第21話 第2ヒロイン

 C級ダンジョン『羊の草原』第5階層。

 ここに出現する羊は、純白の毛を持ち、100キロを超える体重を持っている。


 4階層までの黒い羊と違い、白い羊毛は用途が広いため、黒い羊毛よりも高く売れる。

 高く売れるということは、多くの冒険者に狙われていてもいいものだが、実際にこの階層を狩場にしている冒険者は少ない。


 このダンジョンに出現する魔物は、羊のみ。

 その羊達は、非常に高いHP、丈夫さ、精神力をしており、総合して高い防御力を持っている。

 しかも、治癒魔術を使用するため、どれだけ手数の多い攻撃を繰り出しても、治癒魔術で回復され、倒しきれない。

 そのため、羊のHPと防御力を超える一撃を叩き込まなければ倒せない。


 すなわち、パーティーを組んでいても無意味なのだ。

 しかも、5階層の純白の毛を持つ羊を倒すには、100を超える力か、魔力を持っていなければならない。


 一般的な冒険者は、一生で5~10ほどのジョブにつく。

 そして、平均して20レベルほどで成長限界を迎える。


 恵まれた才能を持ち、天才と呼ばれ、10このジョブを30レベルまで上げられる者がいても、合計で300レベル。

 全てのジョブが物理系か魔法系に偏っていても、ステータスの力か魔力の値は、600ほどで頭打ち。


 才能的に普通の者では、5つのジョブを20レベルに上げても、ステータスの値は200ほど。

 ジョブが偏っていなければ、ステータスの値も偏ることなく、全ての値が100ほどに落ち着く。


 しかもそれは、自分の限界を迎えた時のステータスであり、そうなるころには戦闘技術も熟練。

 そうなれば普通はパーティーを組み、より稼ぎの良いB級ダンジョンに向かう。


 そのため、このC級ダンジョンは、今のルイスのステータス的に最適でありながら、他の冒険者も少ないために羊も多く、レベル上げに最適な環境になっている。


 もちろんルイスは、そんなことなど知らない。

 しかし、知らず知らずのうちに、今の段階で最適なレベル上げを行おうとしている。


 そんなルイスは、初めてジョブチェンジをしたことでテンションが上がっていたが、少年との一幕もあり、嬉しいが寂しいという感情になっており、少し情緒不安定になっている。


