第29話 真倉、進路2
「えっ…と、真倉もう一度言ってくれるか?」
「だから!ハーレス!受験したいんですけど!って言ってるんですよ!このやりとり6回目ですよ⁈いい加減にして下さい!」
月曜日の放課後。教室で俺はユズと2人きりではなく悲しい事に担任と一緒だ。金曜日の夜ユズから「ごめんね」ってメッセージが来た。返信するのに丸一日かけて「次いつ空いてる?」って返信した。別にいいよとか気にすんなとかは送れなかった。月曜日の朝やっぱりユズは当たり前の様に学校に来た。
「いや真倉が朝早く学校に来た時は焦ったよ。お前いつもギリギリに来るのに」
「俺は先生がいなかった方がびっくりですよ!なんで先生の癖に朝ギリギリなんですか⁈」
「だから今教室にわざわざ残って時間作ってやってんだろ?先生、朝は星座占い見ないといけないから遅いんだよ」
「…もう突っ込むの疲れたんで本題戻ります。ハーレスの受験!させて下さい!」
「本気?ハーレムの聞き間違いじゃない?ハーレムなら先生も受験したいんだけど。会場どこ?」
俺この担任とよく3年も一緒に過ごせたな。
「先生が中退した!ハーレスに行きたいんです!もう本当今ボケいらないんですよ!推薦状も!松澤さんって人からもらいました!後はあなたがこの白紙の用紙に書けばいいんですよ!」
「いや、推薦状があれば通るわけじゃねえんだよ。しかも出願日締め切りまで後2日しかねえし。それ書くの大変だから怠いんだよ」
「分かってますよ!そんな事!でも受験するぐらい自由でしょ⁈評価基準わかんねえし!」
「…いや評価はサガが絶対だから。別名、一種校だぜ?それがあって初めて筆記なんだよ」
「3種の俺じゃ無理だって言いたいんですか?」
「どう頑張っても不合格だ。安心しろ」
「…そこまで言い切ります?」
「現実を見せるのも先生の仕事だからな」
「…」
何も言えないのは正論だって分かっているからだ。
「…でも行きたいです」
「あそこ行っても別に医者になれる訳じゃねぇぞ?確かに医学部の推薦大量にあるけどさぁ。合格実績とかださねぇから謎だし」
「…行きたいです」
「俺は第一は西海高校がいいと思うぞ。サガは評価基準にほとんど入らねぇし、男子校だし寮だからむさ苦しいけど」
「…でもハーレスがいいです」
「あんな学校、時代遅れな伝統しかない馬鹿校だって。みんなブランドに騙されてんだよ」
「…その馬鹿校退学なったの誰ですか」
「俺が退学してやったんだよ!」
「…やっぱダメですか?」
「受験できるかは置いといて、俺は真倉は本気で西海の方が良いと思う。面倒見いいし新しい学校だからサガみたいなクソ能力に縛られる必要はない。この学校もサガ重視でお前苦労したじゃねえか」
「…サガってなんであるんですか?一種二種三種なんて決めるから差別が生まれるんじゃないですか。馬鹿なんですか政府って」
「馬鹿なんだよ。お前らが思ってるよりずっと馬鹿で汚いんだよ」
「…受験するだけでも」
「無理な期待を持つより、今できる範囲で最大限の努力をした方が意外と期待は上回れるぞ」
「…先生なら頑張れとか言うでしょ普通」
「頑張れ!」
