先頭で駆け抜ける
赤鷽
先頭で駆け抜ける。
ガッシャン――!!
ゲートの開く音。
フルゲート18頭の馬たちが、我先にと駆け出していく。俺の騎乗馬、デンカノホウトウは後方集団。末脚自慢の直線勝負に賭けるタイプだから、これでいい。
今日のメインレースは距離2,000メートルのG1。
このコースは直線が長い。俺のデンカノホウトウには持って来いのコースだ。
先頭でレースを引っ張るのは、快足が売りのハートメテオ。ただ、こいつは玉砕覚悟で突っ走る。いわゆる、TV馬ってやつだが、こいつがいれば、レースの流れは速くなる。これも、デンカノホウトウにはおあつらえ向きだ。
問題は3番手で追走している、このレースで1番人気の本命馬、ミリオンワールドだな。先行抜け出しが得意なこいつは、レースで大崩れし難いし、直線での叩き合いにも滅法強い。馬体を併せる形にはしたくない……が、俺のデンカノホウトウも馬体を併せた方が、直線で伸びるんだよなあ。悩みどころだな。
その後ろの集団に、2番人気の対抗馬、ウインドシルエットが虎視眈々と、ミリオンワールドを見ながらレースを進めているし、その横にぴったりと付けてるのが、3番人気のスカイエデンだ。
俺がいるのは後方集団。まあ、ここにいる連中の中では、デンカノホウトウの末脚が1枚上手だ。他の馬は気にしなくていい。ただ、デンカノホウトウの仕掛けどころだけに集中するのみ。
レースは中盤に差し掛かり、俺の体内時計では、1,000メートル通過が1分ちょうど。いや、もう少し早いか。いい流れだ。
それでも、そろそろポジションを上げて行かないと、末脚自慢の直線勝負でも、間に合わなくなる。
俺は右手の鞭をチラチラとデンカノホウトウの視界に入るように何度も
こいつはのんびり屋だからな。こうでもしないと、その気にならないんだ。
残り4ハロン――800メートルの標識が過ぎて行った。俺のデンカノホウトウは今、馬群の中団まで押し上げたところ。逃げのハートメテオはいっぱいになってきたようで、本命馬のミリオンワールドが2番手追走のフリーハイウェイと一緒に並び掛ける。
途端にハートメテオが後退し始めた。並ばれると、ホントに弱いな。まあ、レースを作ったんだ。お疲れさん。
残り3ハロン――600メートルの標識通過。
ミリオンワールドが2番手から、先頭のフリーハイウェイに競り掛ける。対抗馬のウインドシルエット、3番人気のスカイエデンが、その後ろを追走。さらに2頭を間に挟んで、俺のデンカノホウトウが続く。もちろん、相手はあの3頭のみ。
第4コーナーを曲がり、残り500メートルを切ったあたりで、ミリオンワールドが先頭。ウインドシルエット、スカイエデンも並んでいる。俺のデンカノホウトウはその後ろまで来たぜ。
400メートルを切って、3頭の叩き合い。俺もその外に持ち出して、必死に追う。頼むぜ、相棒。
残り200メートル。くそ、なかなか距離が詰まらない。さすがは上位人気の3頭だ。
残り100メートルを切った。
4頭が横並びになり、一気に抜き去るのは難しい。悔しいが、馬体を併せての叩き合いの勝負になっちまった。
残りは50メートルもない。
その間、ずっと首の上げ下げ。こうなったら、各ジョッキーも懸命に追うしかねえ。
ここでゴール。
ゴール板を過ぎても、誰もガッツポーズをしない。乗ってる俺たちでも、誰が勝ったか、分からなかったからだ。
写真判定だな、こりゃ。
皆が引き上げる。
検量所に戻ってきても、誰も1着のところに馬を入れない。入れられなかった。
馬装を解いた馬たちを、それぞれの厩務員が引いて、ぐるぐると回り続ける。ジョッキーたちも顔を洗ったりした後、モニター画面を見上げるばかりだった。
長い長い写真判定の結果、1着に上がった馬番は――デンカノホウトウの馬番号。
俺は晴れて、念願だったG1ジョッキーの仲間入りを果たした。
先頭で駆け抜ける 赤鷽 @ditd
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