第26話 剣士へのジョブチェンジ

 キュリーと共に、1レベルだけレベル上げをした後。

 ルイスはキュリーに言われ、公衆浴場に来ている。


 確かに言われてみれば、3日風呂に入っていないし、服は魔物の血で真っ赤に染まっているし、髪もベトベトだ。

 服を匂ってみれば、なかなかの悪臭がする。

 そろそろ他の服を買うべきだろう。

 いくらあるのか分からないが、100万単位の預金もある。

 ジェシカに服を買ってあげてもいいし、キュリーにお礼代わりに何かプレゼントしてもいい。

 ルイスは服を洗濯しながら、のんびりと考えていた。


 染み込んだ汗と、魔物の血をなんとか落とし、大きな湯船に浸かったルイスは、セルフジョブチェンジを発動した。



 戦士Lv50,旅人Lv50,盗賊Lv50,僧侶,魔術師,商人,医師,調合士,船乗り,踊り子,吟遊詩人,芸人,画家,木工士,釣り士,料理人,剣士



 次のジョブは何にしようかと、考えるルイス。


「あれ?盗賊消えてないじゃん」


 そう、レベルが50になってジョブチェンジをしても、まだ限界までレベルを上げていないため、ジョブチェンジ可能ジョブに表示されたままなのだ。


 あれだけ必死にレベルを上げたのに、

 人生で初めてレベル上げが楽しくなかったのに、

 と色々考えるが、まあ別にいいかと伸びをする。


 結局ジョブチェンジ出来るのだから、何も問題ない。

 あの必死な時間があったからこそ、今この時間、ジョブチェンジでわくわく出来る。


「もう物理方面は結構伸びたしな~」


 実は、ルイスは魔術なるものを使いたい。

 種火のように、ライターほどの大きさの火を灯すようなものではなく、

 飲み水のように、水をちょろちょろと出すようなものでもなく、

 一発で魔物を消し炭に出来るような、ファイアーボール的な魔術を使いたいのだ。


 しかし現状でも、C級ダンジョンの7階層までの魔物までしか、一撃で倒せない。

 魔法攻撃力を示す魔力が、物理攻撃力を示す力の5分の1であるため、このまま物理方面を伸ばした方が、効率がいい気がするのも事実。


「う~ん、やっぱまだ物理方面優先かな~」


 考えれば考えるほど、物理方面を伸ばした方が、これから先のレベル上げの効率アップに繋がるだろう。


「やっぱ物理かな」


 ルイスは意を決し、剣士を選択した。

 ルイスの性格的に、ロマンよりも効率を選択するのは当然といえる。

 とりあえず、C級ダンジョンの魔物を全て、一撃で倒せるような攻撃力を手に入れることを優先した。


「早く魔法使いたいな~」


 ぶくぶくと湯船に気泡を作りながら、次のジョブチェンジを妄想し、ニヤニヤするルイスであった。


 公衆浴場でさっぱりしたルイスは、冒険者ギルドに戻った。


 まだ昼と言ってもいい時間、キュリーは受付に座っている。

 まだまだ冒険者達が引き揚げてくる時間には遠いし、依頼を出しに来る人も、もう大方終わっている。


「キュリーさん、ただいま戻りました」

「はい、おかえりなさい」

「あの~、明日なんですけど、服を買いに行こうと思ってまして」

「そうですか、いいと思いますよ」

「あ、それでですね、キュリーさんには、色々とご迷惑をお掛けしたので、何かお礼をと思いまして…」

「お礼というと?」

「…プレゼントでもと思いまして…何か、欲しい物とか…ありますか?」


 ルイスのもじもじとした姿に、久しぶりに口説かれているなと感じるキュリー。

 デートに誘われるなど、何年ぶりだろうか。

 ついさっきまで、とんでもない悪臭を放っていた男だと考えても、やはり口説かれて悪い気はしない。


「では、明日は休みを取ることにします」

「いいんですか?」

「ええ、構いません」


 キュリーの言葉を聞き、パアッと花が咲いたように笑顔になるルイス。

 改めて見ると、なかなかのイケメンである。

 1日くらい、付き合ってやっても良いだろう。


「あ、じゃあジェシカにも聞いてきますね!」

「はあ?」

「ジェシカにも助けてもらったそうですし、服でも買ってあげようかなと」


 キュリーの眉間に、少しだけ、本当に少しだけ皺が寄る。


 こいつは何を言っているんだ?

 私をデートに誘っていたんじゃないのか?


 ジェシカを呼ぶだと?