「…ボケんのやめてくれません?空気読んで下さいよ、頼むから」
「学校なんてあくまで人生の通過点だからどこ行ったって変わんねえよ」
「…変わるじゃないですか。サガで差別されて学歴で差別されて容姿や家柄で差別されます」
「社会だからな」
「…そんな事ないとかも言わないんですね」
「俺、差別されちゃった側だもん!」
「…40代の中年男性ががだもんとか気持ち悪いです」
「それも差別!」
「…すみません」
「まぁ…とにかく、ハーレスは無理だ」
「じゃあハーレスに一番近くて寮がある高校に行きたいです。一応調べて資料持ってきました」
「え?どゆこと?ハーレスに行きたいんじゃないの?」
「行けないなら近くの学校で…。西海高校だと車で3時間かかるんです。車運転できないし寮だし、田舎だしバス少ないし…」
「ちょっと意味がわからないれんだけど。ハーレスに行きたいんじゃなくて、ハーレスの近くに行きたいの?なんで?」
「…色々あるんです。色々」
「あそこ都市部だから学校は結構あるけどよ…西海が一番良いと思うぞ。生徒みんな暗いオタクだからお前にあってる」
「今サラッと最低なこと言いましたね」
「なんつったて名前がいい、正解だからな」
ものすごーく薄ら寒い風が流れた。
「…とにかくハーレスの近くでお願いします」
「理由は?はっ!まさかユズがいながらマツリに手を出そうって…」
「違いますよ!」
「なんで?」
「色々!あるんです!」
「まぁ行きたいとこに行けばいいと思うけど…もう推薦締切もやばいし…」
「お願いします」
深々と頭を下げて教室を出た。
ユズは相変わらず下駄箱で待ってはいてくれない。まぁもう待てない事情があるのは知っているから良いけどやっぱり寂しい。
いつまでユズは知らないふりをし続けるつもりなんだろうか。シグレっていつになったら名乗ってくれるんだろうか。卒業するまで名乗らないまま去っていくつもりなのか?
あのスーツ軍団…俺とユズを邪魔しにきた?でも邪魔する必要あるか?ああいう場面なら…ドラマだったら嫌味言われるぐらいだろ?ユズ連れていく必要あるか?佐藤さん泣く必要あるか?弱らせる必要はない…病気でもない…じゃあなんでユズはあんなフラフラだったんだ?ギリギリ生きてるって…?宮家ってなんなんだ…?サーシャ様の祝福って確かリフェース皇太子言ってたよな。宮家は宮家の血しか…サーシャ様の祝福者の血はサーシャ様の祝福者の血だって。サーシャ様の祝福ってなんなんだよ。
「集中できねー」
クソ担任がお前は学級委員3年やってるし、筆記試験の成績も悪くないから推薦で行けって言った。けどやっぱ不安だし勉強はする。ハーレスの近くの学校は先生が言った通り、俺には合わなさそうな高校ばかりだった。自分に一番あっているのは西海高校だって分かっている。でもユズのそばにもいたい。
「電話…」
ユズ?なんで今?
「もしもし」
「あっ真倉?松澤さんから聞いたよ!ハーレスの推薦状貰ったんでしょ!」
松澤さん?教えないで下さいって言ったのに。
「…ダメだった。推薦できないってさ」
「そっかぁ。残念だけど仕方ないね」
えっ?そんだけ?俺と一緒の高校通いたかったー!とかないの?マジで?
