第4話 レベルアップ

ルイスという落ちこぼれの面倒を見ている冒険者ギルド職員のキュリーは、太ももを押さえ、呻いている彼を眺めている。


新人講習でここまで苦しむ新人など、今まで見たことがない。

どうするかと考えた後、1度冒険者ギルドに戻り、パーティー登録をすることにした。


パーティー登録をすれば、魔物に止めを刺さなくても、経験値が入るようになる。

入る経験値は、二人で折半になるが、とりあえずせめて白兎と戦えるようになるまでルイスのレベルを上げないと話にならない。


「1度冒険者ギルドに戻りましょう」

「すみません。僕ならまだ大丈夫です」

「いえ、パーティー登録をしたら、すぐにダンジョンに戻って来ますから、大丈夫です」

「パーティー登録?」

「はい、詳しくは、パーティー登録してから、お話しします」

「分かりました」


冒険者ギルドに向かう道を、足を引きずりながら進むルイス。

そんなルイスを、ちょくちょく振り返りながら歩を進めるキュリー。


彼女としては、この状況は悪くない。

この世界で、休日というのは、定期的にあるものでは無く、

申告し、許可が下りれば、休日をもらえる。

休めば休むほど、給料は下がるが。


毎日毎日、顔馴染みの冒険者から、素材を買い取るだけの仕事。

それが落ちこぼれの担当になったおかげで、今日一日、下手をすれば何日か、通常業務ではなく、

ダンジョンで新人のレベリングを行うことになるだろう。

気晴らしには、もってこいだ。


冒険者ギルドの受付にある魔道具でパーティー登録を済ませ、ダンジョンに戻る道を歩く。

ついでに、ギルド職員から治癒魔法をかけてもらい、ルイスのHPは回復した。


「パーティー登録ってなんですか?」

「パーティー登録は、経験値の分配です」

「分配ですか、二人なら半分になるんですか?」

「はい、二人なら半分に、三人なら三等分になりますね」

「へえ~、例えば、経験値が3入るときに、四人でパーティーを組んでいたら、どうなるんですか?」

「そういう場合は、全員0になるらしいです」

「え?0になるんですか?全員1じゃなくて?」

「はい、そうなると聞いています」

「へえ~」


この話を聞き、レベル上げ中毒のルイスはこれから先、パーティー登録をしない事に決めた。

圧倒的にレベル上げの効率が落ちるようなことは、絶対に許容できないことなのだ。


二人はダンジョンに戻り、薄暗い洞窟の中、キュリーはルイスを背後に、白兎に止めを指した。


「何度見てもすごいですね」

「そうですか?」

「はい、一瞬で首を切り落とすんですもん」

「これくらい出来ますよ、冒険者ギルドの職員ですから」

「すごいんですね、職員さんって」

「はい」


キュリーが、白兎の首を切り落とす動作を、ルイスは視認することが出来なかった。

目にも止まらぬ速さで、切り落とした。


「もう一匹狩れば、ルイスさんのレベルが上がるはずです」

「そうなんですか?」

「はい、下級職の1レベルは、白兎1匹分の経験値で足りますので」

「御手数お掛けします」

「いえいえ」


その後出てきた白兎を、またもや目にも止まらぬ速さで瞬殺し、キュリーがルイスに振り返る。


「おおっ!」


肉体の奥底から、力が湧き出るような感覚に襲われたルイス。

レベルが上がったことによる、圧倒的な万能感。

ルイスの心の中は、根拠の無い自信に満ち溢れている。


「レベルアップしたようですね」

「はい!今なら僕もやれますよ!」

「落ち着いてください。まだ無理だと思いますよ」

「そんな事ないです!いけます!」

「いいから落ち着いてください。ステータスが低い時は、レベルが上がると、急激に強くなったように感じると思いますが、元が低いので、弱いままです」

「…確かに」

「理解が速くて助かります。元のステータスから考えるに、もう1レベル上がれば、

ルイスさんでも、白兎を狩れるようになると思うので、もう1レベル上げましょう」

「すみません、御手数お掛けします」

「いえいえ」


その後、数匹白兎を狩り、ルイスのレベルが3に上がった。

やっと自分でレベル上げが出来ると、ルイスのテンションが上がったが、

もう二人の手には、持ちきれないほどの兎がある。

キュリーにとって、白兎など何匹持っても重量的には問題無いが、ルイスは2匹で限界である。

しかし、2匹しか持てないルイスの目の前で、何十匹も持ち歩くのは、少し可哀想だと感じ、この日の狩りは終わりになった。


二人で冒険者ギルドに戻り、白兎を買い取り処理し、買い取り代金はキュリーが全額持ち帰った。

当然である。

今日、ルイスは何もしていない。

そのため、キュリーはルイスに何も言わず、全額持ち帰った。


ルイスは自室に戻り、ベッドに横になった。

手持ちぶさたなため、ステータス画面を開く。


ルイス・キング・ロイドミラー


HP 9

MP 0

力 6

丈夫さ 6

魔力 0

精神力 3

素早さ 3

器用さ 0


ジョブ

戦士Lv3


スキル

無し


ユニークスキル

マイステータス閲覧

セルフジョブチェンジ

転職条件閲覧

成長限界無効化


「おお~、すげえ強くなってる」


0ではない数値が全て3倍になっている。

しかし、このステータスでやっと、この街のダンジョンで最弱の魔物である白兎と互角であると思い出し、少し気分が沈む。


「明日はがんばろ」

「ご飯も食べたいし」


キュリーは、さすがにご飯を食べるお金ぐらい持っているだろうと思っているため、全額持ち帰った。

しかし、昨日からルイスは1文無しだ。

食料を買う金など無い。

明日は食事をとると心に決め、空腹を忘れるために目をつむった。

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