第9話 狂気の狩りの方法

 それから子供達は、ついてきたり、ついてこなかったりを繰り返しながら、冒険者ギルドまで白兎を持っていってもらい、夕方になった。


「俺達そろそろ帰るよ」

「今日はありがとね、疲れたでしょ?」

「おう、でも楽しかった。腹一杯だし」

「それは良かった。頑張ってくれたしね」


 そう言って子供達の頭を撫でていくルイス、子供達は本当に頑張ってくれた。

 二時間おきに、二時間ぶっ通しで走り続けたのだ。

 合わせて六時間、走り続けたことになる。

 おそらく、明日は筋肉痛で動けないだろう。


 この世界にも筋肉痛はある。

 ステータスで力が上がるが、筋肉を鍛えることで、ステータスに表示されない筋力が上がる。

 現に、一昨日と昨日の狩りの影響で、ルイスも全身筋肉痛の最中である。

 痛みを無視して、レベル上げを行っているのだ。


「なあ、おっちゃん?」

「ん?」

「白兎、持って帰っていい?」

「ああ、いいよ。持てるだけ持って帰って」

「ありがとな」

「うん、気をつけて帰るんだよ」

「大丈夫だって、何回も言ってるけど送ってくれなくていいからな」

「でも、万が一があったら…」

「大丈夫だから、じゃあまたな」

「本当に気をつけて帰るんだよ、今日はお疲れ様」

「はーい」


 子供達は手を振りながら、帰っていった。

 それを見送り、ルイスはまたダンジョンに戻った。


 結局、今日子供達が冒険者ギルドに納品した白兎の数は12匹。

 狩った総数の3割にも満たない。

 子供達は、二時間ごとに二時間の休憩をとっていたし、自分達で食べた分もあれば、最後に持って帰った分もある。

 最終的な買い取り金額は、ざっくり4800ゴールド。

 キュリーが、何割を子供達に渡しているか分からないが、5割を渡していたとしても2000ゴールドはあるだろう。

 もともと、捨てるくらいなら誰か雇えと言われただけなのだ。

 2000ゴールドでも儲け物である。


 しかし、問題はそこではない。

 今日のレベル上げでは、レベルが1も上がらなかったのだ。

 前回狩りほどの数は狩っていないが、それでも結構な数を狩っている。

 おそらく、ここから先は下の階層に潜らないと、レベル上げの効率が悪くなると考えられる。

 ルイスは決めた。

 明日から、下の階層に潜ろうと。


 ルイスは冒険者ギルドに戻り、下の階層の情報を、キュリーに尋ねた。


 夕方ということもあり、受付は買い取り希望の冒険者でごった返しており、話をするためだけに列に並べる雰囲気ではない。


 ルイスは先に、公衆浴場に向かうことにした。


 公衆浴場も人が多く、数分待つことになったが、冒険者ギルドほどではない。

 公衆浴場の雰囲気としては、木で出来た床に、石造りの壁。

 銭湯というよりは、道後温泉に近い。薄暗く、少し汚い。


 25メートルプール並みに大きい湯船には、そこそこの人が入っており、洗い場は洗濯をしている人でごった返している。


「洗濯もオッケーなんだ」


 確かに、全員服を着たまま浴室に入るので疑問に思っていたのだ。

 ルイスもなんとか隙間を見つけ、洗濯をした。

 さすがに3日も着っぱなしだったため、洗っても洗っても流したお湯が黒くなる。

 なお服は、この世界に来たときに来ていた物で、周りと同じような安っぽい服だ。


 洗濯を終え、自分の体を洗い、湯船に浸かる。

 洗濯にも、洗体にも、石鹸は使っていない。

 公衆浴場の入口に売っていたが、8000ゴールドであり、とても買える値段ではなかった。

 周りの人も、石鹸を使っている人は少ない。


 そうこうして外が暗くなったころ、スッキリしたルイスはびしょ濡れの服を着て、冒険者ギルドに戻った。


 受付の渋滞は解消しており、受付にはキュリーしか残っていなかった。


「お疲れ様です」

「ルイスさん、お疲れ様です」

「ちょっと聞きたいことがありまして」

「はい、今日のお金ですね?お預かりしております」

「そういえばそうでしたね、いくらになりました?」

「4800ゴールドです。お疲れ様でした」

「え?満額ですか?あの子達の取り分は?」

「あの子達から、バイト代はもらったと聞いてますが」

「いや、僕は1ゴールドも渡してないですけど」

「白兎を16匹も上げたんでしょう?」

「え、現物で良いんですか?」

「あの子達からしても、現物の方がありがたいと思いますよ」

「そんなもんですか」

「はい」


 そのままお金を受け取り、聞きたかったことを聞く。


「明日から、下の階層に行ってみようと思うんです」

「早くないですか?まだレベルもあまり上がってないと思いますが」


 キュリーは、さすがに3日ダンジョンにこもったくらいでは、レベルも5上がる程度だろう思っている。

 まさか、すでに11になっているなど思わない。


「レベルは低いんですけど、もう上がらなくなっちゃって」

「上がらない?今のレベルはいくつですか?」

「11です」

「えっ?」


 ありえない。

 D級ダンジョンであるうさぎの楽園は、出てくる魔物が全て兎であり、そして弱い。

 弱い魔物は簡単に倒せるが、取得できる経験値もそれ相応に低い。

 3日ではとても、レベル11まで上げるのは不可能なはずだ。


「力と素早さの数値は?」

「えっと…22と11です」

「そうですか、なら大丈夫でしょう」

「良かったです。じゃあ明日から行こうと思います」

「はい、出てくる魔物も、色が変わって強くなった程度の違いなので、そこまで困惑することもないでしょう」

「分かりました。ありがとうございます」

「それよりも、どんな狩りをしているんですか?」

「普通だと思いますよ?」


 ルイスの狩りの仕方を聞いたキュリーは、その狂気の狩りの方法を聞き、

 子供達が、冒険者ってすごい、と絶賛していた理由を理解した。

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