第24話 盗賊へのジョブチェンジ

 ルイスはダンジョンに駆け込んだ。

 ダンジョンに来るまでに、盗賊へのジョブチェンジは済んでいる。


「速く、速く盗賊を終わらせないと」


 転職可能ジョブに盗賊があると、捕まってしまう。

 ルイスはダラダラと冷や汗を流しながら、ダンジョンを降りた。


 前回は5階層での狩りを、22時間行い、レベルが50になった。

 であれば、もっと下の階層での狩りであれば、もう少し早くレベルが上がるはずだ。

 ルイスは6階層に降りた。


 6階層に出現した羊は、5階層の羊をさらに倍にしたような大きさだ。

 ルイスは、その巨大な羊を一撃で倒し、7階層に降りた。


 7階層の羊も一撃で倒し、8階層に降りたが、8階層の羊は倒せなかった。

 今日の狩場が7階層に決まった。

 狩場が決まれば、後は全力疾走で狩りまくるだけだ。

 ルイスはダッシュで羊に接近した。


 レベル上げを始めて四時間。

 ルイスは、奥義を編み出していた。


 前回とこれまでは、水を飲むとき指を口に咥え、指先から飲み水のスキルを発動させることで、水分補給を行っていた。


 しかし、今回のレベル上げは一刻を争う。

 指を咥えることにより、ダッシュの際、腕を振れなくなり、走るスピードが僅かに落ちてしまう。


 それならば、胃に直接水を出してしまえばいい。

 そう考え、実行したのだ。

 胃から、少しでもずれれば、非常に危険であり、死んでもおかしくない。

 しかしルイスはそんなことは考えず、1秒を惜しんで実行した。

 そして、無事に成功した。


 スキルで胃に直接水を出現させるなど、世界初の快挙である。

 というか、実行しようとした者などいない。

 指を咥える時間すら惜しむ者など、いるわけが無い。


 これで水分補給の懸念は完全に解消された。

 しかし、もう1つの問題は、空腹である。


 丸1日レベル上げをし、丸2日寝込んでいたため、もう丸3日何も食べていないことになる。

 その状態での全力疾走の繰り返し。


 空腹の限界を迎えたルイスの目の前には、頭をかち割られた羊。


「羊って、生でいけるっけ?」



 次の日の早朝、キュリーが冒険者ギルドに出勤してきた。

 いつもの出勤時間。

 今日もいつも通り、昨日請け負った依頼を整理し、冒険者達が来る前に貼り出しておかなければならない。


 その他諸々の業務も終わらせ、ふとルイスのことを思い出した。

 結局、昨日はキュリーの退勤時間までに帰って来なかった。

 さすがに夜の内に、帰って来ているだろう。


 いや、 あの青年のことだ。

 また夜通し狩りを続けていてもおかしくない。


 キュリーは、一応チェックしておこうと考え、寮にあるルイスの部屋をノックした。

 しかし、返事は無い。

 寝ているのか、とも考えたが、扉を開けた。

 やはりというべきか、部屋は無人だった。


「…彼は何を考えているんでしょうか」


 キュリーは、ルイスがいるであろうC級ダンジョンに向かった。



 ダンジョンに着いたキュリーは、4階層を目指した。

 最近のジェシカが、ルイスの代わりに納品するのが、4階層の魔物だったからだ。


 しかし、4階層をくまなく探しても、ルイスはいなかった。

 1つ降り、5階層にもいない。

 6階層にもいない。

 7階層に降り、やっと痕跡を見つけることが出来た。


 死んだ羊が、何匹も転がっている。

 ダンジョンの中で死んだ生物は、ダンジョンに吸収される。

 しかし、吸収されるまでに、ある程度の時間がかかる。

 であれば、この羊達は、ついさっきとは言わないが、ここ1、2時間ほどで倒された羊だろう。


 そして、転がっている羊の死体は、首のあたりに、かじりとられたような、抉れた傷がある。

 まるで、人の口でかじられたかのようなサイズ。

 キュリーは、まさかと思いながら、羊の死体を辿った。


 数匹の死体を辿ったキュリーの目線の先には、ルイスがいる。


 口から血を垂れ流し、服を血で真っ赤にし、血走った目で、右手に剣を握ったまま、荒い吐息で全力疾走しているルイス。

 その姿は、狂気。

 この一言に尽きる。


 子供達が、冒険者ってすげえ、俺にはなれないと言っていた意味が、やっと分かった。

 これは異常だ。


 キュリーはルイスに並走し、呼び掛けた。


「ルイスさん!」

「ん?ひいいいぃぃぃぃ!!」


 キュリーの呼び掛けに、驚きの叫びを上げ、スピードを上げようとするルイス。

 その表情は、とても大きな恐怖から逃げようとするかのようだ。


「止まりなさい!」

「うわああぁぁぁ!!」


 ルイスにとっては、キュリーが、自分が盗賊であることを突き止め、逮捕しに来た警察官に見えた。

 全力疾走する自分に、平気な顔で並走するキュリー。

 逃げることは出来ないだろう。


 しかし、あと1レベル上がれば、盗賊からジョブチェンジ出来る。

 であれば、あと1レベル上がるまでの、少しの時間を稼がなければならない。

 ルイスは必死に逃げようとした。


 しかし、いつの間にかルイスは、キュリーに羽交い締めにされている。

 なんとか脱出しようと、手足をじたばたと動かすが、キュリーは微動だにしない。


「あと1レベルだけ、あと1レベルだけ」

「何がそこまで、あなたを突き動かすのですか」

「あと1レベルだけ、あと1レベルだけ」

「眠りなさい」


 ルイスを羽交い締めにしているキュリーの口から、透き通るような歌声が響いた。

 キュリーが歌い始めて数秒、ルイスは眠りに落ちた。



 ーーーーーー



 旅人の基本設定


 レベルアップ時のステータス上昇値

 HP 1

 MP 1

 力 1

 丈夫さ 1

 魔力 1

 精神力 1

 素早さ 1

 きようさ 1


 転職条件

 1000km以上の移動


 覚えるスキル

 10 種火 体からライターほどのサイズの火を出すことが出来る 消費MP1

 20 飲み水 体から200mlのきれいな水を出せる 消費MP2

 30 虫除け 24時間虫が寄り付かなくなる 消費MP20

 40 安眠 一瞬で眠りに落ちる 消費MP1

 50 地図 周囲3キロの地形がわかる 消費MP30

 100 ??? 消費MP500

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