第六章の⑦:新聞屋時代の思い出(集金編3)
前回A級までのお客さんについて書いてみたが、今回は唯一最後まで回収にてこずったSクラスのお客さんについて書いてみる。
そのお客さんの経緯としては、どうやらパートさんや正規の従業員が獲得してきたお客さんではなく、新聞拡張員と言われるいわゆる新聞セールス専門の外部業者を入れた時に獲得した物らしい。
未回収の金額を見てみると契約した月から数か月分、万単位で残債があった。
これだけ見てもうんざりするのだが、話を聞くと従業員がどんな時間帯に行っても不在、もしくは居留守だというのだ。
曰く、「電気は点いているのにドアを叩いてもベルを鳴らしても反応が無い」との事。
住居の形式としては、いわゆる『●●荘』と言われる、ステレオタイプな風呂トイレ共用の集合住宅。
しかも契約書をよく見ると、名前がカタカナ・・・明らかに日本人ではない名前。
ただでさえ難しそうなところにこれである。偏見や差別ではないが、大体こういったお客さんで未回収が積もっているお客さんは回収しきれず不良債権化していることが多い・・・らしい。(店長やほかの店の情報でも似たようなものだった)
と言うわけでまずは情報収集のために偵察。アパートの大家さんはほぼアパートにいることは無く、どこにいるのかわからないので直接アパートを訪問する。
木造二階建てアパート、入り口は深夜以外は開け放たれ出入りは自由。
すりガラスに木製の格子がはめ込まれた古めかしい扉が年季を物語る。
こう言ったアパートは、たいてい奥行きが長めで位。照明も裸電球であったりする。
入ってすぐ左手の壁際に集合タイプの郵便ポストがあり、契約書を基にお客さんのポストを探す。こういった集合ポストの場合、ポスティング業者などが入居空室所かまわずポスティングするので、空室のポストはチラシや郵便物でパンパンにおなっていることが多い。だが、このお客さんに限って言えば、意外にもきれいに整理されており、不要な郵便物は無さそうだった。
大体ポストの足元には大きなゴミ箱が置かれており、チラシなどの不要物はそこに捨てることになっている。大家さんや管理会社の回収サイクルが長いと溢れんばかりに溜まっているのではあるが、こちらも不要なチラシは捨てられているが比較的綺麗で、そこそこの頻度で回収されていることが分かった。ただ、ポストに投函されているものは回収できないのかパンパンのポストもあったが。
という事は、このお客さんの部屋は入居者がいて生活している・・・と言うのは間違いなかった。
とりあえず、部屋のドアを叩いてみる。ベルと言うにはお粗末な呼び鈴もあったので押してみるが当然留守。まぁ、昼間ならこんなもんだろうと思いながらも、念のため電気メーターを確認する。居留守かどうかの判断の一つに、電気メーターの確認があって、人が居住していれば何らかの電気を使っているので、メーターの回転が速いのだ。当時であれば、外出中に常時多めに使う電力と言えば冷蔵庫ぐらいなので、完全に留守であればそこまで回転も速くない。
とりあえずはメーターの確認でもエアコンなども使われておらず不在だと思われるので、一旦は引き返す。昼間で会えれば留守でも仕方ない。
そして、夕刊配達の後の夜営業の時間にともかくも夜襲を仕掛ける(笑)
配達後まずは夜八時ごろまで近場をうろうろしながら時折アパートを確認に帰り、お客さんの部屋の窓が見える位置でしばし待機する。
何らかのアクションがあれば人影が動いたり気配がするので、在宅中であることがすぐわかるのだ。
だが、少なくともそのお客さんは夜8時ごろまでの帰宅は無かったようだ。
一旦店に帰り、休憩したのちに再度現場に訪問し、近くをうろうろしながら待機する。無論、夜八時を過ぎているので家庭への訪問はいくことが可能な夜遅く帰宅するお客さんの所ぐらいだが、集金や営業をちょいちょいしながら確認の頻度を上げてアパートを見張りに戻る。
その内、かなり遅い時間であったと思うがお客さんの部屋の明かりが点いているのが分かった。
明らかに帰宅しているのは間違いない。アパート中に入り共用トイレやふろ場に使用している形跡がない事を物音で確認する。・・・いない・・・
コンビニなどに行ってさえいなければ帰宅は確実である。
さっさと回収するために一気にお客さんの部屋がある二階に上がって、ドアを叩き呼び鈴を鳴らす。
僅かな物音がして、ドアが開いた。『これで全部回収か』とほっとしたのもつかの間、出て来た住人は若い明らかにアジア系なお兄ちゃん。(と言っても当時の私より年上だが)
とりあえず、「新聞代金滞納しているのでお金払ってください」と要請すると、「今持ち合わせがないので明日また来てくれ」と言われる。
「明日も同じこの時間でいいですか?」と確認するとうなずいたので、一旦引き上げる。
思えばこれが間違いのもと、その時に何が何でも一部でも回収すればよかったのだが、翌日同時刻に訪問したら部屋は暗い。電気もついていない。メーターもゆっくりと回っていてとてもではないが在宅している状況ではない。
夜逃げではないが、見事にやられたのである・・・
次回に続く
とっぴんぱらりのぷう
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