第17話 天才を超える者

 C級ダンジョン『羊の草原』

 このダンジョンはD級ダンジョンの洞窟のようなダンジョンでは無く、草原のようなフィールドのダンジョンである。


 草原には羊が多数闊歩し、どこかのどかな空気が漂っている。


 そんなダンジョンの入口付近にルイスとキュリーが立っている。

 C級ダンジョン初挑戦のルイスはキョロキョロと辺りを見回し、初めて見る野生の羊に困惑している。


「なんで洞窟に入ったのに、草原があるんですか? 太陽もあるし…しかも天井は洞窟っぽいし…」

「何を言っているんですか? そういうものでしょう」

「いや、え? そういうもの…ですか?」


 キュリーにとって、ダンジョンの中がどんな環境になっていようと、それが当然であり、ルイスの疑問は理解出来ない。

 たとえ、洞窟の中に太陽があろうと、この世界で生まれ育ったキュリーには、それが普通であり、当たり前なのだ。


「では、昨日も説明した通り、このダンジョンには羊が出現します」

「はい、てっきり洞窟に羊がいるものだと思ってました」

「羊は草原にいるものだと思いますが」

「そうですよね、そうなんですけど…」

「説明を続けても?」

「あ、すみません、お願いします」


 ルイスにとってとても理解出来ない状況ではあるが、どうやっても納得のいく答えを貰える感じでは無い。

 自分で無理矢理納得し、キュリーの説明を黙って聞くことにした。


「ここの羊は高い防御力を持ち、回復魔術を使います」

「へえ~」

「ですので、一撃で倒さないと回復され、いつまでたっても倒せないという状況に陥ります」

「なるほど」

「では、1度私が狩ってみます」

「はい」


 少し離れた場所にいた羊の首を、一瞬で切り落とした。

 レベルが上がり、最初より大分強くなったはずのルイスには何も見えなかった。

 羊に接近するための移動すら見えなかった。


「こういう感じで、一撃で倒さないと回復されます」

「相変わらずすごいですね」

「私のことはいいので、分かりましたか?」

「あ、はい、分かりました。ありがとうございます」


 次はルイスが遠目に見える羊に駆け寄り、兎と同じように切れ味の悪い剣を全力で羊の頭に振り下ろした。

 一撃で羊が絶命し、横倒しになる。

 ルイスは羊を倒せたことに安堵し、気になっていたことをキュリーに問いかけた。


「羊って黒い種類もいるんですね」

「黒以外の方が珍しいと思いますが」

「え? そうなんですか?」

「はい」

「へえ~」


 ルイスは知らないが、地球でも野生種は白以外の方が多い。黒が一般的で、褐色や灰褐色の種類もいる。この世界でもそれは同様だ。


「どうしますか? この階層で狩りますか? それとも下に降りてみますか?」

「う~ん、とりあえず1度降りてみようと思います」

「分かりました。階段はこの方向にあります」

「あ、やっぱり草原でも階段なんですね」

「当たり前でしょう。ダンジョンですよ」

「ですよね」


 二階層に降りた二人は、二本の角が生えた黒い羊を見つけ、またルイスが同じように一撃で倒した。


 二人はもう一度同じような会話をして、三階層に降りた。

 三階層も同じように一撃で倒したルイスは、四階層への階段の場所をキュリーに尋ねた。


「三階層も大丈夫そうです。四階層への階段の場所はどこですか?」

「ルイスさん、今のジョブは?」

「え? 戦士ですけど」

「変えていないんですね、ではレベルは?」

「えっと…36ですね」

「36…今現在ジョブチェンジは可能ですか?」

「いや、まだ出来ないです」

「なるほど…」


 キュリーはルイスの返答を聞き、考え込んだ。

 ルイスはそんなキュリーを不思議そうに見つめる。


 ジョブチェンジは、そのジョブの成長限界の半分のレベルに達したら可能になる。

 30レベルが成長限界なら、15レベルからジョブチェンジが可能になる。

 成長限界が40レベルを超えればそのジョブの天才と呼ばれる。30レベルでも十分に才能があると言える。


 しかしルイスは、36レベルになっているにも関わらず、まだジョブチェンジが出来ないと言う。

 少なくとも、72レベルまでは絶対に成長限界が来ないことになる。

 そこまでのレベルとなると、天才と言うのもおこがましい。至高とすら言える。

 そんな高みに、ルイスは絶対に達することが出来るのだ。


「あなたのレベルを口外することを禁止します」

「え?」

「冒険者ギルドとして、正式に命令します。あなたのレベルを口外することを禁止します。罰則はありませんが、自分を守りたいならそうしなさい」

「え、あ、はい、分かりました」

「そして、今日の狩りは中止し、あなたの調査に移行します。私の質問には、嘘偽り無く全てに答えなさい。黙秘も禁止します」

「…はい」

「なお、これについても嘘をつこうが黙秘しようが、罰則はありません。しかし、自分の身を守るために正直に答えてください」

「はい」

「なお、ここで私が知り得たことは、相手が誰であっても口外しない事を誓います。ギルド長や、何かしらの権力者等にも一切口外しません」

「はい、あの、僕、何かしましたか?」

「いいえ、あなたは何もしていません。ただ質問に答えてくれればいいです。分かりましたか?」

「…はい、分かりました」


 羊が歩くのどかな草原で、この空間だけを型どるように、ピリピリとした空気が充満していた。

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