第6話 1人で兎狩り

 白兎を狩って見せたことで新人研修が終わり、冒険者ギルドに戻った。

 パーティー登録を解除し、白兎一匹分の代金を受け取ったルイスは二日ぶりの食事をとった。


 ボソボソのパンと兎の肉を塩のみで煮込んだスープでも、二日ぶりの食事はおいしいと感じる。

 栄養を欲していたルイスは体が求めるままに食事を胃に流し込んだ


 そして寮に1度戻り、尋常ではない臭いに耐えながらトイレに入り、断念した。


 ダンジョンの中では立ちしょんであり、それもいつの間にか吸収され、臭いも残らない。

 それならばダンジョンでトイレを済ませたほうがいいと考え、ルイスはダンジョンに向かった。

 ついでに白兎を狩れたら狩ろうと考えながら。


 ダンジョンに着き、他の冒険者が近くにいないことを確認すると、ルイスはズボンを下ろし用を足した。


 スッキリすると、白兎を探すためにダンジョンの徘徊を始めた。


 この世界では、宿屋に行けば一瞬で回復できる訳ではない。

 宿屋に行っても、きちんと一晩泊まらなければ、HPは回復しない。

 HPの回復手段は主に3つ。

 時間をかけてゆっくり休む。

 治癒魔法をかけてもらう。

 回復薬を使う。


 レベル上げの効率を求めるなら、時間をかけてゆっくり休むのは論外だ。

 しかし、治癒魔法と回復薬は安くない。

 回復薬はおおよそ、白兎25匹分の値段だし、治癒魔法は白兎20匹分だ。

 今のルイスには、到底払うことなど出来ない金額だ。


 そのため、ルイスがレベル上げを効率良く行うには、HPを削らせないことが重要だ。

 先ほどの戦いで、ルイスの攻撃なら一撃で白兎を殺せることが分かった。

 なので、白兎からの攻撃を一発も受けることなく攻撃を食らわせれば、長くレベル上げができる。


 そんなことを考えながら歩いていると、白兎を発見した。

 気づかれないようゆっくりと忍びよる。

 ダメージを受けてはならないのなら、背後から不意打ちをすればいいと考えたからだ。


 しかし、ルイスがある程度近づくと白兎はわかってましたよと言わんばかりにゆっくりと振り向き、戦闘態勢をとった。

 白兎には最初からルイスの足音が聞こえていたのだ。

 素人がどれほど頑張って足音を消しても、兎の聴覚をごまかすことなど出来ない。

 それに気づいたルイスは諦めて、カウンター狙いに切り替える。


 白兎の攻撃を何度か防御することになったが、予定通りダメージを受けることなく狩ることが出来た。


 頭から血を流す白兎を持ち上げ、少し考える。

 狩った兎をぶらぶらと持ち歩くのは効率が悪い。

 しかし、獲物を持ち帰らないと食事が取れない。


「あ、食べたらいいじゃん」


 次にダンジョンに来るときは、火をおこす物を持ってこようと決めたルイスだった。


 ルイスは1度ダンジョンを出て、狩った兎を冒険者ギルドで換金することにした。

 換金した金でライター的な物を買うために。


「キュリーさん、これの換金お願いできますか?」

「ダンジョンに行ったんですか?」

「はい、1人で狩れました」

「それはいいんですが、無理はしないようにして下さい。死ぬ時は一瞬ですから」

「はい、気をつけます」

「ではこちら、400ゴールドです。お確かめ下さい」

「ありがとうございます。ところで、簡単に火がつく道具とかってどこに売ってます?」

「火打石ですか?それならギルドにもありますよ」

「あ、じゃあ売ってもらえませんか?」

「お金は別に良いですよ、差し上げます」

「え、いいんですか?」

「はい、サービスです」

「すみません、ありがとうございます」

「いえ、私がお礼を言われるようなことではありません」

「あ、なんかすみません。じゃあ、失礼します」

「はい、お疲れ様でした」


 キュリーはルイスはこのまま自室に帰るか、冒険者ギルド内の食堂で食事でもするのだろうと思っている。

 しかし、ルイスは冒険者ギルドを出て、再びダンジョンに戻った。


「よし」


 ダンジョンの入口で小さな握り拳をつくったルイスは、決意に満ちた目でダンジョンに入った。


 早速白兎を一匹狩り、どうするかを少し悩んだ後、そのまま置いておくことにした。

 ダンジョンでは死体などはそのうち吸収され、跡形もなく消える。

 そのため、少し勿体ない気もするがレベル上げを優先することにした。


 十匹ほど狩ったころ、体の中から力が湧き出てくるような感覚があった。

 レベルアップだ。

 そこからルイスの狩りは劇的に変わった。素早さが上がり、完全に白兎を上回ったのだ。


 白兎の攻撃に合わせる必要が無くなり、ルイス主導で戦えるようになった。

 ダッシュで近づき、白兎が攻撃態勢をとる前に瞬殺する。

 精神的な疲れが桁違いに少なくなった。


 このままレベル上げを続行しようとしたルイスだったが、1つの問題に気づいた。

 喉が渇くのだ。

 白兎と互角だった先ほどまでは緊張で喉の渇きを感じなかったし、感じても、すぐに外に出て井戸の水を飲んでいた。

 しかし、余裕を持って倒せる今は喉の渇きを感じる余裕が出て来たということだろうし、休憩のためにダンジョンの外に出る必要も無い。


 水筒を持ち込むにしても、何時間もダンジョンにいればすぐに無くなるだろうし、大量に持ち込めば重くて邪魔になる。

 となれば、魔法だろう。魔法で水が出せれば、何の問題も無い。

 転職可能ジョブにも魔術師がある。なので、次のジョブチェンジは魔術師にしよう。


 そう決めたルイスは、喉の渇きが限界を迎えるまで、レベル上げを行った。

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