第28話 B級ダンジョン

 B級ダンジョン『牛の牧場』は、C級ダンジョンと同じく、草原のフィールドだ。

 C級ダンジョンと同じように、少し離れた場所にいる牛も、視界に収める事が出来る。


 そんなB級ダンジョンにいるキュリーは、牛と対峙している。

 目の前にいる牛の首を、一瞬で切り落としながら、ルイスを振り返る。


「おお~、さすがですね」

「いえ、これくらい普通です」

「あ、そうなんですか」

「はい」


 ルイスが視認出来ない速度で細い剣を振るい、牛の首を切り落としたキュリー。

 自分が視認出来ないくらいの速度で剣を振ることが出来るのが、この世界の普通らしいと理解したルイスは、高みを目指そうと、決意を新たにした。


「では、やってみてください」

「はい」

「B級ダンジョンに出現する魔物は、総じて防御力が低いので、羊を倒せるステータスであれば、あまり力をいれなくても倒せるでしょう」

「分かりました」


 牛の前に立つルイス。

 牛は、その巨体からは考えられない速度でルイスに突っ込んだ。

 それを難なく避けるルイス。

 牛がルイスの方を向いた瞬間、牛の頭に軽く剣を振り下ろした。

 全力の半分ほどの力であったが、牛は絶命した。


「本当に軽くで倒せました」

「はい、素早ささえ上回っていれば、効率良く狩れる雑魚です」

「そうですね」


 牛の死体を、ダンジョンの入口に運ぼうと、持ち上げようとしたルイス。

 しかし、重すぎて全く持ち上がらない。


「おっもー!」


 歯を食いしばって力を入れるが、全く持ち上がる気配が無い。

 そんな牛を、片手で軽々と持ち上げながら、キュリーはルイスに言葉をかけた。


「改良した台車と一緒に、この牛もジェシカに渡しておきましょう」

「お、お~、すげ~」

「いいですか?渡しておきますよ?」

「あ、はい、お願いします」

「いえ、構いません。どうしますか?私はギルドに戻りますが」

「あ、じゃあ、もうちょっと狩っていこうと思います」

「分かりました。運び出す際は、持ち運べる程度に切り分ければいいでしょう」

「はい、そうします」


 片手で牛の腹を掴み、地面に擦らないよう、手を横に突き出し、ダンジョンの入口に向かうキュリーを、ルイスは見送った。

 3つのジョブを50レベルまで上げ、剣士ジョブも27まで上げているルイスでも、全く持ち上がらなかった牛を、風船でも運ぶように持ち上げているキュリー。


「あれがこの世界の普通なのか~」


 ルイスは少し離れた場所で地面に生えた草を食べている牛目掛け、走り出した。


 それから二時間ほどレベル上げをしたルイスは、1度ダンジョンから出ることにした。

 ジェシカが来ているかもしれないからだ。

 来ているのに、ルイスが出て行かなければ、長い時間ひとりぼっちで、寂しい思いをさせることになる。

 そうなると申し訳ない。


「ここら辺が、サーロインとかだったような気がするけど、いや、ここだったっけ?」


 ルイスは牛をなんとか解体し、胴体部分のフィレやロースやサーロインを、素人の目利きで選び抜き、なんとか運び出した。


 切り分けた肉を、持ちづらそうに運びながら、ダンジョンの入口に向かうルイス。

 D級ダンジョンに潜っていたころに使っていた袋を持ってくればよかったと考えながら、ダンジョンの外に出る。

 ダンジョンの入口には、ジェシカが来ていた。

 出て来て良かったと安堵しているルイスに、ジェシカが声をかけた。


「よお、おっちゃん」

「やっほ~、来てくれてたんだ」

「おう、昼飯いるだろ?」

「いるいる、ありがと~」


 お礼を言いながら、ルイスがジェシカを抱き締めて頭を撫でる。

 一生懸命切り出した肉は、地面に転がされた。

 ルイスにとって、自分が食べる肉よりも、ジェシカの頭を撫でることの方が、優先順位が高い。


「ちょ!やめろよ!」

「うりうり~!」

「うわ!振り回すなよ!」


 いつも通りわちゃわちゃと遊び、疲れて荒い息になってきたジェシカを解放する。

 ルイスは毎日どんどん力が強くなっていることを自覚している。

 少し力加減を失敗するだけで、ジェシカをミンチのようにしてしまうことも。


 だからできるだけ毎日、ジェシカを持ち上げたり、抱き締めたりして、力加減を練習している。

 長い間ジェシカと触れ合わなければ、力加減を忘れてしまいそうで、怖いのだ。

 力加減を忘れてしまえば、こうしてわちゃわちゃと遊ぶことも出来なくなる。

 ルイスは、このふれあいが無くなるのが嫌なのだ。


「あ、キュリーさんから受け取った?」

「おう、くそでけえ牛だろ?貰ったぜ」

「そっか、あと台車も改良してくれてると思うんだけど」

「あ~、だからあんなでけえ牛でも楽に運べたのか」

「へえ~、そんなに違うんだ」

「すげえ違った、兎くらいの重さにしか感じなかったな」

「魔道具ってすごいんだね~」

「どうなんだろうな、俺あの台車しか知らねえし」

「それもそっか」

「じゃあ、これ焼いとくぜ?」

「うん、よろしく、あ、火だけつけていくよ」

「おう」


 ジェシカが組んでいた焚き火の準備に、種火スキルで火をつけ、ルイスはダンジョンの中に戻った。


 たった二時間ほどのレベル上げだったが、ルイスのレベルは27から29に上がっている。

 やはり1階層とはいえ、C級ダンジョンより、経験値効率が良いようだ。


 しかし、1階層に出現する魔物は、余裕をもって倒せる。

 ルイスは、2階層に降りても良いかもしれないと思い。

 そのまま2階層へ降りる階段へ、歩を進めた。

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