 何がデートだ、何がプレゼントだ。

 文字通りのお礼ではないか。

 ついさっきまで、デートに誘われたと思っていた時間が忌々しい。


 辞めだ。

 ルイスの心の病気を治療するとか、寄り添うとか色々と考えていたが、全て辞めだ。

 なぜ、下心の無いお誘いに、あんなにもじもじ出来るのか。

 イケメンだと思って、調子にのりやがって。

 ぶっ殺してやろうか、などと色々考えながら、キュリーは微笑んだ。


 デートに誘われたと、少しだけ舞い上がっていたことを、絶対に悟られないために。


「明日の朝、ジェシカがここに顔を出すと言っていました。その時に私がお伝えしておきましょうか?」

「あ、すみません、お願いしてもいいですか?」

「はい、承りました」

「お手数おかけします」

「いえ、では明日の朝に」

「はい、お願いします」


 ルイスは気づかない。

 キュリーの笑顔の下に、どす黒い感情が渦巻いていることに。


 ルイスは、プレゼントは何が良いかを聞きたかったのだが、一緒に行くことになり、

 これで好みに合わないプレゼントを買ってしまい、不興を買うことも無いと安心している。


 そんなルイスの表情に気づき、さらにイライラしているキュリー。

 プライドを傷つけられた女ほど、恐ろしいものは無い。


 ルイスは、ほっとした表情で、寮の自室に戻った。


 次の日の朝、目覚めたルイスは、飲み水スキルを器用に使いこなし、身だしなみを整えた。


 口内に水を発生させ、うがいをし、

 手のひらから水を発生させ、顔を洗い、

 頭に水を発生させ、寝癖をなおす。


 世界中の飲み水スキルの使い手が、思わず拍手を贈りたくなるような器用さだ。

 胃に直接水を発生させることが出来るルイスにとっては、こんなことは文字通り朝飯前だ。


「歯ブラシも買おう」


 これまでは、うがいだけで済ませてきたが、このままではすぐに虫歯になってしまうだろう。

 今日の買い物で、服だけでなく、歯ブラシも買うことに決めた。

 売っていれば歯磨き粉も。


 身支度を整えたルイスは、冒険者ギルドに繋がる扉を開け、冒険者ギルドに入った。

 まだ、やっと外が白み始めて来た時間帯。

 世間一般では、早朝や夜明けと呼ばれるころ、早くも二人を待つ。


 昨日はベッドに寝転がると、まだ昼と言える時間であったが、ルイスは眠りに落ちた。

 さすがに疲れが取れていなかったらしい。

 この時間帯に起きても、睡眠時間は12時間を越えている。


 二人を待つ間、暇をもて余したルイスは、窓からぼ~っと外を眺めて過ごした。


 外を眺め始めて数時間後、キュリーが冒険者ギルドに入ってきた。

 いつもと変わらない服装で、眠そうな表情もせず、いつも通りの無表情で、ルイスに挨拶をする。

 ルイスもそれに返礼し、二人でジェシカを待った。


「おっす、来たぜ」

「お~、早いじゃん」

「おっすでは無く、おはようございますでしょう」

「うっせ~な、別になんでもいいだろ」


 ルイスとのお出かけと、キュリーに聞いていたジェシカは、いつもならしない口答えをした。

 他の者には、何も気にせず口答えをするが、キュリーにはあまりしない。

 それをついしてしまうほどに、今日のジェシカのご機嫌具合が窺える。


「なんか、おっちゃんが寝てる間もお見舞い来てくれてたらしいね、ありがとね」

「おう、ダンジョンの外でぶっ倒れてたからな、さすがに心配したぜ」

「ははは、ごめんごめん。ここまで運んでくれたのもジェシカなんでしょ?ありがとね」

「おう、今日はそのお礼に、なんか買ってくれんだろ?」

「うん、遠慮せずに買っちゃっていいから」

「つってもな~、欲しい物って言われても、あんまわかんねえよ」

「まあ、店で決めたらいいよ。あ、キュリーさんも遠慮しないでも大丈夫ですので」

「はい、最初からそのつもりです」


 この世界には、子供が欲しがるようなおもちゃは少ない。

 あったとしても、ボールやお手玉などで、ほとんどの人は、自作する。

 しかも、一般庶民であれば、新品の服を買うことも無い。

 中古の服を買い、それを直しながら何年も着続ける。

 そのため、欲しい物と言われても、ジェシカは困るだけだ。


 そしてキュリーは、昨日の事にまだ少し腹が立っている。

 そのため、今日はあまり遠慮する気は無い。

 なぜか、ルイスの預金をキュリーが持っているし。


 ルイスに渡そうとしたのだが、持っていてくださいと言われたのだ。

 好きに使ってくださいと。

 なぜ私があなたのお金を管理しなければいけないか分からないと言うと、この街の相場が一切分からないからですと返された。

 そう言われれば、キュリーとしても、ルイスにお金を渡すのをためらってしまう。

 商人にとって、相場を知らない客など、とんでもなくおいしいカモだろう。

 別にルイスがカモられようが、キュリーには関係無いことだし。


「じゃあ、行きますか」

「おう!」

「そうですね」


 ルイスの号令で、3人が椅子から立ち上がり、冒険者ギルドから外に出た。



「これで良いんじゃねえか?」

「いえ、こっちの方が、ルイスさんには似合うでしょう」

「いや、それよりはこっちの方が絶対似合うだろ」

「何を言っているんですか、そんな服を来ていれば、冒険者みたいでは無いですか、これだから子供は」

「いやいや、ばばあが選んだ服は年寄り臭くてだめだ。ちょっとばばあは黙ってろよ」

「クソガキのセンスは、やはりお子ちゃまですね」

「年寄り臭いよりは良いだろ」


 こんな会話が繰り広げられること二時間。

 ルイスの服は、1着も購入出来ていない。

 二人の様子を見る限り、まだまだ時間がかかりそうだ。

 ルイスは静かに、二人の掛け合いを眺めていた。



 ーーーーーー



 盗賊ジョブの基本設定


 レベルアップ時のステータス上昇値

 HP 1

 MP 1

 力 1

 丈夫さ 0

 魔力 0

 精神力 0

 素早さ 3

 きようさ 2


 転職条件

 物を盗む


 覚えるスキル

 10 罠看破 視界内の罠を見破る 消費MP3

 20 聴力強化 一時間聴力を3倍にする 消費MP10

 30 煙幕 煙幕を張る 消費MP10

 40 鍵開け 鍵を開ける 消費MP50

 50 縄抜け 縛られても脱出できる 消費MP50

 100 ??? 消費MP100

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