第13話 無限ループ

 ルイスはとりあえず二匹の角白兎を狩り、ダンジョンを出た。

 万が一にもHPが0になって死ぬようなことになってはたまらない。

 死んでしまえば、レベル上げをしていれば生活出来るこの素晴らしい世界でレベル上げが出来なくなってしまう。


 ルイスは手に二本の角を持ち、冒険者ギルドに戻った。

 キュリーの話によると、この角白兎の角はなかなか買い取り金額が良いらしい。

 少し期待しながら受付に向かった。


 受付には二人座っており、キュリーともう1人の若い女性の職員が談笑している。

 ルイスはどちらに話しかけるか迷うことなく、キュリーに話しかけた。


「お疲れ様です」

「はい、お疲れ様です」

「これの買い取りお願いできますか?」

「かしこまりました。無事に狩れたようですね」

「はい、なんとか」

「では、二本で6000ゴールドです」

「あ、そんなに貰えるんですね」

「はい、需要がありますから」


 この6000ゴールド。実はルイスには特に使い道が無い。食事も貧相な物でいいし、武器や防具もこのままで良い。冒険者ギルドの寮は無料だし、公衆浴場も安い。

 何に使うか考えていると、キュリーからある提案がされた。


「回復薬でも買っておきますか?」

「あ~、良いですね、そうします」

「10000ゴールドです」

「えっと…あ、無いです」


 ルイスが持っている金額は9200ゴールド。

 回復薬には800ゴールド足りない。


「明日にでも返して頂ければ結構ですので」

「え?いいんですか?」


 キュリーから差し出されたのは1000ゴールド。

 1000ゴールドあれば回復薬を購入できる。

 しかし、残りの所持金が200ゴールドになれば貧相な食事も取れないし、公衆浴場にも行けない。


「いや、やっぱりもう1回ダンジョンに行ってきます」

「そうですか、分かりました。お気をつけて」

「はい、行ってきます」


 ルイスはダンジョンに戻り、もう二匹、角白兎を狩った。

 HPの残りを気にしつつ、まあすぐに死ぬようなことは無いだろうと開き直り、角白兎の魔術攻撃に突っ込んだ。


 二匹の角白兎を狩り終わってもまだ夕方にもなっていないが、今着ている服にはポケットも無いため何本も角を持ち運べないし、HPの残りも気になる。

 この後は回復薬と一緒に狩った兎の角を入れられる袋も買おうと決め、ダンジョンを出た。


 冒険者ギルドで小さな袋と回復薬を買ったルイスは、またダンジョンの六階層にいる。


 角白兎の角ならば、30本ほど入るだろう麻袋は1200ゴールド。

 ルイスの感覚では高過ぎる気もするが、機械など無く全て人力で織られた布であることを考えれば安いくらいだ。


 そして、回復薬。

 正式名称は下級HP回復薬。

 薬鑑定というスキルを所持した冒険者ギルドの職員が一つ一つ鑑定しているため、偽物や粗悪品が混ざることもない。

 効果はHPを30回復する。

 ルイスの現在のHPは51であり、この回復薬を使えば半分以上回復できる。

 角を四本買い取りに出せば元が取れるため、この回復薬を買い、ダメージを受けながら兎を狩り、受けたダメージを回復薬で回復し、と無限ループが出来るようになった。


 無限ループの難点は、回復薬の値段である10000ゴールドを越える金額で買い取りしてもらえる四本の角狩るまでに、受けるダメージを30以内に抑えなければならないこと。