 そんな感情を吹き飛ばすため、初めて5階層に足を踏み入れ、白い羊と対峙している。


 羊の素早さでは、ルイスの動きを全く察知出来ない。

 Cダンジョンに出現する羊の魔物は、弱い相手には絶対に倒されないため、滅法強いが、自分を一撃で倒せる強い相手には、滅法弱い。


 そのため、ルイスに何の抵抗も出来ず、切れ味の悪い剣で、頭をかち割られた。


 羊を倒してすぐ、ルイスは自分のステータスを確認した。

 これまで何千回と繰り返してきている行動、魔物を一匹狩るたび行う行動。

 そのルーティーンとかしたステータスチェックをすると、レベルが上がっていた。


 ルイスは、先ほどまでの微妙な表情から一転、満面の笑みを浮かべている。

 一匹狩っただけで、3レベルもアップし、4レベルになっている。

 やはり、レベルが低い時は、レベルアップに必要な経験値が少ないらしい。

 ルイスにとって、レベルアップの瞬間というものは、ジョブチェンジには劣るが、非常に幸せな瞬間だ。

 まだスキルは出現していないが、それでも嬉しそうに次の羊を探した。


 旅人になって初めてのレベルアップから、30分ほどたち、ルイスは10匹目の羊を狩った。

 すると、レベルが10に上がった。



 ルイス・キング・ロイドミラー


 HP 160

 MP 10

 力 110

 丈夫さ 110

 魔力 10

 精神力 60

 素早さ 60

 きようさ 10


 ジョブ

 戦士Lv50,旅人Lv10


 スキル

 叩き割り,回転切り,吸収切り,獣切り,地砕き

 種火


 ユニークスキル

 マイステータス閲覧

 セルフジョブチェンジ

 転職条件閲覧

 成長限界無効化



 スキルの欄に、1つのスキルが増えている。

 新しく覚えたスキルは種火。

 効果は、ライターほどの火を灯すことが出来る、というもの。

 消費MPは1。


 スキルを覚えたものの、狙っていた飲み水を出すスキルでは無かった。

 残念ながらルイスには、種火というスキルの有用性が分からない。

 火を起こさなければならない場面が無いためだ。


 昼食の準備は少年がしてくれるし、朝食と夕食は、冒険者ギルドに併設されている食堂兼酒場で取っている。

 これからは、ルイスが焚き火の火をつけることになるだろう。


 しかし、ルイスの顔は不満顔だ。

 ルイスは、レベルアップでステータスが上がるのは、非常に嬉しい。

 ジョブチェンジで、新たな可能性が広がるのも、非常に嬉しい。

 スキルを獲得するのも、役に立つスキルであれば、非常に嬉しい。

 しかし、あまり役に立たないスキルならば、イラッとする。

 どうせなら、役に立つスキルを寄越せという気分になる。


 まあ、そんなことを考えてもしょうがないかと、ルイスは次の羊目掛けて駆け出した。



 ーーーーーー



 そのころの孤児院


 毎日ルイスのお手伝いをしている少年は、我が家である孤児院に帰り着いた。

 今日のバイト代は無しだ。

 ルイスから、会えなくなるのは寂しいと言われて照れ臭くなったため、さっさと帰って来た。


「あら、おかりなさいジェシカ」

「おう、ただいま」

「今日は手ぶらなの?」

「…まあな」


 子供達の親代わりである、シスターの1人が帰宅したジェシカに気づいた。

 いつもは持ってかえってくる、大きな羊を持っていない。


 以前から、飢えるほどでは無かった孤児院の食糧事情だが、ジェシカが毎日大量の兎肉を、最近では大きな羊を持ち帰るようになり、多数いる子供達が、毎日お腹いっぱいになるまで食べることが出来るようになった。


 シスターとしても、やはりお腹いっぱいになれるのは幸せなため、ジェシカの手ぶらでの帰宅に、少しガッカリしてしまう。

 しかし、大人で親代わりの自分が、そんな感情を気づかせる訳にはいかない。

 自分の気持ちを誤魔化すため、なぜか少しだけニヤニヤしているジェシカに問いかける。


「なにか嬉しいことでもあったの?」

「な!なんもねえよ!」


 女の嗅覚が敏感に察知した。

 恋の香りがするわ、と。


「えっと、ルイスさん、だったかしら?」

「おっちゃんがなんだよ!」

「なにか言われたの?」

「な!な、な、な、なんもねえよ!」


 シスターはジェシカを見つめる。

 誰がどう見ても男の子にしか見えないジェシカ。

 もしかしたら、このまま男として育っていくのかと仲間のシスター達と話していたが、どうやら違うようだ。


「ルイスさんになんて言われたの?」

「なんも言われてねえよ!」


 シスターにそう吐き捨て、孤児院の奥に走り去ろうとしたジェシカを抱き締めて止める。

 子供達の中では1番大きく、力が強いとはいっても、まだまだ子供。

 抱き締められれば、10歳程度の年齢であるジェシカでは、逃げることが出来ない。

 そのままの状態で、何度も同じことを聞かれたジェシカはついに観念し、先ほどのルイスとのやり取りと、その時の自分の感情をシスターに話した。


「きゃ~!初恋よ!ジェシカが初恋よ!」

「ちょ、やめろ!母さん達を呼ぶんじゃねえ!」


 その後、ジェシカはシスター達に囲まれ、大量の質問に答えることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る