第10話 体力なんてすぐなくなる
その後も残った人たちの魔法適正の確認は続いていく。
中には一度見たかなと思えるようなほど他の人と似ている魔法もあった。
魔法自体に唯一性はないようだ。
魔法の発現が無いのは今のところ水無月となっている。
「そういえばメリッサはどうだったんだ?」
「私は針を創り出すのと、毒の花を咲かせることができる魔法だって」
随分と殺気の高い魔法二つだ。
「先生には練習すれば針ももっと鋭利になるし一度に作れる数も増えるだろうって言われたよ」
先生たちは生徒一人一人にアドバイスを伝えている。
そして、全員に共通するアドバイスとして、毎日の練習を怠ってはならないと言っていた。
水無月の魔法も練習すれば草を伸ばすといったものではなく別のものであることである可能性もあると言っていた。
その言葉を信じ、水無月は毎日魔法の練習をすると心に誓った。
せっかくの異世界転移なのだ、どうせならかっこいい魔法であると信じたい。
「最後に日下部さん。お願いします」
「はい」
先生に呼ばれた日下部が右手を的に向ける。
紋様が輝く。
だが周りに変化は起きない。
水無月は日下部の顔を見るが結果を知っていたかのように落ち着いている。
続いて左手も的に向けるが右手と同じく変化が起きることはなかった。
「練習する必要がありますね」
日下部は調子を落とすこともなくそう言った。
「ええ、頑張れば魔法は必ず使えるようになりますから。これからの一年間で先生たちもサポートしますのであまり重く受け止めないでください」
「はい。そうします」
ベント先生が日下部の魔法の情報を書き込む。
「今日の授業はここまでです。皆さんお疲れ様でした」
メートリー先生がそれを確認し、生徒たちに授業の終了を伝える。
「先生、聞きたいことがあるんですが」
「どうされましたか水無月さん」
昨晩アルマに聞かれたことを忘れずに確認しておく。
「休日ってあるのかなあと思って」
「ありますよ。学校は四日間来たら三日間の休みが生徒に与えられることになっているので」
「そうなんですか。ありがとうございます」
忘れずに確認することができた。
あとは忘れないうちにアルマにこのことを伝えるだけだ。
水無月がふとなぜアルマが休日を把握したいのか気になるが、メリッサの元気な声に呼ばれ考えるのをやめた。
「水無月くん。帰ろー」
「おっけー。日下部はどうする?」
「僕は今日は仕事でそのまま出かけるから。ごめんね」
「気にすんなよ。じゃあまた明日な」
「バイバーイ。日下部くん」
ーーーーーーーーーーー
「水無月くんが魔法を片手しか使えなかったのには驚いたけど日下部くんが魔法を使えなかったのはもっとびっくりしたよ」
「なんでだ?」
「なんか、異世界人の人は魔法を使うことにおいては私たちと違って得意なんだって。魔法を自分が使っているイメージを鮮明に頭に浮かべれるとかなんとか」
魔法を用いた作品は水無月が思い浮かべただけでも数え切れないほどにある。
それに影響されて自分が魔法を使っている姿を想像したことのある人も少なくはないだろう。
その経験から異世界人が魔法を使うのが得意というのもわからなくはない。
そうなると、日下部が魔法を使えないのはそういうものに触れてこなかったからだろうか。
それとも、魔除けと呼ばれるものを日下部が患っているのか。
そもそも異世界人が魔除けを患うことがあるのかと考えるが、その可能性は考えにくいので日下部も練習を重ねればいつの日か魔法を使えるようになるだろう。
「でも魔法の応用は私たちの方が得意らしいよ。異世界人は元の世界の魔法にイメージが引っ張られて様々な使い方ができないらしいんだって」
「たしかに俺も魔法といったらこんな感じってイメージがなんとなくあるなぁ」
「そうなんだね」
水無月が自分の好きだった作品を思い浮かべる。
実際、魔法適正の確認の時もその作品に出てくる魔法を頭に思い浮かべていた。
残念ながら現状草を伸ばす以外の効果を持ち合わせていない魔法が発言したわけだが。
植物を扱う登場人物もいたので、今度からはそれをイメージしようと水無月は思う。
そんなことを考えているうちに、宿に到着した。
「やっぱり空飛ぶと早いね」
「そうだな。それじゃまた明日」
「明日は一緒に行こうよ」
「りょーかい。俺の部屋教えとくから」
「おっけー。迎えにいくよ。準備終わらせといてね」
「あんまり早く来られても困るからな」
「はいはい」
適当な返事だ。
ーーーーーーーーーーー
「おかえりなさい水無月さん」
「ただいまアルマちゃん」
水無月の部屋の前にアルマがいた。
帰りを待っていたようだ。
「休みの予定は分かりましたか?」
「それだけのために部屋の前で待っていたのか?」
「ごめんなさい」
「別に嫌がっているわけじゃないんだ。なんで休日のことを把握したいのか気になっただけで」
「休日はお部屋でゆっくりされる方が多いのでいつもよりも気をつけて動かないと部屋を整える最中にお客様に出会うことがあるって聞いて」
普段よりも少し早い口調で話す。言葉も尻すぼみに小さくなっていく。
何か言いたくないことでもあるようだが、水無月も無理に聞き出そうとは思わない。
「そういうことだったんだね。休日は明後日から三日間あるけど多分部屋からは出ないかなぁ」
「わかりました。なんとか頑張ります」
アルマが部屋に入ってきても水無月は気にしないが、アルマのやる気を尊重するため野暮なことは言わない。
「頑張ってね」
「はい」
「先にお風呂入ってくるから食事の準備ができたらメッセージカード置いといて」
「かしこまりました」
ーーーーーーーーーーー
月が照らす中、宿の外へと出る。
