第9話・礼儀
「なるほど。エルバはオチたんですか」
「あぁ。だが、賢い奴だ。オチたとジャッジが気付く前に、お前をぶっ飛ばして、先にお前の気絶を周りに認識させた。煙が晴れた時にはエルバは気絶しているが、そのタイミングがお前より先か後かは分からない。ならば、先に気絶しているお前が敗北扱いになる」
「あの時の僕は、どうやってやられたんですかね?」
「さぁな。直接見たわけじゃない。が、ラーガ曰く、エルバがオチるのと同時に発動するトラップ魔法の暴発がトドメだったらしい」
ここまで聞いてやっと理解する。
エルバの想定は、こちらの想定を凌駕していた。
自分が気絶しようがしまいが関係なかったのだ。
気絶、というか、負けは負けと認識されるまでは負けではない。
まさかジャッジの認識を俺に誘導するなんてのは想定外だった。
ゼロ距離でなければ暴発に巻き込まれなかっただろうか?
否。恐らくその時も、別の手段を使われて俺の負けが確定するだろう。
「だが、買い取り元がその決闘を見て、お前を偉く気に入ったらしい。悪い様にはしないとラーガやお前の両親に言っていたぞ。おっと……」
そうだ。ウチの両親はどうしているだろうか。
自分達の息子が取り上げられたのだ。
もし俺が親でも気が気じゃなくなる。
「馬の休憩だな。……心配するな。お前の両親は、ちゃんと抵抗していたとも。必ず迎えに行くと、最後まで叫んでいたぞ」
「そうですか。なら安心です」
「ほう? 何故だ?」
「できない約束はしないんですよ。僕と違って」
「フッ、そうか。よし。お前も降りろ。まだまだ道は長い。少し身体を伸ばせ」
言われた通り馬車を降りる。
ぐーーっと伸びをして、一呼吸。
「僕、拘束されてないんですね」
「逃げようとする奴なのか?」
「いえ。多分その瞬間、首と胴がお別れする事になるかと」
「だろう?」
ヘイディはいささか俺について詳しすぎる気がする。
思考を読まれているようで気持ち悪い。
見た感じ、よく創作物に出てくる特徴的な人種ではない、と思う。
ヘイディは腰にぶら下げていた容器の蓋を開け、口に流し込む。
そしてそれを放り投げ、
「」
「ンがッ……!」
無音、後、俺に向かって剣の横薙ぎ。
咄嗟に風の魔法を使って威力を半減し、土と水の魔法でクッションを作って受け身を取る。
「いきなり何を……!?」
「すまんすまん。少し気になってな。やはり四歳とは思えん」
剣を地面に突き立てて笑うヘイディ。
よく見たらその剣も、背負うレベルの大きさだった。
女性にしてはタッパのあるヘイディが扱うにしてもデカい。
「無詠唱で放出速度も速く、咄嗟に出したにしては綺麗な形成。複数属性を活用した確実なダメージの軽減。何なんだお前」
「いや、相手が相手だったんで……」
「ちなみに、風の防御だけだったら、お前骨折どころじゃ済まなかったぞ」
「えっ?」
「気付かなかったか? 剣は打撃武器じゃないのに、吹っ飛んだろ?」
そうだ。
俺に向いていたのは刃の方だ。
あのまま振り抜かれていれば、真っ二つにはなっても、吹っ飛びはしない筈。
「あれはだな。刃の部分に空気の塊を仕込んでおいて、標的に当たった瞬間に爆発するようになっているんだ。魔力を流せば発動する仕組みだから、流さなきゃ普通に斬れるんだけどな」
四歳のガキ相手になんちゅー事しやがる。
ていうか、中身の大人も普通にチビリそうだったんですけど。
「ふむ。あの決闘はまぐれじゃなさそうだな」
「分かっていただけたなら、何よりですよッ!!」
俺は風の弾丸を作ってヘイディとは真逆の方向、つまり俺の後ろ側に向かって放った。
ヘイディは驚いて反応が遅れたように見えたが、誤差の範囲。
すぐに追い付いて風の弾丸を斬り裂いた。
「貴様……」
「ヘイディを身代わりにしてコソコソしてないで、出てきたらどうですか」
俺が弾丸を放った木の陰から出てきたのは、細身の男性。
ラーガのワイルドさとは真逆の、好青年という言葉が似合う男だった。
「バレていたか」
男は笑っていた。
「ヘイディ、剣を下げるんだ。我々は少しやりすぎてしまった」
「依頼主に傷が付いては溜まったもんじゃない」
「そう言うな。傷を付けようとしたのはこちらもなんだから、仕返しされても文句は言えないよ」
男は片膝を付いて、頭を下げてきた。
後ろのヘイディは驚いた顔をしている。
それだけで頭を下げる事が珍しい身分なのだと察せる。
「ソロバルト君、だったね。私の名前はラスクド。ラスクド=ニルコータ。君の買い取り元だ」
ニルコータ家について知った時、俺はとんでもなくたまげる事となる。
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