第11話 異性との買い物は緊張する

「水無月さん。今日はメリッサさんとお出かですか?」

「そうだけど」


 少し拗ねた様子のアルマに、水無月が答える。

 その調子でアルマが続ける。


「朝食お持ちしましょうか?」

「できるの?」

「はい。水無月さんは基本的に簡単なもので済ましているのでわざわざ移動してもらう必要もないかなと思いまして」

「ありがとう。とっても助かるよ」

「今後もそうしますか?」

「そうだね。そうしてくれると嬉しいな」

「わかりました」

「…でもアルマちゃんが頑張って作った料理だからねなあ。休日ぐらいは下で食べようかな」

「では、予定のある日は部屋までお持ちします」

「そういえば一緒に食べることはできないの?どうせなら一緒に食べたいんだけど」

「そ、それは、ど、どうでしょうか……女将に聞いておきます。…それでは本日は下で食べるということでよろしいでしょうか」

「そうするよ」

「わかりました。失礼します」


 あからさまな動揺を見せるが、水無月は出かける準備に忙しくてその様子に気づかない。

 そのことにアルマが少し不機嫌になってそのまま部屋を出ていった。


      ーーーーーーーーーーー


 昼まで時間があったので、水無月は魔法の練習をするため外へと出ていた。

 

「あれ?雑草がない」


 昨晩あったはずの雑草が綺麗さっぱり抜かれていた。

 宿の前に少しあったやつを練習用にしようとしていたのだが、どうするものか。

 目に見て変化が分かりそうなものがない。


「あれにするか」


 とりあえず近くに生えていたまだ蕾の状態の小さな花を練習用に選ぶ。

 

「右手も練習しといた方がいいのか?」


 といっても使えない魔法の練習の仕方など全くわからないのだが。


「今度日下部に聞いてみるか」


 左手を蕾に向ける。

 頭で花が咲く様子をイメージする。

 前回の二回はぼんやりとしたイメージだったが、今回はもっと具体的に思い描く。

 蕾が開花するその様子を思い描く。

 左手の紋様が輝き始めた。

 いつもよりほんの少し長く輝いたのは気のせいだろうか。

 

「あー、どうだ、これ?」


 少しだけ蕾が開いたような気もするが、微妙なところだ。

 あまり変わったようには見えない。


「やっぱ雑草の方がわかりやすくていいな」


 今度から練習をするときに雑草を見つける手間が増えるが、宿の周辺にないだけで少し出かければ見つけれるだろう。

 そのあと何回か蕾に魔法を試したが、変化が起きることはなかった。


「こんなもんでいいか」


 メリッサとすれ違わないように、部屋に戻ることにした。


      ーーーーーーーーーーー


「水無月くーん」

「ほーい。今行く」


 自分の部屋の扉を開ける。

 

「っ!」


 いつもの元気さに似合った服装とは違い今日の服装は女性らしい服装だ。

 普段とのギャップからか水無月の胸が少し高鳴る。


「どうかな?似合ってる?」 


 上目遣いでそんなことを聞いてくる。

 うまく目を合わせることができない。


「あ、ああ。似合ってるよ」

「そう?ありがと。それじゃ行こっか」


 メリッサの案内により、迷うことなく国一番のショッピングエリアに到着した。

 一時間以上歩いたので水無月の足はすでに悲鳴を上げている。

 こんなか弱い足で大丈夫だろうか。


「結構歩いたね。ちょっと休憩しようか」


 そのままメリッサは喫茶店と思われるお店の入っていく。


「この前ここで食べたパンケーキがすごく美味しかったんだ」

「そうなんだ。俺金ないから食えないけど」

「今日は付き合ってもらってるんだから私が奢るよ」

「ありがとう。また今度何かお返しでも」

「期待しとくね。なくてもいいけど」


 店員さんが俺とメリッサの注文を取り店の奥へと注文を伝えにいった。

 品が届くまでの間、水無月は窓の外を眺め、いろいろな種族がいたことに興奮していた。

 ホイップクリームと二種類の果物のジャムが添えられている。


「ジャムは自分の好みでおかけください」

「ありがとうございまーす」


 メリッサが早速パンケーキを頬張る。


「おいし〜」

「いただきます」


 まずは赤い方のジャムを少しかける。

 程よい酸味が効いていてジャムの甘さと合っている。苺に似たような味だ。

 次に紫色のジャムをかける。

 こちらは果肉が入っているので果物の美味しさをそのまま感じ取れることができる。ブルーベリーのような味だ。

 そのまま水無月たちは少しの会話を挟みながらパンケーキを食べ終えた。


「美味しかったでしょ」

「とっても美味かった」

 

