青春のリアル

@waispi-520010

黒幕

第一話 逓伝(ていでん)

4月5日 (月) 6時25分

朝、真琴はあるニュースを見た

<速報です。今日未明、沖縄と北海道の広い全

域で、停電が起きました。

沖縄電力と北海道電力は現在、原因を究明し

ていますが、未だ分からず、

県民・道民は戸惑いを隠せません。>

「大変だねぇ。」

と母は言った。

「うん、そうだね。まぁ、さすがに東京まで

 には来ないでしょう。

 …で、朝ご飯。」

「はいはい。」

朝ご飯をちゃっちゃと済ませ、真琴は制服に着替えた。

停電か…。

真琴はどこか他人事だった。

それもそうだ。

遠く離れた沖縄と遠く離れた北海道で同時に起きた停電。

被害に遭わず、特に関与もなければ、

多くの国民はそこまで気に留めないだろう。

しかし、それがまだ事の発端に過ぎないとは誰も予想にしていなかった。

一人を除いては…。


そんなことも露知らず、真琴は、家を7時15分に出て、そこから5分ほど歩き、ある家に着いた。

その玄関には真琴の友達、波美華が立っていた。

「おはよう、波美華。」

「おはよう。真琴。」

真琴と波美華はいつも学校に行く前に待ち合わせをして、一緒に歩きながら、駅に向かう。

駅まで徒歩で通常10分。電車で学校の最寄り駅まで5分。そこから徒歩で5分の近からず、遠からずの場所にある北辰高校に通っている。本当は計20分で着く距離なのだが、二人で歩くと話が弾んで、駅まで徒歩で20分かかる。だから実質、計30分かかる。

7時40分の電車に乗るため、最初は7時30分に集合だった。

二人とも10分で着くはずだと思っていたが、その日は見事に遅刻しそうになり、

そこから話し合って、今の集合時間になった。

「そういう、今日のニュース見た?」

波美華が真琴に聞いた。

「何のニュース?」

「あの、停電のニュース。」

「あぁ、あのニュースね、知らないわけない

 じゃん。テレビつけたら"速報です"って出て

 きて、ずーっとそのニュースだったもん。

 でもいうて、関係なくない?」

「まぁ、関係ないっちゃ関係ないけど、大丈夫

 かな?被害に遭った人たち…。」

「波美華って、変なところお人よしだよ

 ね。」

「酷くない?今、ディスったでしょ。もぅ、

 真琴なんて知らない!」

プイっと、顔を真琴から背けた。

「ごめんって、謝るからさー、許してよー、

 この通り!」

真琴は顔の前で手を合わせた。

「じゃあ、許す代わりに帰りアイスおごって

 ー、真琴ー。」

「えー、マジー?今、金欠なんだけどな

 ー…。」

「嘘、嘘。ごめんって。でもなんで金欠な

 の?

 真琴の家、意外と一般家庭のお小遣い額よ

 り少し高いじゃん。」

「いやーそうなんだけどさー、お小遣い日前

 だからなんだよぉ。」

「あー、分かるー。もらったときには使いす

 ぎないようにするんだけど、

 結局、何かと使ってお小遣い日前にはほと

 んどお金が無くなるんだよねー。」

と、JKあるあるを話しながら、駅に着いた。

改札を通り、ホームで電車を待つ。

この駅はそんなに大きくはなく、ほぼ無人状態。近くに最近大きな駅ができて、地下鉄もあるから、ほとんど人がそっちに流れてしまった。真琴たちもそっちに行った方が良さそうな感じだが、意外にもその駅よりもこの駅の方が近くので、あえて行かないのだ。

電車が来て乗り込んだ時、真琴の携帯の通知音が鳴った。

あ、やばっ、昨日通知オンにしっぱなしだった。

「よかったね、真琴。通知音鳴ったの電車内

 で。うちの学校何かと携帯の規則は厳しい

 じゃん。ほら、前もさー、誰かの携帯から

 通知音が鳴ってさー、宏隆(ひろたか)先生が

 犯人捜し始めちゃってやばかったじゃ

 ん。」

と波美華が小声で真琴に言った。

「そうだね。」

通知音をオフにするついでに何が通知されたのかを見た。

するとそこには

"速報 沖縄・北海道に続き、九州・一部東北でも原因不明の停電か"

「ねぇ、見て見て、波美華。

 ほら、朝話した停電のニュース。今度は九

 州と一部東北だって。」

携帯を見せながらその速報を見せた。

すると波美華は顔を少し曇らせながら言った。

「やばいね…、このスピードで停電していく

 と、東京もやっぱ停電しちゃうんじゃな

 い?」

「えー、縁起でもないこと言わないでよー。

 そんなことなら、いろいろ準備しとけばよ

 かったー。」

「何の準備?」

「決まってるでしょ、防災だよ。防災。

 コンロとか、懐中電灯とか。」

「あー、そうだね。私準備しておけばよかっ

 た…。」

「明日まで持ちこたえてくれないかなぁ。」

そう願いながら、最寄駅に降りた。

しかし、真琴の願いは叶わぬ願いとして終わってしまうのだった。


学校に着き、真琴と波美華は同じクラスに入った。

窓側の席には8時前に登校とは似合わない先客がいた。そこにはいつも遅刻ギリギリの自称『遅刻魔』の陣が来ていた。

すると、波美華が

「どうしたのー、陣君。珍しすぎない?陣君

 がこんな早くに来るなんて。」

と言ったので、真琴もそれに便乗し、

「ホントだよー、陣。陣が早く来るなんて雪

 でも降るんじゃない?」

とけらけら笑いながら、真琴は言った。

「真琴、喧嘩売ってんなら買うぜ。

 まぁひとまず聞いてくれよー。

 いやぁ、朝のニュース見た?」

「もしかして速報の停電のニュース?」

「そうそう。」

「私も朝、波美華とそのこと話しながら来た

 よ。あ、停電、九州と一部東北でも起きた

 って知ってる?」

「え、マジ?…まぁ、それはいったん置いと

 いて、朝、いつものように寝てたらさー、

 下から母さんと姉ちゃんの話し声がやけに

 聞こえて、目が覚めちまったんだよ。」

「良かったじゃん、お母さんとお姉さんに感

 謝だね。」

「別に。」

「冷たいなぁ。」

「そんなことはどうでもいいんだよ、こっか

 らが本題だ。」

陣が珍しく真剣な顔をしていたため、真琴は

もう本題飛ばした気がするけど、という返答は飲み込むことにした。

「うちのいとこが同じくらいの年で、ちょく

 ちょく会いに行くんだけど、そのいとこ、北

 海道にいるんだよ。」

「え、じゃあ、陣君のいとこって…、」

「そう、被害に遭ってる地域に住んでる。

 だから、俺、はーくんに、あ、いとこ『は

 ーくん』って言ってるんだけどはーくんに

 携帯でメールしたんだけど、送信したときに

 "現在このアドレスは使われていません"って

 出てきて送れなかったんだよ。」

「そのいとこ、アドレス変えたんじゃない?」

「いや、俺もそれは考えた。

 だけど、停電が起こるその日に変えるとは偶

 然とは言いにくいんじゃないか?

 それでも、そう考えて電話したんだけど、そ

 の電話番号も使われてませんって。」

「じゃあ、携帯変えたときにアドレスとかを

 陣に送るの忘れてたんじゃない?」

「そうだと良いんだけどな…。」

「でも、そのエピソードと学校早めに来たこ

 とと何の関係があるの?」

「いやぁ、その携帯の話が停電と何か関係が

 あったら、俺大発見だと思って、クラスメ

 イトに知らしめようと思ってた。」

気持ち良いぐらい前しか見ていない陣が可笑しくて、真琴と波美華かはクスッと笑った。

「何が可笑しいんだよ。」

少しムッとした表情で陣が聞いた。

「いやー、少し考えたら、まぁいっかってな

 りそうなものをよくそんな自信満々に言お

 うとするなぁって。」

「…っ。」

陣はそれ以上何も言えなくなった。

しかし、陣がこの時気付いたことは単なる"気のせい"ではなかった。

一部ではそれに気付き始めている人もいたが、停電と関連づく物証もなく、ただ『携帯が使えなくなった』という口コミが増える一方だった。

時間が進むにつれ、ほとんどクラスメイトが集まっていた。

8時45分、ついに恐れられていた事態が発生する。チカチカと教室や廊下の蛍光灯が点滅し始め、消えてしまった。

生徒と先生は予想していない出来事に慌ててしまった。

「えー、何ー!」

「停電じゃない?」

「え、どうするの?」

「今のニュースのやつじゃない?」

「ねー、どうすんの?」

「また、原因分からないんじゃね?」

「そしたら、学校休みかな?」

口々に生徒たちが喋り始めたため、先生が注意喚起をした。

「はーい、みんな静かに!今から緊急の職員

 会議を始めるので、皆さんは静かに教室で

 待機しててください。勝手に帰りそうな人

 がいたら、止めておいてくださいね!特に

 あなたよ、柿崎。」

「えー、勘弁してくださいよぉ。先生。

 遅刻しそうにはなりますけど、ちゃんと授業

 への意欲関心はありますからね。こう見え

 ても。」

「さぁ、どうだか。まぁ、教室で待機。」

「先生、自習してても良いんですか?」

通称:真面目ちゃんこと浅田 美穂(あさだみほ)が聞いた。

「うーん、悪いけどやめておいてくれる?

 もしかしたら、臨時で下校になるかもしれ

 ないから、準備とか遅れると危ないか

 ら。」

「…分かりました。」

「相変わらず真面目だねぇ。」

小声で真琴が近くの波美華に言った。

「しーっ、可哀想でしょ。」

「はいはい、どうもすみませんでした。」

まったく反省の色を示していない謝りを入れ、教職員の職員会議が終わるのをひたすらに待った。

結局、原因究明のため臨時下校となった。

「せっかく学校きたのになんか損した気

 分…。」

「そうだね。…ねぇ!波美華!せっかくだか

 らさ、どっか遊びに行かない?」

「行こう!行こう!どこ行く?」

「私見たい映画あるからさー、見に行こうよ

 ー」

「何の映画?」

「えっとね、待って調べるから、」

真琴は映画の名前を調べるため、携帯を取り出した。

すると、映画館が閉まっていることを知った。

「あ、波美華。今停電中だから映画館やって

 ないって。」

「じゃあ、もしかしたらほかのお店も閉まっ

 ているんじゃない?」

「そうだね。調べてみる。」

「ねぇ、真琴。見て。」

波美華が指をさした先には駅のホームに押し寄せる学生たちだった。

「え、どうしたの?」

近くの同級生に聞くと

「なんか停電の影響で、電車が動かないみた

 い。前線、運転見合わせだって。」

「えー、それじゃあ帰れないじゃん。」

「どうしよう。

 …あ、真琴。私の親多分、家いるから迎えに来てもらおうよ。」

「え?良いの?大丈夫?」

「うん、大丈夫だと思う。頼んでみるね。」

「ありがとー!やっぱ持つべき友は波美華だ

 なー。感謝です!」

「言い過ぎだってー。」

波美華は照れながら、携帯で母親に連絡した。

すると、さっきまで笑顔だった波美華の顔が強張っていった。

「どうしたの?」

「なんか、電話つながらない。この電話番号

 は使われてませんって。」

「え、おかしくない?…待って、それって陣

 が朝言ってたのじゃない?」

「いとこの話?まさか、いや、そんなはず

 は…。」

「私も親にかけてみる。」

「え、でも仕事中じゃ、」

「電話だったら、さすがにつながるでしょ。

 今この状況だし。」

「それもそうか。」

真琴は嫌な予感がした。

つながらなかったらどうしよう。

プルルル、プルルル。

呼び出し音が鳴る。

お願い出て。真琴は願っていた。

心臓の鼓動が早まっているのが感じた。

しかし、波美華と結果は同じだった。

まれにみる停電とは何か違うことを二人だけではなく、国民が身をもって感じていた。

電気も通っていないから、テレビも見れず、今の状況が分からない。

SNSで状況を書き込もうとしても、過去の履歴が見られるだけで、

新しく書き込むことができない。

ネット社会にありつつなっていることがまさに裏目に出た出来事だった。

政府もこの状況を把握できていないらしく、被害状況も分からない。

また、他県の知事にこの事態への対処などを連絡しようとしても、

電話がなぜかつながらない。

警察・自衛隊は『テロ』の可能性も視野に入れながら、被害状況を調べようと試みた。

また、各携帯会社・電力会社等に人々が殺到。

管理者も何が何だか分からず、ただもたつくばかりだった。

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