進化する遭難

天明福太郎

遭難

「おはよう。」

「おはよう。こっちは良い天気だけどそっちは?」

「最悪。最悪の前に超が付くほどの最悪。」

「あー。嵐とか。」

「正解。」

「外に出れないねー」

「そうだね。そっちは良い天気が続いてよかったよ。」

「そうだね……」

「どうしたの?」

「こっちばかり恵まれているような気がして。」

「そんなことないよ。こっちにはまだ携帯食料があるし。」

「それでも……」

「そっちも大変なんでしょ。」

「うん。」


気が付くと親友以上の関係になっていた電波の向こうの誰かは未だに顔すら知らない。




私は遭難した。

嵐で船は転覆。救助ボートに飛び乗った私を含めて3人。

嵐の中で必死にボートにしがみ着いた。地獄のような嵐を超えるとボートには私一人しか残っていなかった。

ヘロヘロになりながら、私はボートの中を必死に探した。

船底の底の底まで探した結果


・保存水

・保存食

・スマホ


上記のもの3つが見つかった。

水分を見た瞬間喉が渇き、貪るように水を飲み、食料を食い漁った。


「スマホだよね。」


ひとしきり、満たされると私は大切にしまっていたスマホを手に取った。

明らかに普通のスマホに見える。

最近発売されたタフさが売りで、半永久的に使える自動充電式に加え防塵・防水・強耐久といっていた気がするがそれ以外に何か特別なものは感じられなかった。


「使ってみないと分からないか。」


電源を入れて調べてみるが、一見普通のものと同じように見えた。

しかし、よく見ると一点だけおかしなところがあった。


”遭難用SNS”


アイコンは黒字に黄文字という目に着く配色で作られていた。

初めて見る、そのアイコンを押して、私はそのアプリを開いた。


”注意 まずは他のアプリが使えないか確認をしてください。もしも電波が通じる場合118まで電話をしてください。”


私は指示通りホーム画面に戻り、スマホを操作する。

しかし、他のどのアプリも開かなかった。

私は仕方なく。”遭難用SNS”を開く。

アプリ内をしばらく触っていくうちに少しづつ概要が分かってきた。

このアプリは同じ機種を利用している者同士でやり取りができるアプリであり、通常の方法とは異なる方法でのやり取りを行うので電波が来なくても、やり取りができるという事だった。


「嘘くさいな。」


説明に全く納得が行かないが、藁にもすがる思いで”通話”ボタンを押した。


「もしもし」

「……」

「もしもし」

「……」


返事がない。

一瞬でも希望を持った私が馬鹿だった。

スマホを叩きつけようと振りかぶった時だった。


「…しもし。もしもし!聞こえますか!」


スマホの奥から声が聞こえた。

私はあわててスマホを耳に着ける。


「もしもし!!聞こえてる!!!よかった!!つながった!!!」

「もしもし。聞こえてます。」

「助けてください!!遭難してしまって!!!!」

「遭難……」

「はい!!現在地も分からないんですけど!!助けてください!!!」

「落ち着いて聞いてください。」

「はい。」

「実は私も遭難しているんです。」

「え?」

「このアプリは半径100キロ以内の端末同士しか通話できないみたいで。」


それが初めての出会いだった。

最初は死ぬほど腹が立った。

訳の分からないアプリを入れてと。相手に怒鳴ったこともあった。

しかし、彼女は賢く、冷静で私の窮地を何度も救ってくれた。

今いる無人島に来れたのも彼女のおかげだ。

何より、彼女は私より過酷な中で必死にいきている。

そう思うと生きる元気が湧いてきた。





「今日で遭難してからどれぐらいになる?」

「半年かな。」

「お互いしぶといね。」

「そうだね、絶対に生き延びよう。」

「そうだね。」


半年間、私達はずっと話していた。

くだらない事も何もかもかなしていた。

話す話題がなくなってもなんとなく通話をつないでいた。


「あれ。」

「どうしたの?」

「音しない?」

「音?」

「そう。ヘリの音。」

「こっちは聞こえないよ」



私は救助された。

衰弱しきった状態で、私は必死に救助員に話しかけた。


「まだいるんです。」

「どこですか?」

「この島じゃなくて。このアプリの先に。彼女も助けてください。」

「アプリの先?見せてください。」

「はい。お願いします。」


私は救助員にスマホを渡すと疲れ切っていたのか、眠り込んでしまった。




「先輩、最近救助成功率高いですね。」

「そうだな。このアプリのおかげだな。」

「何ですかそれ。」

「知らないくてもいいけどな。遭難したとき専用のアプリだ。」

「そんなのあるんですね。」

「まぁな。知らなくていい事もあるわな。」

「さっき、そのアプリの先に遭難者がいるって。」

「いないよ。」

「え?」

「いないって。聞こえなかったのか。」

「でも、あんな必死で。」

「彼女やアプリ先のものにとっては遭難しているかもしれないけど。俺たちにとっては遭難していないんだ。」

「何ですかそれ。」

「分からなくていいんだよ。それよりこのスマホは帰ったら研究所に渡すからな。」

「研究所?」

「そう。会話を基にアプリのAIを強化するんだとよ。」

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