第4話 旅立ちの日に

 ようやくこの日がやってきた。教会に行ったあの日から久々に父さんと母さんの2人に挟まれて寝ることになった。少し恥ずかしさもあったが、その温かさが落ち着いてぐっすり眠ることが出来た。

 日中は父さんと剣の稽古をしたり、母さんとお菓子を作ったりと残り少ない家族の時間を有意義に過ごしたのであった。

 ただ、未だに笑顔スキルの効果は分かっていない…


「それじゃあ、行ってきます!」

「気をつけて行ってくるのよ?」

「もし、辛くなったらいつでも帰ってきていいからな?何なら1ヶ月に1回、いや1週間、いや毎日帰って…イテテッ…」


 父さんが言葉を言い終わる前に母さんから二の腕を抓られていた。その顔は笑顔なのに目が笑っていなかった。


「あなた?そろそろ往生際が悪いですよ?寂しいのは私も同じなのだから…」


 しみじみ本当にいい両親を持ったなと思う。こんなに自分のことを想って考えてくれるなんて…目にほこりでも入ったのか…水滴が滲み出てくる…


「父さんと母さんも元気にしていてね?たくさんの人を笑顔にして帰ってくるから!」

「ふふっ…その時はお嫁さんも連れてきてくれるのかな?楽しみに待ってるわね」

「お、お嫁さん!?レンはまだどこにもやらんぞ!」


 父さん…俺は息子だよ…そんな娘を渡すかのような反応しないでくれよ…


「じゃあ、父さん母さん行ってきます!」

「「行ってらっしゃい」」


 そして、涙が溢れる前に俺は家を出るのであった。扉が閉まると家の中から号泣している父さんと母さんの声が聞こえてきた。胸が苦しくなるも、1歩1歩確実に前に進んでいくしかなかった。

 そして、村を出てしばらくすると…


(…サム…ダ…レカ…タス…)


「ん?何の音だ?誰かの声か?」


 いきなり掠れた声のような音が聞こえてくる。でも、辺りを見渡しても何も無い。空耳だと思い足を進めようとすると…


(…オネガイ…タスケテ…)


「やっぱり誰かが呼んでいる?こっちか?」


 今度はさっきと違いある程度はっきりと声を聞くことが出来た。ただ、聞こえたのは街道の外れの林からだ。

 街道から外れるとモンスターなどに襲われる危険性があるため、なるべく行きたくないのだが…


「行くしかないよな…それに誰かが困っているのは間違いないし」


 意を決して林の中に入っていくと、そこには小さな洞窟があったのだ。他を探しても人らしき姿は見えないから十中八九この中から声がしたのであろう。


「おーい!聞こえるか?」

「………」


 洞窟の中に声をかけても、返事は返ってこない。


「仕方ない。中を見るしかないか…モンスターとか住み着いてないよな?」


 中に入ることに抵抗はあったがどうしてもさっき聞こえてきた声が気になって、剣を構えながら中に進むのであった。


「誰かいるのか?聞こえてたら返事してくれないか?」


 襲われる危険性があるものの、声を出しながら中に進んでいく。すると…


「…タスケテ…」

「!?そこか!」


 ちょうど洞窟の突き当たりに窪みがありそこから声が返ってきたのだ。慌てて駆け寄りその正体を確認すると…


「な!?こんな小さな子がどうして…」


 レンは絶句した。なぜなら、まだ幼い子どもが横たわっていたからだ。しかも、2人いるのだ。


「どうか…弟だけは…助けてください…」


 目の前に倒れている女の子が俺の足を掴んでお願いをしてくる。その手は汚れていて、しかも見るからに栄養が足りてないのが分かる細さだ。

 その横で倒れている少女の弟はぴくりとも動かず俺が来たことにすら気づいてないようであった。


「おい!大丈夫か?今助けるぞ!」

「…ありが…とうござ…います」

「もう喋らなくていい!今助けるからちょっと待ってろ!」


 俺は慌ててバックの中を漁り、念の為にと購入しておいた回復ポーションを手に取る。


「ほら。早くこれを飲むんだ」

「…私は…大丈夫…なので弟に…」

「いいから早く飲むんだ!」


 頑なに少女は飲もうとせず、弟に先に飲ませて欲しいと言うだけであった。仕方なく、横たわっている少女の弟を抱えあげると…


「(軽い…軽すぎる…一体いつからここにいたんだ…)」


 明らかに見た目3歳ぐらいなのに重さは産まれたての子どもぐらいであった。少女の弟は抱えあげても目を覚まさず、今にも死にそうなくらい弱々しかった。


「ちょっと失礼するぞ」


 そう言って俺は少女の弟の口にポーションを入れる。しかし、意識がないのか全く飲むことなくポーションを垂れ流していく。


「(くそっ!飲むことが出来ないのか!)」


 俺は悔やんでいた。目の前で助けを求めている人がいるのに無力な自分を。


「(どうすれば…このままだと死んでしまう…!!)」


 自分の無力さに嘆きながら、どうすることも出来ない現状に焦っていた。すると…


「…うっ…」

「!?意識が戻ったか!分かるか?これを少しでも飲めるか!」


 奇跡的に少女の弟は意識が戻りこちらを見つめている。

 口までポーションを運びゆっくり飲ませてやる。するとみるみるうちに外傷は回復していき呼吸も安定して、顔色も良くなっていた。

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