第27話 10階層

 3人で買い物に行った次の日。

 真新しい服を着たルイスの姿は、ダンジョンにあった。


 前日の買い物で、自分の服を数着買い、ジェシカにも数着、キュリーは服を数十着と装飾品を買っていた。

 なにやらムシャクシャしていたらしく、ルイスの預金をほぼ全て使い果たしたらしい。

 帰路につくころには、スッキリとした顔でルイスにお礼を言っていた。


「300万くらい使ったって言ってたな~」


 ルイスはのほほんと一人言を呟く。

 300万となれば大金だが、D級ダンジョンで2週間も狩りをすれば稼げる額だ。

 2週間で稼げると思えば、別に惜しくもない。

 さすがに1日で、人の金を300万も使い込むのは、ちょっとおかしいとは思うが。



 昨日は一切レベル上げをさせてもらえず、剣士のレベルが1のままなため、今日はレベル上げだ。

 ヤケ狩りではなく、普通の狩りをしようと思っている。

 ジェシカに嫌われて落ち込んでいるわけでもなく、盗賊ジョブで逮捕の恐怖に怯えているわけでもない。


 ヤケ狩りをする理由が何もないため、長期的に見た場合に最も効率の良い、朝から夕方までの狩りを行う。

 昨日、ジェシカにその旨を説明したため、お手伝いに来てくれるだろう。


 前回のレベル上げは7階層で行ったが、盗賊ジョブのレベルも50になり、ステータスが上がり、ジョブチェンジもしたため、8階層に挑戦することにした。


 8階層に出現する魔物は、灰色の毛を持つ巨大な羊。

 体重は200kgを越える。

 その羊の頭をルイスは一撃でかち割った。


「もう1階層降りてみよっかな」


 今倒せる最も強い魔物でレベル上げをするのは、レベル上げの効率を考えれば、当然の判断だ。

 ルイスは9階層に降りた。


 9階層に出現する魔物は、8階層の羊の毛色を黒に変えただけのような羊である。

 しかし、HPと防御力は大きく伸びており、もうこの階層になってくると、

 他の冒険者が少ないという次元ではなく、全くいない。


 この階層の魔物を倒せる冒険者は、パーティーを組めば、B級ダンジョンの深い階層まで潜れる。

 そして、ルイスはすでに、一流と呼ばれる冒険者と肩を並べられるステータスをしている。


 他の冒険者と自分の実力を、比べようとしたこともないルイスは、巨大な黒い羊と対峙している。

 その羊も、一撃で頭をかち割り、ルイスは10階層に降りた。


 ここまで、8階層と9階層の魔物を一匹づつ狩っているため、すでにレベルは6に上がっている。

 剣士は、レベルアップ時に力が3上がるらしく、すでに18上がっている。

 物理方面を伸ばすという選択は、正しい選択だったと言えるだろう。


 10階層に降りたルイスは、魔物目掛けて駆けている。

 もし、10階層の魔物が倒せなくても、戦士ジョブのレベル40で取得したスキル、獣切りがある。


 今回の狩りは、切羽詰まっていないため、飲み水スキル以外にもMPを使える。

 一度攻撃してみて、それで倒せなければ、スキルを使い、倒せば良い。

 それぐらいの気持ちで、先ほどの巨大な羊を、さらに倍にしたような大きさの白い羊の頭に、剣を振り下ろした。


「あれ?」


 これだけ大きいのだから、まだ倒せないだろうと思っていたルイスだったが、

 ルイスの目の前には、頭をかち割られ、死んだ羊が転がっている。

 今のルイスのステータスでは、400kgはあろうかという巨体を持つ羊も、スキルすら使わず倒すことが出来た。


「こんなもんか」


 C級ダンジョンに限らず、ダンジョンはほぼ全て10階層で構築されている。

 そのため、ルイスはC級ダンジョンで最も強い魔物を倒したことになる。

 これ以上強い魔物を倒そうと思えば、B級ダンジョンに行かなければならない。


 ルイスは、とりあえず今日のところは、C級ダンジョンの10階層でレベル上げをすることにした。


 10階層で1日レベル上げをしたルイスのレベルは、27になった。

 明日からは、B級ダンジョンに行こうか悩むところだ。


 何しろ、10階層の羊は巨大で、400kgほどもある。

 いまのルイスのステータスをもってしても、持ち上げてダンジョンの入口まで運ぶのに苦労するし、途中途中で休憩を挟まなければならないほどの重量。


