第23話 旅人Lv50

「ん?あれ?」


 ルイスが目覚めると、毎日寝起きしている、寮の自室にいた。

 疲労困憊でダンジョンを出ると、朝の空気になっており、ここで少年を待っておこうと、そのまま眠ったのだ。

 来てくれると信じて。


 それが、寮の自室にいる。

 どうしたことだろうかと考えてながら、とりあえずキュリーさんに聞いてみようと、冒険者ギルドに移動した。


「キュリーさん、おはようございます」

「おはようございます。長く眠っていましたね」

「そうなんですか?」

「はい、ちょうど2日間ほど寝ていたと思います」

「え?そんなに?」

「はい」


 ルイスは思った。

 やはりあそこまでのレベル上げは、やり過ぎだったかと。

 2日間も寝ていたらしいし、それならば、朝から夕方までのレベル上げを3日繰り返した方が効率が良いだろう。

 次からは、気をつけるようにしようと。


「あ、そういえば、なんで僕はここに帰って来ているんですか?」

「ジェシカさんが運んで来ました。お礼を言っておくといいでしょう」

「…よかった、来てくれたんですね」

「なにかあったんですか?」

「はい、嫌われたのかと思ってました」


 キュリーにはむしろ、大好きでたまらないといった様子に見えたが。

 まあ、あのお転婆娘のことだ。

 憎まれ口でも叩いたのだろう。


「昨日も様子を尋ねて来ましたよ」

「そうですか、良かったです」

「はい」

「そういえば、ジェシカっていう名前なんですね」

「…知らなかったのですか?」

「…恥ずかしながら、聞くタイミングを逃してしまいまして」

「名前くらい、いつでも聞けるでしょう」

「いや、傷つけるのが怖くて」

「…なんというか、変わった感性をお持ちで」


 名前を聞くのに、相手を傷つけるかもしれないなどと、誰が考えるだろうか。

 ルイスが育った地域では、相手に名前を聞くのが失礼な振る舞いだったのか。

 そんな変な風習のある地域など、聞いたことがない。


「あ、じゃあ、ダンジョンに行ってきます」

「え?今日もですか?」

「え?はい」

「今日は休まれては?」

「休むといっても、やることも無いですし」

「ルイスさん、あなたはついさっきまで、2日間も寝ていたのですよ?なぜ目覚めたとたんにダンジョンに行こうと思うんですか、なぜそこまで強くなろうとするんですか」

「なぜと言われても、私が望んでいたことですし」

「…復讐は、なにも生みませんよ?」

「え?はあ、分かりました?とりあえず、行ってもいいですか?」

「…どうぞ」

「行ってきます」


 ルイスは、キュリーが何を言っているのか分からなかった。

 復讐はなにも生まないと言われても、そうなんですかとしか思わない。

 まあいいかと考え、ダンジョンへの道をのんびり歩きながら、ステータス画面を開く。



 ルイス・キング・ロイドミラー


 HP 200

 MP 50

 力 150

 丈夫さ 150

 魔力 50

 精神力 100

 素早さ 100

 きようさ 50


 ジョブ

 戦士Lv50,旅人Lv50

 ジョブチェンジ可能


 スキル

 叩き割り,回転切り,吸収切り,獣切り,地砕き

 種火、飲み水、虫除け、安眠、地図


 ユニークスキル

 マイステータス閲覧

 セルフジョブチェンジ

 転職条件閲覧

 成長限界無効化



 実はあの日、旅人のレベルが50になっていたのだ。

 少年にも嫌われていなかったっぽいし、少年の名前も分かった。


 少年の名前はジェシカというらしいが、ルイスは横文字の名前で、性別を判断することが出来ない。

 どんな名前が男に多く、どんな名前が女に多いかなど、これまでの人生で興味すら持たなかった。

 それゆえに、ジェシカが少年ではなく少女だ、などとは考えない。

 たとえ、少女だと分かっても、それがどうしたという考えになるだろう。

 どちらにしても、可愛がるだけだ。


 ダンジョンへと向かう道を歩きながら、マイステータス閲覧を発動する。

 ジョブチェンジ可能と表示されたステータス画面を見ながら、ルイスの心はウキウキしている。


 ジェシカに嫌われていないのが分かったし、2度目のジョブチェンジが可能だからだ。

 ルイスは、胸の高鳴りを心地よく聞きながら、セルフジョブチェンジを発動させる。


「セルフジョブチェンジ」


 戦士Lv50,旅人Lv50,僧侶,魔術師,商人,医師,調合士,船乗り,踊り子,吟遊詩人,芸人,画家,木工士,釣り士,料理人,剣士,盗賊


「盗賊?」


 旅人にジョブチェンジする前から、剣士は増えていたのだが、今回新たに盗賊が、転職可能ジョブに加わっている。

 自身のユニークスキルである、転職条件閲覧スキルで、盗賊を確認してみたが『物を盗む』という表記。

 何も盗んだりしてないけどな、と思いながら、ルイスはなぜ盗賊ジョブが解放されたのか分からない。


「キュリーさんに聞いてみよう」


 ルイスは踵を返し、冒険者ギルドに戻った。


「あ、キュリーさん、すみません」

「はい、なんでしょう」


 冒険者ギルドに戻ってきたルイスを見て、少し安心した表情を見せるキュリー。

 しかし、そんなキュリーの後ろで、

 おれはやってない!おれは知らない!

 という怒号が響いている。


「なにかあったんですか?」

「はい、あの方がジョブチェンジしようとしたところ、盗賊ジョブが表示されていたらしく、一応事情聴取をということになり、今の状況になっているところです」


 キュリーの言葉を聞き、突然ルイスの体が震えだす。

 暑くもないのに、ダラダラと汗をかき、呼吸が荒くなる。


「どうかされましたか?」

「い、い、い、いい、いえ」

「大丈夫ですか?」

「だだ、だ、大丈夫です」


 ルイスにとって、事情聴取というものは、犯人がされることだ。

 日本で、警察に泥棒の疑惑をかけられ、事情聴取されるということは、ほぼ間違いなく有罪。

 どうやっても、逃れることなど出来ないだろう。


 たとえ、冒険者ギルドで盗賊ジョブがあるのを確認しても、本当にただの事情聴取で済むことがほとんどなのを、ルイスは知らない。

 親の服を勝手に着て、返せと言われても返さなかったりすれば、すぐに盗賊ジョブにジョブチェンジ出来るようになる。

 そのため、本当に軽い事情聴取なのだ。


 しかし、ルイスはそんなことは知らない。

 たまたま、キュリーの後ろで尋問を受けている男が、となりの街で指名手配を受けており、それの尋問だというのも知らない。


 ルイスにとって、盗賊ジョブというのは、有罪の証明書のようなものになった。


 そこでルイスは気づいた。

 そういえば、腰にぶら下がっている剣、これは冒険者ギルドから借りている物だったと。

 もしや、この剣を借りパクしたことになっているのではなかろうかと。


「あ、ああ、あの、この剣ななんですけど…」

「ああ、そういえばルイスさんが持っていましたね、忘れていました」

「お、お返ししたほうが?」

「いえ、大丈夫ですよ。他の職員は盗まれたんじゃないと言っていましたが、ルイスさんが持っているのを確認したので、そのままお使いください」

「そ、そそそ、そうですか、ありがとうございます…」

「聞きたいこととは、剣のことでよろしかったでしょうか?」

「は、はい!この剣のことを聞きたかったんです!失礼しました!」

「お気を付けて」


 ルイスは転がるように、冒険者ギルドを後にした。

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