第26話 ユズ ショッピング

「真倉!金曜!放課後!」

「分かってるから大声出すなって!」

やっとやっと金曜日の放課後になった。真倉にどこが良い?って聞きまくったのに、どこでもいい以外の言葉を聞けなかった。真倉の家に行きたいって言ったらそれはまた今度って言われた。カンナちゃんに早く会いたいのに。だから今日はカンナちゃんへのプレゼントを真倉と選びに行く。名取さんにあれだけ言われたのにまた内緒だ。私も段々我儘で悪い子になってきたかもしれない。

「で、今日はレイさんいないんだよな?な?」

真倉は朝からこればっかりだ。

「だから居ないってば!レイは今戸間への出入り禁止なの!」

月曜から木曜までこの話しかしていない。カンナちゃんの好みとか知っておきたかったのに。

「学校お疲れ様です」

「佐藤さん!お疲れ様です!」

真倉は凄く嬉しいそうだ。水族館の一件以来真倉と佐藤さんは凄く仲良くなってる気がする。そんな話してなかったと思うのに不思議だ。

「じゃあ出発しますね」

佐藤さんが言って車が動き出した。

「…で、どこ行くの?」

「真倉⁈私の話聞いてなかったの⁈カンナちゃんへのプレゼント買いに行くってずっと話してたよ⁈」

「いや俺生命維持するので精一杯だったから」

「意味わかんない!私あれだけ言ったのに!」

「ユズ様、真倉君あんまり叱らないでやってくださいよ。真倉君だって色々あるんです」

「佐藤さん、真倉の肩持つの⁈」

ビックリだ。佐藤さんが真倉に味方するなんて。本当に真倉と佐藤さんに何があったの?結局、レイと真倉の会話はどっちからも聞けなかったし。

「なぁユズ俺ら制服のままで行くの?」

「うん!制服でショッピングしてみたかった!」

「ユズ様頼むから着替えて下さいよ。バレたら俺殺されますから」

「分かってるって!」

「俺も着替えた方がいい?一応着替え持ってきた」

「真倉⁈頭大丈夫⁈用意よすぎない⁈」

「うるさいから耳元で叫ばないでくれ」

真倉最近用意良すぎない?当たり前のように警護も受け入れてるし。なんか怖いんだけど。

「…カラコンは外す?」

「うーん、外しても良いけど…」

「外して欲しいんだけど」

えっ?真倉がそんな事言うなんて初めて。昔は私の目の色からかってた癖に。

「外す?」

「佐藤さん、大丈夫?」

「大丈夫です。髪はそのままで」

「はーい!」

真倉はちょっと照れているのか景色の方見てる。耳少し赤い気がする。

「ユズちゃん着替えれた?」

「うん!真倉はまだ?」

「まだだよ」

なんか佐藤さんの敬語なしもだんだん慣れてきた。

「水族館の時は結構敬語混ざってたよね」

「レイ君いたからね。あの子の前だと敬語になっちゃうんだよ」

「分かる気がする…」

私もレイが怒ってる時敬語になりそうだもん。

「ねーユズちゃんじゃなくてユズって呼ばないの?」

「流石にそれはまずいね」

「そっか」

叔父さんはユズって呼ぶけど、それ以外の大人はユズって呼んでくれないもんな。ちょっとだけだけど寂しい。様ってなんか壁感じるし。

「お待たせしました」

「おー真倉君待ってたよ」

「真倉遅いよ!私より時間かかるなんて!」

「別に良いだろ⁈」

「ほら2人とも行くよ」

「はーい」

カンナちゃんのプレゼントなら幾らでも買いたくなっちゃうから不思議。ユリと私とカンナちゃんでお揃いのイヤリング買いたいな。

「カンナちゃんって今何が好きなの?」

「うーん、特にない」

「そんな訳ないでしょ!簪は?喜んでた?」

「使えるもん買ってこいって言われた」

カンナちゃんぽいな。昔私が御伽話を作って聞かせたら矛盾してるって言われて喧嘩したことあった。

でもその後、ごめんねって言って私がした御伽噺のイメージを描いた絵をくれた。昔から凄く賢くて凄く優しい子。絵は一番年下だったのに誰よりも上手くてよくカンナちゃんの絵をユリと見てた。絵はまだ描いてるのかな。描いてたら見せて欲しいな。

