2話目 決意

 え? 俺の声がおかしいぞ?


「おぎゃー!!」


 どんなに喋ろうとしても言葉にならずまるで退化したかのように赤ちゃんの泣き声になっていた。

 事故で喋れなくなったのか? まずは起きないと…

 力が入らない! というか手が短い! この体は誰のだ?


「あら?目が覚めたのね」


 知らない女の人が俺の顔を覗き込んで優しく微笑んでいる。


「どうした!?何かあったのか!?」

「あなた心配しすぎですよ。寂しくて泣いただけだと思いますよ」

「そうかそうか。寂しいなら俺がずっと一緒にいてやるぞー」


 そう言いながら知らない男が俺を持ち上げて頬ずりしてくる。俺は今年で18歳になり、そんな簡単に抱き抱えられるほど小さくもないし軽くもない。それがいとも簡単に持ち上げられおっさんに頬ずりされるってどんな状況だ? ふと、視線の先に映る窓を見て思わず叫んでしまった。


「おぎゃぁぁあー!!(赤ちゃんになってる!!)」

「え!?父さんのことそんなに嫌いか?」

「あなたがいきなり抱き上げたからよ」


 目の前にいるのはお父さん? お母さん? 胸の中がぽっかり穴が空いたような寂しさがある。俺の知ってるお父さんはこんなに俺を心配しないし、お母さんはこんなにおめかししてるところを見たことない。


「じゃあ、俺は仕事に戻るぞ。レンのこと頼んだぞ」

「あなたに言われなくてもしっかり見てますよ。安心して仕事に行ってきてください」

「もし、もしもだ!レンが寂しくてどうしようもないなら仕事に行かないでもないんだが?」

「あなたがレンのそばにいたいだけでしょ?いいから早く行きなさい!!」


 この夫婦は見てて微笑ましい。どこか羨ましさを感じずにはいられない。

 でも、俺はいったいどうしたんだ? トラックに轢かれたと思ったら赤ちゃんになるって……


「レン少し寝ててね?私は料理してくるわね?」


 そう言うと、綺麗な女性は奥に消えていく。

 俺は、交通事故にあって怪我をしていたのではなかったのか?

 幾度も自問自答を繰り返すも答えは出ず、分かるのは俺が赤ちゃんに転生したという事実だ。周りを見渡すと見たことのない道具や読むことの出来ない本などがある。立ち上がって外の景色を見ようとするも体に力が入らない。


「あっあうあぁー(生まれたばかりの体じゃ何も出来ないか)」


ーー8年後


「父さん!母さん!おはようございます!」


 俺は8歳になってようやくこの世界に慣れてきた。まず、驚いたのが俺の名前だ。

 転生しても俺の名前はレンだった。正確に言うとラウレンティスが正式な名前だ。家族には愛称のレンと呼ばれる。

 更に魔法や魔物、スキルやレベルといった前の世界にはない常識で溢れかえっている。


「レンよく眠れたか?」

「はい!ぐっすりと眠れました!」


 父さんはすごい心配性だ。俺が少しでも転んで怪我をすると大慌てで治療院に連れてかれた。


「今日は私がパンを焼いたのだけど冷めないうちにレンも食べて!」

「はい!母さんありがとうございます!」


 母さんはすごく綺麗だ。毎日おめかしをして綺麗な服を着て美意識が高い。


「それで、レンはもう決めたのか?」

「はい!教会で洗礼を受けようと思っています!」


 8歳になると世間一般から見て子供から大人への一歩を踏み出す節目と言われている。そのため主に洗礼を受けるか修行を積むか家業を継ぐなどから選ばないといけない。

 洗礼は教会でお金を払って受ける儀式みたいなもので、話しを聞くとそこで自分のユニークスキルが分かるらしい。ユニークスキルは産まれた時から持っているスキルで、後から努力して入手出来るスキルとは別らしい。


「まだ早いんじゃないか?あと3年この家にいてもいいんだぞ?」

「いえ、父さんや母さんにこれ以上ご迷惑をかけたくないので……」


 なんでこんなに父さんが心配しているかと言うと、洗礼は受ける器が出来ていないと命を落とす危険があるらしい。だから、更に3年間家庭に入って11歳に洗礼を受けるというのもあったりするのだ。


「そうよ?私たちはレンがいても迷惑だなんて思わないし、寂しいわ」

「そうだぞ?お前は俺たちの息子だ!1度も迷惑だなんて思ったことは無い!だから、あと3年このまま過ごしてもいいいんじゃないか?」

「父さん、母さん、僕は洗礼を受けて冒険者になろうと思っているんだ」


 この世界では洗礼を受けると何かしらの職を身につけないといけない。そして、俺が密かに見つけてから憧れたのは冒険者だ!


「な!?それはどういうことだ!!」

「そうよ!!冒険者になりたいなんて今まで1度も言ったことないじゃないの!!」

「そうだ!それに、命を落とす危険性も他の職業に比べて断トツに高いし尚更3年はここにいた方がいいだろ?」


 どうしても父さんと母さんは俺をここに居させたいみたいだな。でも……


「父さん、母さん、僕は冒険者になって少しでも困っている人を助けたいんだ。そして、たくさんの人が笑顔で幸せな環境を作りたいんだ」


 俺はこの世界に転生した後、8年間色んなものを見てきた。そして、驚いたのが貧困層と富裕層の差だ。洗礼を受けても使えるスキルや魔法を持たなければ家族に見放されて奴隷になり一生こき使わることもある。そこそこ使えるスキルや魔法があっても雀の涙ほどのお金しか稼げないのだ。何故かって? 理由はたくさんあるが大半は貴族のせいだ。


 そもそも、ユニークスキルは家系によって似たスキルが継承されることがわかっており貴族はその優秀なスキルを掛け合わせてきた血筋なのだ。ここまで言えばわかるだろう? 貴族が平民をどのように扱うのかを。


「レンの言いたいことはわかったが、3年後じゃなくて8歳になった今なんだ?もう少し後からでも救うことは出来るだろう?」

「そうよ?それに、厳しいかもしれないけどレンが救えるのは1部だけ。今からでも3年後でも救える人数は変わらないと思うわよ?」

「それでも、救える立場になれるなら僕は今すぐにでも助けてあげたい。父さん、母さんお願いします。僕に洗礼を受けさせてください」


 それまで騒がしかった部屋が急に静まり返り、1分くらいだろうか? 体感で言うと5分くらいの時間が経った。


「はぁ……わかったよ。レンが思うように好きにやってみるといい」

「あなたはそれでいいの?」

「レンは俺の息子だ!何があろうと乗り越えてみせるさ!」

「あなたと私の息子ですからね」

「あ。あぁ…」


母さんが少し怒り気味に返すと父さんは萎縮してしまったらしい。でもこれで洗礼を受ける許可が出た!

ついに俺のユニークスキルが分かる!

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