 その後はメリッサの服やアクセサリーを買うのに色々な店を回った。


「この服どう?」

「ちょっと露出が多い気がするけど…」

「そっかー、可愛いと思ったんだけど」

「こっちの服はどう?可愛いし似合うと思うんだけど」

「うーん。試着してみればいっか」


 いくつかの服を持って試着室の中に入っていく。


「さっきおすすめしてくれた服いいね」


 お気に召された様子に水無月も謎の満足感が込み上げる。


━━俺のセンスはダサいから口挟まないでって言われた時は泣きそうだったぜ。

 

 彼女とのことを思い出す。

 センスのなさが分かってからは荷物持ちにしかされていなかったが、水無月は楽しかったなと思う。

 メリッサは他の服も試着していたが、スタイルの良いメリッサには大抵の服が似合っていた。

 その中からメリッサが気に入った数着をレジへと持っていく。


「会計は…」


 その間ゲーム機がないか水無月は店内を見回すがそれらしいものはなかった。

 今のところ世界観に合うようなものばかりなので、作る側に異世界人が関係しているのだろうか。

 水無月も世界観は好きなので、崩したくないという考えはわかる。

 服を買い終えたメリッサは荷物を水無月に持たせてアクセサリーショップへと向かった。


━━やっぱ荷物持ちとして呼ばれてますよね…


「このネックレスよくない?」


 水無月はその手のものに興味がないので、そんなことを聞かれてもわからない。

 とりあえず適当に全て可愛いと思うと言っていたが、適当に返事するのやめてくれる?と怒られていた。


「すみません」


      ーーーーーーーーーーー


「今日はありがとうね。荷物も持ってもらっちゃって」

「いいんだよ。いつも楽しくさせてもらってるからな」


 他愛のない会話をしながら帰路につく。

 

「ドンッ」


 水無月の肩に誰かの肩がぶつかる。

 即座に謝る体勢になる。

 情けない。


「すみません」

「いえ、こちらも子供達の方に目を向けていて注意不足でした」


 清潔感のある男性。それも、周りよりも人一倍気を遣っているような。

 腕には小さな幼児を抱いていて、その周りには数人の子どもがいる。

 その子どもの一人が水無月のぶつかった男性にどうしたの?と聞いている。

 それに対してその男性はこの方とぶつかってしまってねと優しく事情を説明していた。

 その説明をする時に一瞬だけ目が紅く輝いたような気がするが、夕陽に照らされていたので見間違えただけだろうと水無月は思うことにした。


「それでは急いでおりますので、失礼します」


 そう言って男は子ども達を連れて歩いて行った。


「大丈夫だった?」

「ああ、あの人が子どもを落とさなくてよかったよ」


 それにしてもなぜあれだけの数の子供を連れているのか。


━━まあ、保育園や幼稚園があってもおかしくないか。


      ーーーーーーーーーーー


「じゃあね。水無月くん」


 メリッサは部屋が二階にあるそうで、階段の踊り場で別れることになる。

 メリッサと別れ水無月は自分の部屋の前に向かうのだが、小さな人影が一つ、自分の部屋の前で佇んでいる。


「おかえりなさい水無月さん」

「どうしたの部屋の前で」

「明日時間ありますか?」

 

 アルマ側から水無月の時間を確保しにくるのは初めてのことだ。

 そのことに何か問題があったのかと不安になる。


「俺は毎日暇だよ」

「では、明日私のタイミングでお部屋に伺ってもいいでしょうか」

「いいよ」


 が、問題があったわけではなさそうなので、水無月は一安心する。


「ありがとうございます。お風呂と夕食の準備はできております」

「少ししたら食べにいくよ」

「わかりました」


      ーーーーーーーーーーー


「水無…ん、水…さん」


 昨日の疲れからか、水無月は起きる気配を見せない。


「起きてください水無月さん」


 しかし、繰り返し名前を呼ばれ、鬱陶しさを感じながら目を開ける。


「朝早くからすみません。私です」


 水無月は、今やっと声の持ち主がアルマであることを確認する。

 しかし、おかしなことが二つ。

 

「おはよう、アルマちゃん」


 何故か水無月の部屋におり、何故か水無月の上、具体的には腰のあたりに跨っているアルマに声をかける。


「何やってんの?」


 と。

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