「…だからカンナは水色が好きだろ」

「あっうん!水色だね!マグカップとかは?」

「家に大量にあるからいらない」

「じゃあ、お皿!」

「いらない」

「じゃあ文房具一式!」

「…もらって嬉しいか?」

「だってー」

出来れば毎日使えるものがいいじゃん。毎日使えて見るたびに思い出せるもの。

「何だったら毎日使えるかな?マフラー?」

「まぁこれからの季節いるかな」

「…高いのでもいい?」

「いやそこまでしなくても、2000円ぐらいで…」

だって5年分のプレゼントだよ?正直、今私お金持ちなんだからカンナちゃんが欲しいものならなんでも買ってあげたい。

「…ユズは欲しいもんないの?」

「んー特には無いなぁ」

「好きな物とか、色とか。昔はピンク好きだったじゃん。桜色みたいな薄いピンク」

「んー。ピンクねー私今…」

えっ…と、今…真倉なんて言った?薄ピンク好き?やっぱバレてるし、もう隠す気もないんだ。真倉は当たり前のようにマグカップ選んでる。真倉はどこまで知ってるんだろ。

「…ユズ?」

「あぁごめん!好きな色…」

あんま考えた事なかったな。色々ありすぎてそれどころじゃ無かったし、食器とか服とか基本全部用意されてるからそこから選ぶしなぁ。

「…白?が好きかな?好きだと思う」

「なんで疑問系なんだよ」

「いやあんまり好きな色とか無いかなぁって…」

「無いの?嫌いな色は?」

「嫌いな色…」

青と水色。大好きで大嫌いな色。絶対みんなには言えないけどドレスとかずっと水色とか青ばっかだし、よく届く色んな人からのプレゼントも全部青系だから。プールの水色とかユリの瞳の水色は大好きだけど、自分の瞳や髪の毛の水色と青はあんまり好きじゃない。

「…嫌いな色も特に無いかなぁ。真倉は?」

「んー青とか赤みたいなハッキリした色は好き。柔らかい色はあんまかな」

「柔らかい色好きじゃないの?」

「お前はどっちなんだよってなる。横文字ばっかで何色か曖昧だし、柔らかいんじゃなくてへなちょこ色じゃねぇのって思う」

思わず爆笑してしまう。真倉の考え方は世間的に見たら多分結構ずれているし、意味不明だ。でも私は真倉の考え方すごく好き。

「ユズは?柔らかい色好きだろ?薄いピンク好きだったもんな」

「確かに好きかも」

「かもは要らないだろ」

「うん。好き。薄ピンク可愛いもん」

「じゃあこのマグカップは?」

「可愛い!…ってカンナちゃんのプレゼント買うの!私のじゃないから!」

「別にいいだろ⁈もうユズ誕生日過ぎてんだから!」

「真倉だって終わってんじゃん!」

「ちょっと二人とも喧嘩しない。俺がいること忘れないでくださいよ」

佐藤さんのことすっかり忘れてた。

「…じゃあさお互いの誕プレ買ってからカンナへの誕プレ買わない?」

「やだ!カンナちゃんが先!私と真倉は時間が余ったら!」

「なんでカンナが先なんだよ!あいつ俺が買ってきたシュークリーム全部食べたんだぜ!」

「それぐらいで騒ぐ真倉が悪いんだよ!どうせ甘いもの好きじゃ無いんだから譲ればいいじゃん!」

「甘いものは嫌いなんじゃなくて譲ってやってんの!昔からそうだろ⁈お前が勝手に取る癖に!」

「ユズちゃん真倉君!ここお店の中!」

佐藤さんの少し大きめの声が店内に響く。佐藤さんがいるおかげか誰も近寄ってこないけど。

「とりあえず2人ともカンナちゃんへのプレゼント買いましょう」

「はーい」

二人で声をそろえる。

「…ユズはカンナに何買ってやりたいの?」

「んー毎日使えるものかなぁ。それかイヤリング」

「…ユズってさイヤリング好きだよな」

「そう?」

「今日はつけてないけど、前もつけてたしネックレスとか指輪はつけないじゃん」

「確かに…」

「イヤリング好きなんだな」

「…そうみたい」

あんま何が好きとか普段考えないから新鮮だな。基本何でも好きだからなぁ。

「じゃあイヤリングにすれば?俺は俺で買うし」

「イヤリング…好きかな?」

「さぁ?」

「えぇ⁈じゃあ買えないよ!嫌われたくない!」

「大丈夫だって。簪だって使えないなんて言いながらちゃんと飾ってあるから」

「なんかそれカンナちゃんらしいね…」

「だろ?」

もう真倉に隠す気はないみたい。どこまでバレているのかな。私がシグレとバレてるみたいだけど、それ以外は?水の…宮家だって事も?まさかサーシャ様の祝福者の意味も?

