第2話 ジョブとステータス

 ジョブチェンジの部屋に入った受付嬢はルイスを水晶に触れさせた。

 水晶の横に設置された石板に転職可能ジョブが表示される。


「お~」


 突然文字が表れた石板に感動しているルイスの横で受付嬢の目に飛び込んできたのは、10を超える転職可能ジョブの数。

 その中でも目を引くのは、商人、医師、調合士、魔術師の4つ。

 この4つは基本的に、きちんとした教育を受けていないと転職可能にならない。


 名字を持っている時点である程度の家柄だと判断できていたが、やはりルイスは高度な教育を受けているようだ。


 商人であれば算数の知識、医師であれば人体に対して正しい知識を持っていなければ、転職可能ジョブに表示されることはない。それは他の二つのジョブも同様だ。

 そしてやはり、旅人もある。

 このジョブは果てしないほど遠くの場所に移動したことがある者にしか発現しない。

 累計移動距離では無く、どれほど遠くに進んだかが条件になっている。


「どれがいいでしょう?」

「そうですね、やはり魔術師かと思いますが」

「魔法方面ですか……それよりも、物理方面を先に伸ばしたいんですけど」

「では戦士がいいかと」

「分かりました」

「どうしたらいいですか?」


 魔術師になるほどの知識を得られる教育を受けておきながら物理方面を伸ばしたいという考えに、理解に苦しみながら戦士のジョブを勧める受付嬢。


「石板に表示されているジョブを触れば可能です」

「こうですか?」


 受付嬢がルイスにジョブチェンジの方法を教え、ルイスが実行する。


『戦士にジョブチェンジしました』


 ジョブチェンジを完了した瞬間、ルイスは体に力がみなぎるように何かが体の中から溢れだすような感覚を覚えた。


「おお~、出来たみたいです」

「はい、おめでとうございます。ステータスを確認してみますか?」

「はい、お願いします」


 ルイスはわくわくしている感情を隠しきれない。


 受付嬢の指示に従い、横にある別の水晶に触れる。

 すると、ジョブチェンジの石板と同様にルイスのステータスが表示された。


 ルイス・キング・ロイドミラー


 HP 3

 MP 0

 力 2

 丈夫さ 2

 魔力 0

 精神力 1

 素早さ 1

 器用さ 0


 ジョブ

 戦士Lv1


 スキル

 無し


 ユニークスキル 4


「おお~、感動」


 目をキラキラさせているルイスの横で、受付嬢は困惑している。

 ステータスに0など見たことがない。

 戦士のジョブで上がるステータスがそのまま反映されているように見える。

 転職前は全て0だったのでは無いだろうか。

 普通の人間であればジョブについていなくても、成人していればオール10くらいにはなる。


 MPが0でなぜ普通に行動しているのだろうか。

 MPが0ならば気絶していないとおかしい。

 MPが0ということは体内に全く魔力が無いということであり、生物として異常な状態のはずだ。


 そんな謎すぎるステータスもさることながら、ユニークスキルが4つとは驚愕に値する。

 そもそもユニークスキルを所持している者は、大きな街に1人いるかいないかという確率であり、数字にすると十万人から百万人に1人という割合だ。

 そのため、これまで確認された数が非常に少なく、持っている本人も詳細や効果を知らないことが多い。

 今現在もルイスが触れているステータスの石板には、ユニークスキルの名前は表示されないからだ。


 ステータスの石板以外に、自分のステータスを確認する方法は無い。

 そのため、ユニークスキルを持ってはいるが、持っているだけという者が大半を占める。

 しかもユニークスキルは千差万別であり、能力の予想も出来ない。

 そんな希少な物を4つも持っていて、名字を持ち、常識的な事を何も知らない若者。


 受付嬢はそのうち分かるだろうと判断し、ルイスに明日の予定を伝える。

 教官補助としてついていた受付嬢がダンジョンに同行し、最低限の戦闘指導が行う。

 新人講習ではお馴染みの、D級ダンジョン『うさぎの楽園』に向かう。


「それでは本日はこれで終了です」

「すみません。いろいろとありがとうございました。」

「はい、明日に備えて今日は早く休んでください」

「はい、分かりました。明日もよろしくお願いします」


 ルイスが立ち去ろうと冒険者ギルドの玄関の方向に体を向けるが、足を踏み出すことは無く、その場で止まる。


「どうかしましたか?」

「えっと、たぶん家がありません」

「宿に帰られてはどうですか?」

「…たぶんお金も持ってないです」


 受付嬢は思った。

 この子はなんなのだ、と。

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