 HPは回復しても体力は回復しないため、疲れは残ること。

 そして、作りの雑な小さな壺に入っているため、袋に入れてあまりに激しく動くと壺が割れ、中身がこぼれてしまうことがあること。


 兎の魔術を受けても大きなダメージを受ける訳では無いし、疲れなど無視すればいいため上二つは問題ないが、壺が割れるおそれがあるのは大きな問題だ。

 しかも、壺の蓋は木をねじ込んだだけなため、手に持って激しく振ると蓋が外れて中身がこぼれてしまう。

 どうするかと悩んでいると、キュリーが解決策を提示してくれた。


 数日前に荷物持ちとして雇った子供たちを使ってはどうかという案だ。


 ダンジョンの前で、回復薬を持って待っていてもらい、ダメージをある程度受けたら子供たちのところに行き、回復薬を飲む。

 その時に持っている角を渡せば、次にルイスがダンジョンから出てくるまでに、冒険者ギルドで換金し、回復薬を買ってきてくれる。

 ダメージを受けてダンジョンの入口に戻る途中か六階層で兎肉を確保して子供達に渡せば、子供たちは喜んで手伝ってくれるだろうと。

 二つ返事で了承すると、キュリーはすぐに孤児院に連絡をとり、子供を手配してくれた。


 そういう事情で、今のルイスは気兼ね無く狩りをしている。

 しかも、途中でルイスの分まで兎の丸焼きを準備しておいてくれるのだ。

 もう狩りが捗って仕方がない。


 これからは当分、この無限ループでレベル上げをすることになるだろうと、ルイスは笑顔でレベル上げを続けた。


 孤児院から来た子供たちの中で1番大きな少年に手伝ってもらい、無限ループの狩りを始めて一週間。

 ルイスのレベルは26まで上がった。


 ルイス・キング・ロイドミラー


 HP 78

 MP 0

 力 52

 丈夫さ 52

 魔力 0

 精神力 26

 素早さ 26

 器用さ   0


 ジョブ

 戦士Lv26


 スキル

 叩き割り

 回転切り


 ユニークスキル

 マイステータス閲覧

 セルフジョブチェンジ

 転職条件閲覧

 成長限界無効化



 20レベルになった時にまたスキルが増えたが、ルイスのMPは0のため使えない。

 26レベルになって角白兎の魔術攻撃を食らっても痛くも痒くも無くなったため、そろそろ下の階層に移動しようかと考えている。


 この六階層は他の冒険者が多く、角白兎の数が少ない。

 しかし七階層であれば買い取り金額は変わらないにも関わらず魔物は強くなるため、一気に冒険者の数が減り、ほとんどいない。

 そのため、六階層の角白兎を簡単に倒せるようになった今なら、七階層に移動した方が良い。

 一匹あたりの獲得経験値も増える。


 七階層の魔物は色が緑に変わり、少し強くなった角緑兎。そして、使ってくる魔術に属性が付く。

 角緑兎が使う属性は、風。

 無属性魔術と同じく不可視の攻撃で、魔術のスピードと威力が少し上がった程度の違いしかなく、対処法は無属性魔術と変わらない。

 実際には空気であるため物理的なダメージも少し付与されるが、ルイスのステータス的に魔術ダメージよりも物理ダメージに強いため、さしたる違いは無い。


 角白兎の狩りを余裕でこなせるルイスなら、角緑兎もそこまで苦労せず狩れる。

 ルイスは七階層に降り、角緑兎を瞬殺した。


 余裕で狩れると判断したルイスは、そのまま八階層に降りた。

 角の生えた青い兎が放ってくる魔術は水。

 これは、目に見えるだけに、来るという気構えが出来るため、無属性や風属性よりも楽に思えた。


 さすがに兎自体のスピードが速く瞬殺とはいかず、何度かルイスの攻撃を避けられたりしたが、楽勝の範囲内である。


 兎の魔物は、ステータスが総じて低い。

 ルイスが階層を降りても、全ての兎を一撃で倒せるように。


 しかし、素早さだけが異常に高い。

 ステータスにすれば、他の数値の倍はあるだろう。

 そのため、素早さについていけさえすれば、瞬殺できるのだ。


 ルイスもキュリーに聞いてそれを知っており、さくさくと下の階層に降りている。

 ルイスは八階層に歩を進めた。

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