第15話 防具屋と9階層
「何がいるんだ?」
ルイスが防具屋に入ると、店の中にある椅子に座ったおじさんが真顔で声をかけてきた。
いらっしゃいも、こんにちはも無し。
日本で同じ事をすれば、口コミサイトにボロクソに書かれるだろう接客。
しかし、この世界では一般的な接客である。
「あ、えっと、防具が欲しいです」
強面でムキムキのおっさんに突然話しかけられたことで、ルイスは少し怯えた声で返事をすることになった。
「当たり前だろうが、防具屋に防具以外が欲しいって客はこねーよ」
「あ、すみません」
「だから、何が欲しいのかって聞いてんだよ」
「火に強い服が欲しいです」
「最初からそう言え、バカが」
強面のおじさんは立ち上がり、スタスタと店の奥に入っていった。
ルイスはそれを呆然と見送り、固まった。
数分後、おじさんが戻ってくると、その手に薄い茶色のベストが握られている。
ポケットも何も無い、紐で前をとめるシンプルなベスト。
「着てみろ」
「あ、はい」
おじさんから差し出されたベストを身につけるルイス。
肩や腹などのサイズはぴったりだが、丈が少し長い。
「それでいいな」
「いや、ちょっと長いかなと…思うんですけど…」
「長いか?ちょうどいいだろうが」
言われてみれば、ちょっと長いくらい別にいい気がするルイス。
そこまで邪魔になる感じもない。
「あ、これで大丈夫です」
「そうか30万だ」
「え、5万くらいって聞いてたんですけど」
「はあ?誰にだ?」
「えっと…キュリーさんに」
おじさんは、キュリーの名前を出した途端、ヤバいという表情をしてすぐに値下げをした。
「5万だ」
「いや、下も合わせてで、5万って…」
「下も?」
「あ、いや、なんでもないです」
「じゃあ下も合わせて5万だ」
「あ、はい」
おじさんはまた店の奥に戻り、バーテンダーが着けているようなサイズの皮で出来た前掛けを持ってきた。
これも紐で固定するタイプだ。
紐も火に強い魔物の皮で出来ており、ボタンで固定するタイプだとボタンに火が当たり、ボタンだけが燃えたり溶けたりすることがある。
なので、属性に耐性がある防具は、ほぼ全てが皮で出来た紐で固定するタイプだ。
「これで5万だ」
「すいません、ありがとうございます」
「いや、お買い上げありがとうございました。気をつけてお帰りください」
「あ、はい」
明らかに使い慣れていない様子の丁寧な言葉遣いで、ルイスに頭を下げる強面のおじさん。
キュリーの名前を出してから少し挙動不審になり、突然ルイスに丁寧に接するようになった。
「あの、キュリーさんと何かあったんですか?」
「なんもねえ、さっさと金おいて帰れ」
「あ、はい」
ルイスが5万ゴールドをおじさんに渡すと、おじさんはそそくさと店の奥に引っ込んでいった。
ルイスはその姿を見て少し首をかしげ、店を後にした。
そして、防具を買った次の日から一週間、いつも通りダンジョンの外で少年に待っていてもらい、魔術に突っ込みながらレベル上げをした。
八階層で倒した角青兎は756匹。
レベルは36まで上がった。
ルイス・キング・ロイドミラー
HP 109
MP 0
力 72
丈夫さ 72
魔力 0
精神力 36
素早さ 36
器用さ 0
ジョブ
戦士Lv36
スキル
叩き割り
回転切り
吸収切り
ユニークスキル
マイステータス閲覧
セルフジョブチェンジ
転職条件閲覧
成長限界無効化
新たに増えたスキルは吸収切り。
与えたダメージの10%のHPを吸収するというスキルで、消費MPは10。
MPが0のルイスは使えないが、MPさえ増えれば、HPの回復手段が出来たため、回復薬を使う必要が無くなる。
このスキルは後々役にたつだろう。
この一週間で角青兎を余裕で狩れるようになったため、いよいよ火に耐性のある防具が活躍できるよう、九階層に降りる。
九階層に降りたルイスは角赤兎に相対した。
一週間前はどれだけ近づこうとしても角赤兎のスピードに敵わず、全く近づけなかったが、今回はあっさりと近づき、一撃で狩ることができた。
角赤兎に駆け寄っている時に2発の火の玉を受けたが、火に耐性のあるベストと前掛けは全く焦げたり燃えたりすることなく、ルイスを守ってくれた。
いつも通り角だけをへし折り、袋に入れ、次の角赤兎を探すために走り出した。
「おう、焼けてるぜ」
「お、ありがと」
ダンジョンから休憩のために外に出たルイスに少年が話し掛ける。
いつも通りルイスが渡していた白兎を自分の分とルイスの分、二匹を棒に差し、焚き火にくべている。
「どうだった?」
「うん、余裕で狩れたよ」
「良かったじゃん」
「うん、服も燃えなかったし、これからは九階層で狩りだね」
「俺達の肉のためにも、頑張ってくれよ」
「ははは、オッケー」
少年の頭にルイスの手がのり、わしゃわしゃと頭を撫でる。
始めの内は照れ臭そうにしていた少年も、今では気にも止めず、されるがままにしている。
「でもさ、肉足りてる? あの子達の分とか」
「足りてるぜ? 毎日10匹くらいもって帰ってるし、全員腹いっぱいだよ」
「そっか、ならいいけどさ、なんか欲しい物とか無いの?」
「なんだよ突然」
「いや、お金あるからさ、なんかおもちゃとか買ってあげようかなとか思って」
圧倒的なスピードで狩りを続けているルイスは、すでに500万ゴールドほど持っている。
この世界、車やクルーザーなど、日本のお金持ちが欲しがるような物など売っていない。
しかもルイスは、趣味がレベル上げなため、欲しい物が何も無い。
他の冒険者のように、金が無くなるまで酒場に入り浸る訳でも無く、女を買う訳でも無く、時間があればレベル上げをしている。
そこで、少年に何か買ってあげようかと思ったのだ。
「おもちゃっつってもな~、兎の皮で作ったボールなら死ぬほどあるしな」
「自分達で作ったってこと?」
「当たり前だろ、あんだけ皮があったらボールにでもするしかねえし」
「へえ~」
少年も、欲しい物は特に無いらしい。
ルイスはまあいいかと思い、すぐに頭の中からお金のことは消えた。
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