第8話・予感

「そらっ!!!」

「んがッ!」

 俺が投げつけた、対エルバに用意してもらった切り札。

 ……ただの砂。

 だが、自分より重い鈍器を振り上げている奴に投げつけてやれば、目眩ましとして確実に決まる。

 そして、重い物を扱っている最中に目眩ましされると、その重心はブレる。

 振り下ろされた鈍器は俺から大きく外れ、落ちた。

 そして、その横からエルバの首を捉え、絞め上げる。

「、ガァァァッ!!」

「どうよ! 俺が武器術習ってるのに気付いて、武器を切り札にすると思ってたろ!?」

 そう。武器の扱いは習った。近接戦をやれば同年代にはまず圧勝できる。

 但し、その立ち回りは、武器を扱うだけには不自然だったのだ。

 エルバは俺から認識できるありとあらゆる情報から、俺の手札を全て読むであろうことをラーガと考えついた。

 そこで、全くやっていない事を切り札にしようと画策したのだ。

 剣を習い、魔法を磨き、されど預かったのはただの砂。

 絞め技なんか何一つ習っていない。習えばバレる。

 しかし、見ただけのものはどうしたって予測できないのだ。

 ぶっつけ本番。俺が唯一奴に届く間合い、ゼロ距離での必殺技。

 反撃されるなら動けなくする。読まれるなら考えられなくする。

 人間が思考も動作も奪われるのは、簡単な事、オチる直前。

 頸動脈を絞められた時。

「は、な、ぜぇぇぇ……ッ!!」

「喋んな! 大人しくオチろ!!!」

 どんなにエルバが強いったって、身体は人間。

 呼吸を、血流を奪われれば為す術はない。

 俺の腕は確実にエルバの首を絞めている。

(後、少し……ッ!)

「ソル!!! 離れろ!!!」 

「えっ」

 叫ぶラーガの声が聞こえた時には、俺の視界は白く染まり、ほんの一瞬の熱いという感覚を残し、意識は奪われていた。














「……うーん?」

「気が付いたか?」

 妙な揺れを感じて起き上がった。

 目を擦ると、ボンヤリしていた視界がハッキリしてきた。

 ここは……馬車の中?

「お前は今、護送中なのだ」

「え?」

「お前の身柄は、王都の割と大きな貴族の家に買い取られた」

 それって、つまり……。

「お前はエルバとの決闘に敗れた、そういう事だ」

 ですよねーー……。


「貴方……貴女? は、一体?」

「そのあなたという言葉のニュアンスの違いに関しては聞かないでおいてやろう。私は女だ。名はヘイディ」

 ヘイディと名乗った女性は、座ったまま俺の方を向いて話す。

「事の顛末、詳しく聞くか?さらっといくか?」

「……さらっとで。あんまり気持ちの良いものではないのでしょう?」

「お前、本当に四歳か?」

「残念ながら。厳密には違いますが、実際の四歳と大して変わらないかと」

「……まぁ、それだけ分かれば良い。では、ざっくり言うとだな」

 ヘイディは目を瞑り、事の顛末をそれはそれはざっくりと話し始めた。

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