第7話・当日
「とりあえず形にはなったな」
「……」
俺はボロボロになった。
暫く一言も喋れなくなるくらいには。
おかげで剣術と呼べるくらいにはなったが。
ボロボロだった。心身共に。
「現状、魔法レベルの必殺技じゃない。だが、ハッタリ程度にはなる。お前の魔法が発動できるまでの、時間稼ぎだな。そこしか勝機は無いぞ」
「……(コクッ)」
俺は頷いた後、意識を失った。
「身体の調子はどうだ?」
「案外大丈夫でした。これも両親が丈夫に産んでくれたおかげです」
「へっ。口が上手いな。誰に似たんだ?」
「先生の親友です」
「……そういや、アルハスも昔からこんなんだったか」
決闘当日。
こちらのセコンドに着いたのはラーガだった。
アルハスとナリアは外野で見ているらしい。
まぁ息子が目の前で死ぬかもしれない恐怖は、計り知れないものなのだろう。
前世と合わせても俺はまだ三十年程しか生きていないし、人の親になったこともない。
俺より若くして子を背負うあの二人は、きっと辛い部分も大きいはずだ。
だから、ラーガと沢山話す。
前世で友人と話した時と同じように。適当な話を。何度も何度も。本心を覆い隠すように。
……手の震えが止まらないな。
そう、俺は恐怖している。
当然だ。いっぺん死んでいるとは言え、生きている以上は殺される恐怖は芽生える。
エルバが強くなっていると聞く度に、その恐怖は増し、それを押し殺そうとした。
無理だったけどな。
「生憎、子供に上手くアドバイスできるような事を持ち合わせちゃいねぇが……」
ラーガは首筋をポリポリ掻きながら言った。
「もう駄目だと思ったら、勝ちを捨てろ。何が何でも負けて、生き残れ。負けなきゃ殺されるだけだ。上手く負けりゃ、必ず帰って来れる。時間はかかるかもしれんけどな」
アニメや漫画なら諦めずに耐えれば何かしらで救われる。
でも、この決闘はそうじゃない。
他の干渉が不可の、事実上の殺し合い。
エルバ側は多分死ぬまで俺を戦闘不能認定しないはずだ。
だから死ぬ前に、俺の負けを認めさせなきゃいけない。
そうしたら必ず生き残れる。
いつかリベンジができる、と。
「そろそろ時間だな。よし、行ってこい!」
「はい!」
決闘用の特設フィールド。
こんなのどかな田舎に、こんな物騒な物ができるとは……。
周りに建っているのは、本で見たことある英雄を模した石像だろうか。
「来たな」
「お前、エルバ、か?」
この一週間で、エルバは見違えたような成長をしていた。
現代で言う高校生くらいの体格だ。場合によっては成人に見えるかもしれない。
肉体的にも精神的にも、一週間前までクソガキだったとは思えねぇな。
「ふむ、やはり俺は異端なのか……。本来はお前の方が正常なのかもしれんな」
エルバは何かを気にしているような発言をしていた。
そうか、成長速度のせいで麻痺してるけど、実質十五、六のあの年頃になると自分と他人の違いが気になりだす頃なのか。
「決闘の前に良いか?」
「な、何か?」
「改めて、これまでの非礼を詫びる。すまなかった」
エルバは俺に頭を下げた。
現代人が傍から見れば、高校生が園児に頭を下げているようなものだ。
「や、止めてくださいよ。殺し合いの前ですよ?」
「分かっている。だが、今だけだからな。勝敗に関わらず、お前に謝れるのは……」
プライドが高かったこの男が、たった一週間でこれだけ変わる。
一週間で十年分の成長。
この事実は、俺が思う以上に重いのかもしれない。
「……さて、空気が悪くなっちまったな。ソル。こちらも命懸けだ。悪いが、死ぬかどうかはお前次第だぞ?」
「……えぇ、分かってます。いつやろうがこっちの不利は変わりませんから。お互い殺すつもりで、最後までやりましょう」
俺とエルバは審判の老師を見る。
「準備は整いましたかな?」
「あぁ。始めてくれ、シン」
老師の名はシンと言うのか。
今更知ってもどうしようもないが。
「では、どちらかが戦闘不能になった瞬間、止めますからな」
嘘つけ。俺がそうなっても止めないつもりだろうが。
「では、決闘、始め!」
「白炎!!」
先手必勝、切り札レベルの威力で牽制する!
長時間の仕込みがいる白炎だが、仕込んだものを体内に戻して取り出す、そういう訓練をした。
案の定上手くいったので、そのまま本番に持ち込んだのだ。
だが……。
「ふん!!」
あろうことか、エルバはそれを防いだ。
それに用いたのは、
「レンガ!? あの野郎、レンガの壁を魔法で精製しやがったのか!? しかも白炎に耐えるレベルの……」
「壁だけじゃねぇぞ!!」
しかも、壁にしたレンガブロックを分解して、それを投げてきた。
魔法そのものではなく、魔法で作った物質での攻撃。
つまり、物理攻撃だ。
ただの魔力障壁では防ぐことはできない。
魔法で壁を作って、物理防御をしなければならない。
俺は土魔法で岩の壁を引っ張り出し、何とか防いだ。
「……ッの野郎!!」
その勢いで、今度は水鉄砲。
単純火力では及ばないので、射出範囲を狭めて一点集中で威力を高める。
水レーザーとでも言えば良いだろうか。
高速で、高噴出の、しかも超集中の水レーザーは、分厚いレンガもブチ抜く。
だが微妙にエルバに届かない。
「ハッハッハッ! やるじゃないか!」
エルバは妙に嬉しそうだった。
「だがァ!!!」
奴は自分で作ったレンガの壁を大きく乗り越える巨大な波を生み出し、俺の身体をフェンス際まで押し流した。
「ぬガッ……!?」
「中々面白かったが、やはりこの程度だ! 終わりだソル!」
俺はエルバの持つ石製の武器、恐らく奴がこの場で作ったその鈍器で、殴り殺されるであろうその瞬間。
「待ってたぜ、この間合いを……ッ!!」
ラーガが用意した切り札を、取り出した。
勝ちが頭をよぎっていた。
この時は、まだ、足りないものに気付いていなかった。
ずっとエルバに勝てないという理由になっていた、その存在を、俺は忘れていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます