第14話 時の流れは早い

「おはようございますみなさん。朝の新聞を読んだ方もいるとございますが…」


 水無月は配達を終わらせた後、宿に戻り朝食を食べることなく学校へと来た。

 途中、アルマに心配されていたが水無月は気付くことなくスルーした。

 それほどの不安が水無月に覆い被さっていた。


「とりあえず異世界人の方々は夜に出かけることはやめてください。犯行は今まで深夜にしか行われていないのでリスクを大きく下げることができるはずです」


 クラスメイトは全員揃っている。

 その事実が水無月に被さった不安を取り除く。


「今『グラべオン』から騎士団が派遣され街の中を巡回しています。この国の騎士たちと協力して交代制で一日中街の警戒にあたっています」


 異世界人はそれぞれ仲良くなったクラスメイトに声をかけられている。

 反応はそれぞれだ。

 心配してくれてることにありがとうと感謝を伝える者や、事件そのものを全く気にしていないような者。


「二人とも気をつけてね」


 水無月と日下部をメリッサが心配する。


「そうですね。夜の仕事はなくすようにします」

「水無月くんも新聞配達してるんだよね」

「もう少し遅く出てもいいか頼んでみるよ」


 それにしても今まで配ってきた新聞に今回のような内容は一度もなかったはずだ。

 たった一日にして三人もの犠牲者が出るとは思えない。 

 それも異世界から来た人間が。


「今回の件どう思いますか」


 月霜が水無月たちに質問を投げかける。

 

「気になる点が多い。聞く限りでは異世界人のみ狙われているようだからな。何か狙いがあるとしか思えない」

「私もそう思います。日下部さんは?」

「たしかに気になるけど、僕たちは自分の身を守ることを優先したほうがいいと思うよ。あのグラべオンの騎士団が捕まえることのできないようだからね」

「そう…ですね」


 月霜は正義感が強い。ほんの短い間同じクラスで過ごしただけの水無月にも伝わるほどだ。

 そんな月霜にとってこの事件は水無月たちが巻き込まれる可能性があるから気になるのだろう。


「気になることはありますが授業を始めさせてもらいます。席についてください」


 みんな続々と自分の席へ戻っていく。


「月霜、余計なことはするなよ」

「ええ、分かっています」


 釘を刺す水無月だが、月霜は本当にわかったいるのかどうか曖昧な返事をする。


「本日の授業ですが旭昇天とグラべオンを中心に七国の説明をさせていただきます」


 授業は普段通りのペースで進んでいく。


「七国はそれぞれ『知恵』、『勇気』、『節制』、『正義』、『愛』、『信仰』、『希望』を掲げています。私たちのいる旭昇天は『愛』を掲げています」


 そしてグラべオンは『信仰』を掲げているようだ。

 この国が愛を掲げているのはこの国を収めている将軍の一族の、国に対する愛の強さが理由らしい。

 グラべオンは国家全体がとある神に忠誠を誓っていることから信仰の国とも呼ばれている。


「そして、グラべオンにある騎士団はエルアーデの中で最強と呼ばれています。これは騎士団全体の力も強いというのもありますが、この騎士団には最強と名高い騎士が所属していることが大きな理由ですね」


 それ以降は他の国について説明することはなく、旭昇天についての説明が続いた。

 現将軍は早くに両親を亡くし、妻も若くして亡くし、子宝にも恵まれなかったにもかかわらずその愛国心が変わらないことから歴代最高の将軍と呼ばれているらしい。

 最強の騎士の次に強いと言われる実力者がこの国にいるようだが、気まぐれでしか働かないので騎士団の異端児と呼ばれている。


「明日からは算数と国語の二つだけを取り扱うようにしますので日々の勉強を怠らないように」

 

