第五章の⑫:コロナでバレたコメ余りの現実と理由

正直、これを書くのは気が引けた。元業界の人間として、日本の農業の現実の一部を突き付けることになるからだ。

これを書いている前日、10月11日に日本テレビ系のニュースで、とあるトピックスが放映された。

YouTubeにも「【コメ】価格下落で農家"悲鳴" 消費拡大への"秘策"は?」と言うタイトルでアップされているので見ていただきたい。

(*動画リンクは近況ページに貼ってあります。こちらに貼るのは良くないので)


この中で、農家はコメの単価が下がり、全農や農協(JA)は昨年収穫した米が売れず、倉庫がパンパンであると言う報道がされていた。

これは、コロナ禍で私自身も取引先から見聞きしたこともあるから事実である。


実はコメの流通とは独特で、その年に取れた新米が全てその年のうちに流通するわけではない。

例えば2019年に収穫した米は一度JAや全農の冷蔵倉庫に保管され、それを一年かけて徐々に出荷して行き、そして翌年に倉庫が空になるころに2020年に収穫された米が保存される・・・ほぼその繰り返しを毎年行っていたのだ。

ところがこの流通サイクルがコロナで一変する。


外食の自粛により、家庭での食事が増えることでコメの消費が著しく落ち込んだことにより前年収穫した米が出荷しきれず倉庫に余ってしまうという事態が発生したのだ。

新型コロナが猛威を振るい始めた2020年初頭から今年にかけ、2年連続で例年通りの出荷が出来ず、コメが余ることとなってしまった。

そして、需要の低減と共にコメの価格も下落の一途をたどり、ただでさえ下落傾向が続いていた米の価格がさらに下がることにより農家がピンチとなっている・・・

事実としてはまさにそうなのだが、この傾向には実はとんでもない事実が隠されている。


さて、ここでクイズです。前提として、1回の食事でとる食事量は一定であると考えてみてください。


『人間が一日に食事を摂る物理的な総量は外食と家庭内でそんなに著しく変わるものだろうか?』


よく考えてほしい。いくら外食で楽しい雰囲気で食事をしようと、人間が食べきれる食事の量がそこまで変わるだろうか?外食であれば普段の2倍も3倍も食事を摂って、家庭での食事では外食の半分、3分の1しか食べない・・・という事があるだろうか?

寧ろ外食、特に宴会などであれば酒が進み食事はあまり食べず、そこまで料理が進まない・・・と言う方も多いのではないだろうか?

外食と家庭内(内食とします)で食事を摂る量が変わらないとなれば、何故ここまで米の需要が減るのだろうか?


答えは簡単である


『フードロス』・・・これに他ならない


無論、家庭ではパン食が主流で米をほとんど食べず、外で昼食・夕食を食べるときのみ米を食べるという人もいるだろうが、それを差し引いても米の需要低減はフードロスが原因なのだ。


つまり、『廃棄する食事』があることを前提に食が流通しているという事なのだ。

残念ながらこれはほぼ事実。


皆さんに覚えはないだろうか?忘年会シーズン、皆で鍋をつつきながら食事と酒を楽しんでいるが、締めの雑炊に至るころには誰も鍋に見向きもせず、アルコールで陽気になり会話のみに終始しており、中締めを行う頃には雑炊も水を吸って膨れ上がりだれも見向きもせずに食べずに店を出た・・・と言う経験、恐らくかなりの人が経験しているはずだ。

そして、もし雑炊を食べたとしても家庭では考えられないくらいお腹がいっぱいで、もったいないからと言う理由で無理やり詰め込んだ経験とか・・・


さて、ここまで言えば察しのいい読者の方は気づいて頂けるだろう。

『①残した雑炊はどうなる?』『②家での食事なら無理やり締めの雑炊を食べたか?』


答えは『①廃棄』『②食べない、そもそも作らないか翌日の夕食が雑炊になる』ではないだろうか?②は家庭によっても違うだろうが、①はお店で食べ残したら間違いなく廃棄である。

私も学生時代飲食店でバイトしていたが、出された食事にロクに手も付けずに提供したままの姿で厨房に帰って来た料理や、締めの雑炊がほとんど食べられずに水を吸ってパンパンになった姿で帰って来たことなど山ほど経験している。

その当時はまさか食に関する業界で働くことになることなど想像もしていなかったが・・・


残念ながらこれが現実なのである。

動画の中で新潟県が『オンザライス選手権』なるものを開催し、動画でご飯のお供になるおかずを紹介するという動画を流しコメの消費量を増大させると言っていたが、私から言わせれば正直無理ではないだろうかと言う思いがある。


何故なら、今の米の需要量が適正であると私は考えるからだ。

つまり、今までは『廃棄』を前提とした生産・流通が基本となっていたからこその米流通であって、コロナ禍で内食がベーシックとなった現在、『コメの消費』を拡大させるとすれば、パン食の減少や米を使った食材・料理等の拡大を狙っていくしかないのではないだろうか?

もし、農業関係者がこれを見ていて「そんなことはない」と言うのであれば、『内食だけでコロナ前と同じ消費量を確保してみてくれ』と言いたい。

どうするのか?内食においても『廃棄』前提の提案をしていくのだろうか?


皆も考えてほしい。『外食だから』気軽に廃棄している一面はないだろうか?

『内食だから食べ残しは出さないし、残ったものは次の日に食べる』としているのではないだろうか?

今現在の経済状況や政策、社会情勢では到底米の需要拡大などは不可能であり、恐らくコロナ禍を契機に更に需要は低迷するだろうし、コメの価格は下落傾向が続くだろう。

ただ、これが続いてしまうと日本の農業が壊滅するだけでなく、日本の土地そのものが荒廃していくことになるのだ。儲からない、生活ができないからと耕作が放棄されれば農地は荒廃し、雑草が生い茂り景観が悪くなるだけでなく一旦荒れた土地は再生させることが非常に困難となる。

現在のコロナ禍における日本農業は危機的だと言ってもいいだろう。だからと言って、コロナ前の様に『食の廃棄』を前提とした日本に戻ってほしいとは思わない。


私としては、国がリーダーシップを発揮してのコメの消費拡大、パン食の削減や糖質制限ダイエットなどで悪役とされた米のイメージ回復などをしっかりして行ってもらいたい。

そして、米の単価下落は販売戦略によるところも大きいので、これをしっかり見直してほしい。これに関してはまた別途書きたいと思う。


長くなったのでこれぐらいで。

異論は認める。それでは。


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