「…なんかユズ落ち込んでないな」
「まぁねー」
アッサリすぎない?コイツ俺と同じ高校行きたくないの?なんで?決まりだから?もっと、一緒にいたいのに!って騒いでくれると思っていたのに…私の権力で同じ高校行けるようにする!とかさ。
「…同じ高校行きたかったとかないの?」
「そりゃ行きたいよ!でも真倉の夢はお医者さんでしょ?私の行く高校サガ重視だからお医者さんへの道は遠くなっちゃう」
「…3種には無理って言いたいのか?」
「そんなこと言ってないでしょ!お医者さんになるのにサガは関係ないよ!真倉には真倉の才能があるでしょ!それを活かして欲しいの!」
「…才能?俺に?」
「うん!真倉は頭がキレるし、勇気もある!頭がいい!それが活かせるのは私が行く高校じゃないってだけ。寂しいけど仕方ないよ」
なんかユズってこういう所は大人だよな。でも、俺が欲しかった才能はユズとずっと一緒にいれる才能なんだけど。ユズを守れるぐらいの強い力が欲しいんだけど。レイさんより近くにいたいんだけど。
「ユズさ…いなくならないよな?」
「急にどうしたの?いなくならないよ!」
笑いながら言わないでくれ。怖いんだよ。5年前みたいに急にいなくなってしまいそうで怖い。
「俺さハーレスの近くの学校行こっかなって」
「…なんで?」
「だってそれなら放課後とか遊べんじゃん」
「…私のため?ならやめて」
「別にいいじゃん。俺が決めることなんだし」
「…真倉には真倉の人生があるんだよ。私の為に行きたくない所に行く必要ないから」
「俺が行きたいんだよ」
「真倉お願い。ちゃんと自分の行きたいところに行って欲しい」
「なんで?別に俺が行きたいんだからよくない?」
「…真倉には真倉の人生を生きてほしい。私のせいで真倉が進路変えるのは嫌」
「別にユズのためじゃ…」
「真倉お願い。私、真倉にそんなことさせる為にこの学校来たんじゃないから」
俺だってユズにそんな事言わせるために言ってるんじゃないんだよ。
「…なぁ今どこにいんの?部屋?」
「車の中。人に話聞かれないようにね。内緒だよ」
今なら、今なら聞けるかもしれない。
「金曜の…人達って誰?」
「護衛の人達」
即答かよ。
「逃げろって…どういう意味?」
「あんまり好きな人達じゃないからねー」
「佐藤さん…泣いてたけど」
「泣き虫だからねー」
「そういう事じゃないだろ?」
「私にお説教する人達だから佐藤さんも嫌いなんだよ。私も大嫌い」
「なぁ…俺が何も知らないと思ってんの?」
「真倉頭良いもんねー」
「話して…くれねえの?」
「ごめんねー」
「また…どっか行くのかよ?」
「どこにも行かないよ。彩都に戻るだけ」
「ユリは…」
「会いたがってる。いつか会お」
「なんで…いつかなんだよ。今会えば…」
「上の人達がうるさいんだよねー。もうちょっと待ってて」
「5年待った。5年、待ったんだよ」
「ごめんね」
「ずっと探してた」
「知ってる」
「身体…弱くなったな」
「…普通だよ」
「肌なんか真っ白」
「可愛くなったでしょ?」
「俺は焼けてる方が好き」
「そう?」
喋ることなくなったな。ユズ普段うるさいのに今は静かなんだな。なんだっけ話したいこと。いっぱいあるのに何も話せない。
「…リフェース皇太子に会った」
「えっ?初耳なんだけど?」
「大変だったんだよ。古都まで一緒だった」
「えぇ⁈どうゆう事⁈」
「聞いてないの?」
「何にも聞いてないよ!意味分かんない!えぇ…」
いつものユズだ。笑ってしまう。
「超わがままで超馬鹿な人だったよ」
「そうなんだ…」
「宮家の血は宮家同士しか輸血出来ないって教えてくれた」
「…確かに馬鹿だね」
「サーシャ様の祝福者はサーシャ様の祝福者の血しかダメなんだってさ」
「…そうなんだ」
「サーシャ様の祝福者って何?」
「…言葉のまんま。サーシャ様に祝福を受けたの」
「祝福受けて見張られんの?」
「…護衛だよ」
「ユズ遊びに行く時カバンないよな」
「持ってもらうからねー」
「…電話切らないんだな」
「切ろうか?」
「いや、話したい」
「そっか。じゃあ後少しだけ」