 キュリーから借り受けた、重量を軽くするという効果のついた、魔道具の台車を使っているジェシカも、汗だくになりながら台車を引いている。

 大きすぎる獲物というのも、考えものだ。


 ルイスはとりあえず、キュリーに相談にすることにした。


「お疲れ様です」

「はい、お疲れ様です。今日はちゃんと帰って来ましたね」

「はい、無理をする理由も無くなりましたから」

「それは良かったです」

「はい、すみませんでした」

「いえ、私はルイスさんを許しますよ」

「はい、ありがとうございます」


 剣の盗難についての謝罪を述べるルイスに対し、朗らかな笑顔で、語りかけるように返すキュリー。

 キュリーも昨日のショッピングで、大分ストレス解消になり、いつもよりご機嫌である。


「あ、それでですね、B級ダンジョンについて教えて貰えたらなと思いまして」

「もうB級ダンジョンに行かれるんですか?」

「そうですね、C級ダンジョンはもう、10階層でも余裕でいけますし、羊が重すぎて不便なんですよね」

「そうですか、あまり頑張り過ぎないように、気をつけてくださいね」

「はい、今日も言われた通り、抑え気味で切り上げましたし」


 キュリーの、心配を投げ掛ける言葉に、当然のように頷くルイス。

 キュリーは思った。

 全く伝わっていないと。

 どこの冒険者が、抑え気味の狩りで、1日10時間もダンジョンにこもるのか。

 まあ、夜通しの狩りをしないだけ良しとしておこうと、キュリーは考えた。


「B級ダンジョンの魔物ですが、C級ダンジョンの10階層の魔物の倍は大きいですよ?」

「え、そうなんですか?」

「はい、1階層に出現する、下の階層よりも小さめの魔物が、倍くらいあります」

「そうですか~、倍となると、もうジェシカが運ぶのは無理でしょうね」

「そうですね、たしかにあの台車では無理でしょうね」

「う~ん、どうしよう」

「でしたら、台車を改良しましょうか?」

「あ、じゃあお願い出来ますか?」

「はい、では明日までに改良しておきます」

「すみません、お手数おかけします」

「いえ、昨日は少々使いすぎてしまったので」


 さすがにキュリーも、使いすぎた自覚はあるらしい。

 それを聞いたルイスは安心した。

 キュリーの金銭感覚が、ぶっ壊れていなくて良かったと。


「じゃあ、お願いします」

「はい、承りました」

「あ、どんな魔物が出るんですか?」

「それはですね…」


 ルイスがキュリーに聞いた情報を整理すると、

 B級ダンジョン『牛の牧場』


 1階層に出現する、最も小さい牛でも、体重が800kgほど。

 D級ダンジョンの兎のように、素早さに重点を置いている訳でも無く、

 C級ダンジョンの羊のように、防御力に重点を置いている訳でも無い。


 B級ダンジョンの牛は、物理攻撃型。

 物理攻撃力と素早さが高く、魔法攻撃力と防御力が低い。

 そのため、油断すれば死ぬ。

 そんなダンジョンだ。


「怖いですね」

「ええ、行くにしても、1人では危険が多いでしょう」

「う~ん、とりあえず明日、ちょっとだけ行ってみます」

「同行しましょうか?」

「え?いいんですか?」

「はい、少しだけなら」

「あ、じゃあお願いします」

「はい、分かりました」


 ルイスは明日、B級ダンジョンに挑むことになった。



 ーーーーーー



 あとがき


 頂いたコメントに、

 非戦闘系のジョブを上げたり、新しいジョブの条件を見て、出現させようとする前に、最上級の冒険者になりますね

 というコメントを頂きました。


 その通りです。

 この物語のジョブの設定として、

 下級職、中級職、上級職、王級職、神級職

 の5段階を設定しており、右のジョブほど、転職条件が厳しくなっていきます。


 この物語は、転職条件を満たすために行動するルイスを焦点に当てた物語ですので、現在の下級職のレベル上げをしている状態は、序章に過ぎません。


 今、転職可能ジョブに表示されているジョブを極めてから、私が書きたい本当の物語が始まる予定です。

 なので、この世界で最強格になってからが、本当のスタートになります。


 ですので、もう少しの間、序章にお付き合い頂ければと思います。


 コメントを頂き、ありがとうございました。

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