朝日に照らされる街も何度か見たが、水無月は夜の街の景色の方が好きだ。
淡い青の光と月の光が街を大人しく照らしている雰囲気がいい。
「魔法の練習でもやりますかっと」
毎日継続することが大事と言っていた先生の言葉通り、水無月は魔法の練習をするために宿から出てきたのだ。
自分の力量を把握すれば成長しやすくなり、応用も聴きやすくなるらしいので、練習すればするほど魔法は上達していく。
左手の魔法を発動させようと構える。
「そんなに心配することはないよ。君の魔法は草を生やす能力なんかじゃないから」
「随分と早い再会だな」
「君が勘違いしたまま魔法を上達させるのはもったいないと思ってね」
「気遣いありがとなシェイ」
神出鬼没に現れるシェイに水無月はもう慣れたようだ。驚く様子もない。
「でも俺の魔法が何かまでは教えてくれないんだろ」
「僕のことをこの短期間でそんなにも理解してくれるなんて。僕はとってもうれしいよ」
一ヶ月間の間に何回も会っていたら水無月もシェイのことをなんとなくわかってきた。
嘘をつくことはない、かと言って本当のことを言うわけでもない。
聞かれたくないことにはそういうスタンスをシェイはとる。
水無月はそんなシェイを信用ができない。
いつからかそう思い、自分から少しだけ心に距離が置いたことを感じている。
「今君にできることは練習を毎日することだよ。一日一回でもいい、とりあえずいろいろなものにその魔法を試してみるんだ。そしたら君の魔法がなんなのかわかる日が来るよ」
「素直にありがとうって言っておくよ」
「どういたしまして。バイバイ」
一瞬でシェイはその姿を消した。
「慣れるまではそこらの雑草でいいか」
頭の中でイメージを膨らます。
紋様が輝き出した。
その後、周りの雑草が伸びていく。
「学校でやったのと同じく2cmぐらいか」
そうすぐに成長しないのはわかっているが、ただでさえ地味な練習を毎日するのも飽きてきそうだ。
「今日はもう寝るか」
ーーーーーーーーーーー
「おはよう!水無月くん」
いつもとは違い大きな声が外から聞こえる。
声からしてメリッサだ。
「早すぎないか」
「いいじゃん。一緒に朝ごはん食べよ」
「そんなことできるのか?」
「さっきアルマちゃんだっけ?その子と会ったんだけど二人分用意してくれるんだって」
中居の人は自分以外の客には姿を見せないと言っていたがアルマはメリッサに見つかってしまったようだ。
まだそういうところに幼さが伺えるのがかわいい。
「それにしてもあなたの中居さんすっごいかわいいね」
「アルマに直接言ってやれ。喜ぶだろうよ」
水無月はいつものアルマちゃん呼びをしない。
自分がすごい甘えてる感じがしてくるからだ。
「わかった。早く行きましょ」
「わかったよ」
食事だが案の定メリッサは青い液体を飲んでいた。
水無月の食欲がマッハで失われていく。
「水無月くんはこれ飲まないの?」
「俺は別にいいかな」
水無月は朝食をすぐに済ませたいタイプなので、サンドイッチやおにぎりといった手軽に食べられるものを作ってもらうようアルマに頼んでいる。
「ごちそうさま!さ、学校に行きましょう」
「ごちそうさま。着替えてくるから外で待っててくれ」
「早くきてね」
ーーーーーーーーーーー
学校だが午前中は算数と国語の授業であった。
水無月は除法に苦戦していたメリッサにつきっきりで教えていた。
本日から体力づくりとなっていた午後だが運動できない組の水無月、日下部、月霜の三人は仲良く先生から助言をいただいた。
水無月は運動神経は悪くないが体力が人よりもなさすぎると言われた。
これでも高校に入るまでは水泳を本格的にやっていたのだが今ではこの三人の中でも一番体力がない。
月霜と日下部は単に動くことに体が慣れていないとのことなので、すぐに水無月を追い越すこともできるだろう。
授業は三人で仲良くばてていたら終わっていた。
「水無月くん。明日から休みだけど暇な日ある?」
「俺はいつでも暇だが」
「だったらさ、明日私と一緒に買い物付き合ってよ」
「いいよ。俺お金持ってないから何も奢れないけど」
「私の買い物だからそんなこと気にしなくていいよ。明日のお昼頃に部屋いくね」
「りょーかい」
思ってもいなかった青春イベントに水無月の胸は高鳴る。
彼女とは何度か買い物に行った時も緊張はしたが、友達と行くとなるとまた別の緊張がある。
女友達と一緒に買い物に行くことに緊張するのは彼女がいるいない関係ないはずだ、と自分に言い聞かせる。
「今度会えたら謝るか」
水無月は彼女に謝る準備をしておくことにした。
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本日のメートリー先生の授業
二回目の授業です。メートリーです。
本日は前回の続きをやっていきます。
人型の生物が誕生するところからですね。
人型の生物が誕生したのは今から約一千万年ほど昔のことです。
最初は猿のような見た目をしていたみたいですよ。
道具を使って生活をした痕跡も発見されています
ですがまだ言語や魔法を使ったりってことはなかったようです。
まだこの時代には魔族や亜人といったものは存在ていなかったようですね。
ここから人類は数百万年かけて進化していき、言語を扱うようになったのは今から一万年ほど前のことです。
すごく最近のことに感じますよね。
そして、時を同じくして魔法も使い始めたと言います。
生物の発展で一番不思議とされているのがここからなのですが、ここから先はまた次の授業で。
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