第12話 友達が働いてるの知るとちょっと焦る
「なぜ俺の上にまたがっているのか聞いてもいかな?」
アルマがキョトンとした反応を見せる。
困った顔をしたいのは水無月なのだが、何故アルマが困惑するのか。
「女将にこうすれば殿方を起こすことができると言われまして」
━━何教えてんだあの人。それで起きる殿方は別のもんだろ。
「それからかわれてるんじゃないかな、多分」
クソ最低な下ネタをアルマに教えるようなことはしない。
水無月はとりあえずはぐらかしておくことにする。
「とりあえずどいてくれる?」
「ごめんなさい」
少し恥ずかしそうに言いながら水無月の上から退く様子がかわいい。
「こんな朝からどうしたの?」
「またいろいろなお話聞かせて欲しいなと思って…」
前にアルマが、私たち中居は宿の外に出ることはない、と言っていたことを思い出す。
買い出しも業者に頼んでいるので外に出る機会はほとんどない。
支配人が外出する際には、手の空いている中居を連れて行くようだがまだ帰ってきてないらしい。
そんなこともあってか、前に宿の外であった話を水無月がしてあげた時はとても嬉しそうにしていた。
「今は学校にも通い始めたからね。前よりもいろいろと話せることも増えたよ」
「お話ししてくれるんですね。ありがとうございます」
「そうだ!朝食を持ってきてここで二人で話しながら食べようよ」
「いいんですか?」
「もちろんだよ」
「それでは朝食お持ちしますね」
楽しそうに部屋アルマが部屋を出ていく。
何を話そうか水無月が考えてるうちにアルマは帰ってきた。
かなり早く帰ってきたことからよほど楽しみにしていることが水無月にも伝わる。
水無月はまず初めにニホンでのことをアルマに話すことにした。
そもそも話せることが少ないので先に話のネタを消費し切りたいと思ったのだが、予想以上に目を輝かせながら話を聞くアルマに水無月も楽しくなり、随分と長く話してしまった。
「いろいろ聞かせてもらってありがとうございます。特にケータイというものはすごいんですね。片手で持てるサイズでいろんなことができるなんて」
「エルアーデにはそういうものはないのかな」
「文字を送るだけのものならあるのですがそこまで便利なものはないですね」
メッセージだけなら送ることができるようだ。
周りに電線のようなものを見たことがないが魔法でなんとかしているのだろうか。
「そういえば照明や洗面所の蛇口ってどういう仕組みで動いてるの?」
「確か、あれらは魔法を刻印したものを組み込んでいると聞いたことがあります。刻印されたものは想像する力のあるものなら誰でも扱えるようですよ」
「もう少し詳しく」
魔法を刻印という言葉に水無月が引っかかる。
「魔法の刻印は機械国家『マキナ』が生み出した技術です。とある物質に魔法を刻印するそうです。ただこの物質の作り方がマキナしか知らず、この世界にある魔法で動くものはそのほとんどがマキナ製となっています」
ふと思い出したことがあり、座布団を調べる。
やはりそうだ。水無月の座布団には旭昇天と書かれている。
ほとんどマキナ製と言っていたはずだが。
「そこに書かれている通り水無月さんの座布団はこの国で作られたものです」
「でも、ほとんどマキナ製なんだよな」
「一応刻印された物質は世の中に流通はしているんです。しかしすでに刻印されているものなので作れるものが限られてくるんです」
自国で作って売ってじゃ離れた国には時間がかかる。素材を売ってその国で作らせる方が需要の高さも相まり効率的だろう。
「なぜそれで動くんだ?」
「その物質には想像力や願いなどに反応する特性があるそうで、とある科学者によればこの反応は私たちが魔法を使うことと似ているらしいです。そして、反応した物質が刻印された魔法を発動するそうです」
「それは『魔除け』のものでも扱えるのか?」
「多分ですが、はい。『魔除け』の人にも想像する力はあるので使うことはできると思います」
日下部が魔除けかどうかの判断に使えるか期待したが、だめなようだ。
━━てか、日下部も座布団使ってたな。
「教えてくれてありがとう」
「私もいろいろな話を聞けて楽しかったです」
いつか一緒にどこかにおでかけでもしてみるのもいいかもしれないなと水無月は思う。
「この後はどうされますか?」
「少し出かけてくるよ」
「いってらっしゃいませ」
ーーーーーーーーーーー
魔法の練習ができそうなところを見つけるために出かけたはいいもののちょうど良さそうなところが見つからない。
雑草はいたるところにあるのだが人通りが多く、練習する気にならない。
