第7話 レベル上げバカ

 ルイスがダンジョンを出たのは、次の日の夕方だった。

 喉が渇くとダンジョンの入口にある井戸で水を飲んでいたため、夜を越し朝になり、夕方になったのも分かっていた。


 それでも白兎を狩り続けていると眠気が限界を迎え、体が鉛のように重くなったところでレベル上げを切り上げたのだ。


 せっかく火打石を持ち込んだが、火打石だけで肉が焼ける訳もなく、摂取するのは水だけという状況で30時間以上ぶっ通しで白兎を狩り続けた。

 狩った白兎の数は、なんと374。

 そのおかげで戦士ジョブのレベルは11まで上がり、スキルを1つ覚えた。


 10レベルになった瞬間、覚えたスキルの名前と効果が頭に浮かんだのだ。

 ステータス画面を開くと、しっかりと表示されていた。


 ルイス・キング・ロイドミラー


 HP 33

 MP 0

 力 22

 丈夫さ 22

 魔力 0

 精神力 11

 素早さ 11

 器用さ   0


 ジョブ

 戦士Lv11


 スキル

 叩き割り 消費MP5

 対象に1.5倍ダメージ


 ユニークスキル

 マイステータス閲覧

 セルフジョブチェンジ

 転職条件閲覧

 成長限界無効化



 ルイスは喜び勇んでスキルを発動しようとしたが、スキルが発動することはなかった。

 スキルの発動はMPが必要なのだ。例え、物理方面のジョブだとしても。


 この事を知ったルイスは「なんだそれ」と呟き、スキルにMPを使うなら、戦士ジョブでもMPが上がるべきだと文句を言った。文句を言うといっても、一人言だが。


 ルイスはフラフラになりながらも、なんとか両手に白兎の死骸を持ち、冒険者ギルドに入り、キュリーに買い取りを頼んだ。


「これ、お願いします」

「もしかして、昨日からずっとダンジョンに?」

「ええ」

「バカじゃないですか?」

「まあ、そうだと思います」


 ルイスは、自分がバカだと知っていた。

 日本にいるときもレベル上げのためだけに寝食を忘れ、何十時間もぶっ通しでゲームをすると言うと、バカだと言われたり、キモいと言われたりしていたから。

 主に両親に。


「何匹くらい狩ったんですか?」

「…300匹くらい?」

「300……狩った兎はどうしたんですか?」

「放置しました」

「そうですか、勿体ないですね」

「すみません」

「別に悪いことをしている訳では無いでしょう。純粋に勿体ないと思っただけです」

「まあ、確かに」

「次から、荷物持ちを雇うようにしたらどうですか?」

「荷物持ちですか?」

「はい、狩った兎を渡して、1回1回ここに持ってきてもらうとか、色々やりようはあるでしょう? 買い取り金額の何割かを渡すと言えば、喜んで手伝う人もいるでしょう」

「そんなもんですか?」

「そんなものです。明日もダンジョンに行くんですか?」

「はい」

「でしたら、行く前に1度、ここに顔を出してください。荷物持ちを用意しておきます」

「分かりました、ありがとうございます」

「はい。では、買い取り金額の800ゴールドです。お確かめ下さい」

「ありがとうございます」

「はい、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」


 白兎374匹となると、149600ゴールドである。

 日本円とほぼ同価値であると考えれば、新人が2日で稼いでいい額では無い。

 まあ、それだけ持ち込めば白兎の価値が下がり、買い取り金額も下がるだろうが。

 しかし、相場など1日2日で下がる物でも無い。

 明日の買い取り額は結構な額になるだろう。


 キュリーはルイスが寮に続く扉をくぐったのを確認し、荷物持ちに連絡を取るため席を立った。


 次の日、泥のように眠ったルイスは極度の空腹で目が覚めた。

 ゲームで夜更かしした訳では無く、全身を激しく動かしながらの30時間。

 空腹になるのは当たり前だ。


 昨晩はまだ明るい内から眠ったにも関わらず、もう外は明るい。

 眠気眼を擦りながら、ルイスは冒険者ギルドに入った。


「おはようございます」

「はい、おはようございます」


 冒険者ギルドの受付にはすでにキュリーが座っており、ルイスを待ち構えている。

 そして、キュリーの前には10歳程の少年少女が四人。


「もう出発ですか?」

「はい、出ようと思います」

「分かりました。それで、昨日話した荷物持ちですが、この子達です」

「ああ、荷物持ち。そういえばそんな話がありましたね。今日はよろしくね」

「「「よろしく!」」」


 少年少女達はワクワクした表情でルイスを見上げている。

 しかし、他の3人より少し大きい少年は不満そうな顔をしている。


「なんか弱そうだな」


 少年から見て、ルイスはなんとも弱そうに見えるのだ。

 冒険者といえば、がたいが良く、言葉づかいが荒い者が多い。

 それに比べて、優しげな顔立ちで眠そうな目をし、言葉づかいも丁寧な青年。


 少年少女達のリーダーとして、こんな弱そうな青年についていって良いものか、と考えるのは当然だろう。

 少年は、下の子供達の兄貴分なのだから。


 そんな少年の気持ちも知らず、ルイスはのんきに返事をする。


「まだまだ弱いよ~、激よわ」

「なんだよそれ、ダメじゃん」

「まあ待っててよ、そのうちすっごい強くなるから」

「知るかよ、今強くないとダメだろ」

「そんなこと言われてもな~」


 ルイスはキュリーを見る。

 そもそも、子供がダンジョンに入ってもいいものだろうか。

 もし怪我でもしたら、ルイスの責任になりそうだ。


「あの、危なくないですか?」

「2階層に潜るとなれば危険もありますが、1階層なら問題無いでしょう。その子達でも、白兎から逃げるくらいなら出来ます」

「でも怪我でもさせたら…」

「大丈夫ですよ、 この子達の母親たちには説明していますから」

「そういうことなら分かりました」

「はい、お気をつけて」


 ルイスと子供達は冒険者ギルドを出て、ダンジョンに向かう道を歩く。


「おっちゃん臭いな」

「え、まじで?」

「うん、近くにいるだけで臭い」

「そういえば、もう3日風呂入って無いわ」

「マジかよ、公衆浴場くらいいけよな」

「そうだね、今日の狩りが終わったら行ってみるよ」

「絶対行けよな」

「オッケー」


 返事をしながら、ルイスは少年の頭を撫でた。


 少年は不思議に思っていた。

 この青年、見た目は17、8歳に見えるのに、なぜかおじさんっぽいのだ。

 言葉づかいや物腰、自分達に向ける優しい目、全てがおじさんくさい。

 まあ、エルフの血でも入っていて見た目通りの年じゃ無いのだろうと思いながら、おとなしく頭を撫でられた。

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