 そう言ってメートリー先生は教室を出て行った。


     ーーーーーーーーーーー


「今回から武器を扱う練習もしていく。まずは自分に馴染むものを見つけられるよう様々な武器に触れてもらう」


 本来なら後期に含まれる武器の練習が前期に持ってこられている。

 今朝の記事の影響だろう。


「日下部、決まったか?」

「そうだね、いろいろ触ってみたけど短剣が一番合うかな」

「私は針を使えるから武器はいらないと思ったんだけど、近距離戦だと弱いから私も短剣かなあ」

「私は力がないのと距離を空けて戦いたいので軽くてリーチのとれる細剣にしました」


 他にも厳ついグローブや遠距離で使えそうなよくわからない武器、モーニングスターのようなものがある。

 主に攻撃力のある魔法を持っている人は小さく邪魔にならない武器を、メインとして魔法を使えないような人は槍や長剣を選んでいた。

 水無月も魔法は戦闘に使えなさそうなので扱いやすかった長剣を選ぶことにした。


「それでは明日までに君たちに合うように専用の武器を持ってくる。今日はそこにあるもので練習してもらう」


 その日は各自自分に合った武器の練習をして終わった。


      ーーーーーーーーーーー


 あの日から三ヶ月経ったが新しい被害者の情報が出ることはなく、騎士団は別の国に移動したと考えて巡回の人数を減らしたと新聞にあった。

 そして水無月たちは三ヶ月の間でみるみるうちに成長した。

 武器の扱いも騎士団に入れるほどのレベルまで上達したものが多い。

 その間の授業は算数と国語だけで今日は久しぶりに歴史の授業がある。


「本日は『狂気』についてやります」


『狂気』、その存在は数百年前から確認されており、一部の研究者には人型の生物が生まれた時から存在していたと考えれているがその詳細はまだあまり解明されていない。

 狂気自体は黒い霧のような存在で、触れることができないという。

 狂気を取り込んだ者は心身が徐々に蝕まれていき、異常な思考や人間離れした身体能力を身につけることとなる。

 異常な思考が頭の中を掻き乱すで魔法が使えなくなることも確認されている。

 量を取り込めば取り込むほど思考は狂っていく。

 元に戻すことはできず、相手の命を奪うこと以外に救う術はないという。

 そして、旭昇天は狂気を捕獲している唯一の国である。


「以上が『狂気』の情報となります。そして、三ヶ月前に起こった事件ですが、この狂気を取り込んだものの犯行だと考えられています」


 すなわち、その犯人を殺さなければこの事件が終わることはないということだ。


「当時話すと余計な恐怖を与えると思いこちらの判断でこの内容を今日まで先延ばしにしていました」


 知っていたところで今の水無月たちに人間離れした身体能力を持った奴に勝てるわけがないのだから、その判断は間違っているとは水無月は思わない。


      ーーーーーーーーーーー


「久しぶりにどこか行かない?」


 なんとなく外出するのも控えていた水無月と日下部だが、気分転換にとメリッサが買い物に二人を誘っている。


「明日おすすめの店連れてってくれよ」

「僕も明日は暇だからいいよ」

「ほんと!?それがね、ショッピングエリアにおすすめのお店が…」


 水無月はその日は久しぶりに緊張感から解放されたと思った。

 その日帰った後もアルマにすっきりとした顔になりましたねと言われていた。

 やっぱり死ぬ可能性があるとなると怖い。

 水無月も日下部も毎日学校に来ては存在を確かめてホッとしていた気がする。

 その暗い空気を変えてくれたメリッサに、水無月は心の底から感謝している。

 

      ーーーーーーーーーーー

本日のメートリー先生の授業

四回目です。メートリーです。

本日は種族、魔獣、動物の違いについてやっていきます。


大きな違いは魔法が関係してくるかどうかです。

動物と区分される生き物は魔法を使うこともなければ、魔法に惹かれるようなこともありません。

種族は、魔法を扱うことのできる生き物にことを指します。

そのため、人型以外にも、一般的に魔族と呼ばれる、狼のような見た目やドラゴンのような見た目の種族もあります。

私はスライム種が大好きですね。

魔獣は魔法を使うことはできませんが、魔法に惹かれる特性を持っている生き物のことを指します。

ただ、魔獣と魔族の区別は魔獣狩りのプロでも難しいです。

見た目がほとんど同じものもいますから。

そのために、魔族と魔獣を見分ける機械が体に埋め込まれることになります。

とっても小さいものですね。

この機械は魔獣相手にしか反応しません。

どういう仕組みなんですかね。マキナの機械は不思議なものばかりです。

今回の授業はここまでです。

また次の楽しみにしてくれると嬉しいです。

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