かっこいい魔法なら水無月も見せつけるかのように練習をするのだが、草がちょっと伸びる魔法を人前でやるのは恥ずかしい。
「この道なら大丈夫そうだな」
とりあえずそこら辺の路地裏に入って行く。
昼間だというのに少し暗い。
「ささっと終わらせますか」
いつものように魔法を使う。
今日は三センチぐらい伸びた。上達はしているようだ。あんまり嬉しくないが。
「あっ。すみません。急いでいて」
「気をつけなよ。兄ちゃん」
路地裏から出ようとした時に見覚えのある人物を見かける。
日下部だ。
かなり急いでいだ様子でどこかに向かっている。
「時間はあるしついてってみるか」
日下部の後をついてってしばらく。
日下部が建物に入っていく姿が見えた。
「なんだあそこ」
ドアがすぐ近くに二つ付いている変わった造りだ。
看板もなくお店ではないように見えるのだが。
すると一人の女性が日下部が入っていた方とは逆の方の扉へと入って行く
陰からその建物を観察しているとしばらくして女性が出てきた。
入る前と比べ何か安心したような顔をしている。
「入ればわかるか」
水無月が、女性の出てきた方のドアに入っていく。
「どうされましたか?何か悩みがおありですか?」
部屋に入るやいなやそんな声が耳に入る。
部屋はそこまで広くなく横の部屋とは薄い壁で仕切られているようだ。相手の手元だけ見えるようになっている。
隣の部屋には日下部がいるのだろう。
「別に悩みはないんだけど、その、何やってるんすか日下部さん」
「その声は水無月くんだね。どうしてここにいるのかな」
いつもと変わらない口調で日下部が喋る。
「たまたま外で見かけてついてきただけで特に用はないっていうか」
「それなら安心したよ。基本的にここは口コミでしか知られることがないからね」
「日下部こそここで何してるんだ?」
「ここは僕の仕事場だよ。僕は相談屋をやっていてね、解決しなければ無料っていう感じでやらせてもらっているんだ。その分周りの相談やと違って成功報酬は少し高めにもらってるんだけど」
「それは愚痴を聞いているってことか?」
「そういうお客さんもいるけどそういうことは基本無料で聞いているよ。僕がお金をもらうのは、例えば迷子のペット探しだとかそういうことばかりだね。お客さんの情報にも関わることだからあまり詳しいことは言えないけど」
「そうなのか、ついでに俺も一つ相談いいか?」
「いいよ。初めての人には無料サービスをやっているからドーンと頼ってね」
結構楽しんでいるようだ。
初めての人にはってことはリピーターは結構な数いそうだ。
「俺今お金がなくてさ、働く場所とかあれば教えて欲しいんだけど」
「それなら新聞配達とかいいんじゃないかな。朝は早いけど座布団さえあれば結構楽だよ。やる気があるのなら紹介するけどどうする?」
「頼むよ」
「それじゃあ、明日この場所に行ってね」
「わかった。ありがとう」
「ここにくることが二度とないように願っているよ」
出ていく直前にそんな言葉をかけられた。
本人もこの場所が必要であって欲しいとは思っていないようだ。
『新聞配達員募集中』というチラシと場所の書かれた地図をもらった。
座布団持っている方は即採用と書かれているので水無月が面接で落ちるという心配はなくなった。
「とりあえずやってみるか」
ーーーーーーーーーーー
「おはようございます。水無月と言います」
「あぁ、君が水無月君だね。日下部さんから話は聞いているよ。座布団は持っているんだったよね」
「はい。一応その座布団も持ってきました」
「信じてないわけじゃないよ。確認さ。まあ、それなら明日からいきなり働いてもらってもいいかな?」
「はい。大丈夫です」
「それじゃあ、これが君の担当する地区の地図とお客様の情報ね。頑張って今日中に覚えれたらいいけど数が多いからね、最初の方は地図を見ながら配達するといい」
「わかりました」
「給料は日給がいいかい。週給、月給とすることもできるけど」
「週休でお願いします」
「りょーかい。明日から頼むね。新聞はここに取りにきてもらうことになっているからよろしくね」
「わかりました。よろしくお願いします」
「それじゃあ今日はもう帰っていいよ。学校もあるんだろ?準備を整えるといい」
「ありがとうございます。失礼します」
そんなことで明日から働くことになった。
水無月の担当する地区では百五十部配ることになっている。
しかし、綺麗に一筆書きでいけるようなルートが書かれているので案外すぐ終わりそうだ。
男子高校生水無月、明日から新聞配達頑張ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます