旅人Lv50,盗賊Lv50,剣士Lv37


 スキル

 叩き割り,回転切り,吸収切り,獣切り,地砕き

 種火,飲み水,虫除け,安眠,地図

 罠看破,聴力強化,煙幕,鍵開け,縄抜け

 剣の舞,一刀両断


 ユニークスキル

 マイステータス閲覧

 セルフジョブチェンジ

 転職条件閲覧

 成長限界無効化



 剣士で覚えたスキルは今のところ2つ。

 剣の舞は、敵に一撃攻撃を入れると、なぜか2度ダメージを与えるというスキル。

 一刀両断は、次の一撃で与えるダメージを2倍にするというスキル。


 どちらも同じダメージを与えるのだから、違いが無いと思うかもしれないが、それは違う。

 剣の舞は2回攻撃で、一刀両断は2倍攻撃だ。

 敵の防御力が高く、自分の攻撃力では、敵にダメージがほぼ与えられない場合でも、2倍攻撃ならば、ダメージを与えることが出来る。

 格下の者が、格上に勝つ可能性を生むことが出来る。

 一刀両断は、そんなスキルだ。


 30レベルを越えても、2つしかスキルを覚えなかったルイスだが、それには理由がある。

 ジョブは基本的に、レベルが10上がる毎にスキルを覚える。

 もちろん、それよりも多くのスキルを覚えるジョブもあるし、覚えるスキルが少ないジョブもある。


 しかし剣士ジョブは、30レベルまで、きちんと3つのスキルを覚えるジョブだ。

 それなのになぜ、2つしか覚えなかったか。

 それは、10レベルで覚えるスキルが、回転切りだからだ。

 回転切りは、戦士ジョブの20レベルで覚えるスキル。

 もうすでに回転切りを覚えているルイスは、10レベルになっても、なにもスキルを覚えないという結果になった。

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