「…話す事ないな」
「えぇ?」
「なんか話して」
「えぇ?えーとね…えっと…えーと…ね…」
必死だな。全然ごまかせてないじゃん。俺達馬鹿だよな。多分お互いずっと知らないふりをする。
「…私、真倉には夢を叶えて欲しいよ。だから自分の好きな高校に行って欲しい」
俺「には」って意味わかんねぇよ。俺「にも」夢を叶えて欲しいだろ?「には」ってなんなんだよ。
「だからお願い。ハーレスの近くの学校なんて選び方しないで。ちゃんと選んで」
「…分かった。志望校は変えない」
「よかったぁ!」
「その代わりユズの方からちゃんと会いにきてよ。俺車ないもん」
「うん」
「そういや、ユズの夢って探検家になって世界一周だったよな?」
「そうだったね」
「今そんなにお金あるならできるだろ」
「そうだねー」
「俺も連れてってよ。彩都の時みたいに」
「…世界一周だからねぇ、1年はかかるよ?」
「いいよ。いつ行く?」
「いつがいいかな…」
「考えといて。いつでも良いから」
「じゃあ…そろそろ切るね、おやすみ」
「おやすみ」
電話が切れた。泣くと思っていたけど意外と冷静な自分がいる。ユズと一緒にいたい。こういう時主人公なら急に秘められたサガが解放されてハーレスに余裕で入れちゃいました!みたいな感じなんだろうけど、残念ながら現実にそんな奇跡は起きない。実際、受験すらできないんだから。
「無力だよな…」
ユズ俺に行きたいところに行って欲しいって言ってたな。ユズは…決めれないもんな。全部、決められてるもんな。レイさん俺が邪魔したって…。ユズ、俺に何隠してんの?佐藤さんはなんで泣いた?もう言っちゃえば…楽になるのに。俺もこんなに遠回りせずに済むのに。
「えっ…と、真倉もう一度言ってくれるか?」
「だから!受験校変えないって言ってるんですよ!今自分にやれる範囲で最大限の努力をしたいんですよ!3回目ですよ!」
「真倉のせいで、先生昨日たった5時間しか寝てなんだぜ…。それを一晩で意見変えるって…作者一体なんのために書いたんだよ…お前もっと考えて先生に言えよ…」
「…5時間ってまあまあ寝てないですか?」
「うるせぇな!今日だって朝早く来たじゃねぇか!星座占い最下位だったらどうしてくれんだよ⁈」
「知らないですよ…とにかく、変えないです。自分ができることからちゃんと始めたいんで」
「真倉…最近お前変だぞ」
「俺、元から結構変ですよ」
「あっほら!そうやって認めたり笑ったり!お前顔毎日死んでたじゃん!俺のこと死んだ目でいつも見てたじゃん!やっぱあれか⁈彼女できて文字通り一皮むけたってか⁈」
「はぁ⁈朝から変なこといわないでくださいよ!まだ何も出来てないですよ!」
「まだってなんだまだって!ざけんなよ!俺だってなぁ…」
この後きた学年主任にボロクソに叱られた。主に先生が。
「ユズ昨日はごめん」
「ん?何が?」
昨日俺一応初めてユズにちゃんと伝えたつもりだったんだけど、普通に笑顔で返すって事はユズも分かってたんだなやっぱ。
「受験校は変えない。自分で決めたところ行く」
「本当⁉︎よかったぁ!あっじゃあ次こそ一緒に遊びに行こうよ!お説教する人達しばらく来ないから!全くいっつもさぁ…」
ユズは相変わらず耳を触る癖がある。絶対に言わないけど。
「…でね、次は」
「俺ん家きて。俺の家」
「…いいの?」
「いいよ。カンナも待ってる」
「カンナちゃんに…その」
「俺の彼女が来るって言ったから」
「えぇ⁈私大丈夫かな…」
ユズの顔白いから赤くなるのが分かりやすい。本当、分かりやすすぎる。
「…いつなら会いてる?」
「土曜日なら会いてるよ!期末近いし真倉の家で一緒に勉強しようよ!」
「…いいよ」
「じゃあ決まりね!バイバイ!」
「バイバイ」
ユズを下駄箱で見送る。流石に昼休みとかは白川さんもいるから誘えないしな。ていうか…ユズって彼氏の家に行くってどういう意味か分かってんのかな?
「顔…」
今度は俺が赤くなる番だ。
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