「イヤリング買おっかな」

「じゃあ別行動する?」

「なんで⁈」

「イヤリングなんて見に行きたくねぇよ!一緒に観に行くとかなんかカッコ悪いじゃん!」

「自分が勧めといて言うかな⁈」

「もー2人とも、3階と5買いにイヤリング屋さんあるから行くよ」

「佐藤さんさすが!ほら真倉行くよ!」

「…分かりましたよ。行けばいいんでしょ行けば」

佐藤さんは今日のショッピングセンターの地図も頭に入れてくれてるみたいだ。あんな激務の中どうやって覚えてるんだろう?何しろ感謝しかない。

「可愛い…」

「イヤリングって種類多いんだな…」

「真倉はカンナちゃんと一緒に来たりしないの?」

「カンナは基本ネットで買うから」

「そっか…」

カンナちゃんと一緒にショッピングしたいな。

「てかイヤリングって一個2,200円もすんの?これなんて3,500円⁈」

「触ったら壊れちゃいそうな繊細さだね…」

真倉の感覚忘れないでおこう。レイとユウトと一緒に買い物に行くたび怖くなる。それより、佐藤さんとイヤリングって似合わなくて笑っちゃう。

「これ…可愛いな」

「そう?こっちの方がカンナちゃん好きそうだけど」

「ユズは?ユズが自分に買うんだったら?」

「これかな。このイヤリングならどんな服にも合わせやすそうだし」

「好きなのは?服とか関係なしで」

「…どれだろ」

服とか関係なし?髪色も?あれ?私今までどうやって選んできたっけ?好きなやつ…。

「…これ」

「意外だな!」

「ユズちゃんの持ってるイヤリングとタイプ違いますね」

なんか2人とも笑ってるから恥ずかしいよ。

「へー、こんなチーズ食ってるネズミのイヤリングがいいんだー」

「ちょっとうるさいな!可愛いからいいの!」

「これ…可愛いの?」

「ちょっと佐藤さん真顔で言うのやめてよ!」

もーやだ。なんでカンナちゃんの買いに来たのに私の暴露大会になるの!

「真倉!カンナちゃんの選んで!」

「えーカンナな…これとか?」

「そんな大人っぽいのつけるの⁈大丈夫⁈ちゃんと服合わせられる⁈」

「本人が好きなのに合わせるとかないだろ」

「真倉がそう言う考えだから私服のセンス悪いんだよ⁈今日の服突っ込むの可哀想だから突っ込まなかったけど!」

「ユズだって選んでもらってる癖に!大体お前の方が本当はセンス悪いだろ!」

2人でまた騒ぎながらカンナちゃんへのイヤリングを買った。悩んだけど私が好きなやつにした。真倉がそっちの方がいいって言ってくれたから。

「2人ともそろそろ晩御飯の時間だね。少し早いけどフードコートで食べようか」

「あっはい」

「佐藤さん!私あれがいい!ラーメン!」

「はいはい。じゃあ行こうか」

フードコート久々!結構賑わってるなぁ。アイスにタピオカ!フライドチキンもあるんだ!悩む…。

「真倉はどこにする?」

「俺は…ケンタッキーにする」

「佐藤さんは?」

「俺は後で食べます」

「ユズは?どこにする?」

「んー悩む…」

フライドチキンもラーメンもタピオカも捨てがたいなぁ。ハンバーガーも普段食べれないし…。でもジャンクフードばっかりは怒られるしなぁ。

「…ユズって意外と優柔不断だよな」

「わかってるよ!今考えてるの!」

「チキン一個あげるからそれ以外にしたら?」

「いいの⁈」

「別にくれって言われたらあげるつもりだったし」

「ユズちゃん好きなの選んでいいよ」

「…ラーメン!あのドロドロのやつ!」

「じゃあユズちゃん一緒に行こうか。真倉君一人で買える?」

「子どもじゃないんですから…」

真倉はフライドチキンを買いに行き、私と佐藤さんはラーメンに並びに行った。

「ユズちゃんラーメン一番ドロドロで大丈夫?食べれる?」

「うん!多分!」

佐藤さんは本当に一番ドロドロのラーメンを買ってくれた。でもやっぱり心配性だからお水を7本も自動販売機で買って席に戻った。もう真倉はいたのでみんなで食べる。

「多めに買ってきた。3人分ある」

「真倉⁈多すぎない⁈」

「俺は本当にいらないから2人で食べて。残しても大丈夫だから。後お水」

真倉は佐藤さんの心配性振りに少し引きながらも皆んなでワイワイいいながらご飯を食べた。

「真倉はカンナちゃんに結局何買うの?」

「服とか?」

「いいね!」

「ユズって普段どこで服買ってんの?デパート?」

「買わないかなぁ貰い物ばっかり」

「何もらうの?」

「色々…」

詳しくは私も知らないんだよね。誰からの贈り物とか本当はちゃんと見れば良いんだけど何しろ数が膨大だし。私の血が欲しいなら直接言えばいいのに。

「…ユズ?」

「あぁ!貰い物なら一回島貰ったことある!」

「島?って島⁈貰えんの⁈」

「どうせ行けないし丁重にお返ししたよ」

「…やばいなユズの家」

「まぁお金持ちだからね!」

お中元の時とかみんな大変そうだもんなぁ。私一回包み紙で手を切ってから触らしてもらえないし。別に手を少し切るぐらいじゃ大丈夫なのに。

「…デパート行こうかな」

「今から?服は?」

「よく考えたらユズのセンスも危ないし、俺のセンスも危ない。そして何より佐藤さん逮捕されそう」

「悲しいけど真倉君と同じ考えだよ」

なんでこの2人こんな通じ合ってるの⁈古都と水族館しか会ってないはずなのに…。

「デパートで何買うの?」

「ハンドクリームとか財布見たいなって」

「いいね!じゃあ行こ!すぐ横だし!」

「だから腕引っ張んなって!」

「2人とも段差気をつけて!」

みんなで急いでデパートに行く。デパートは佐藤さんも慣れているし少しラクそう。

「ハンドクリームはこちらがおすすめですよ」

「ユズはつけないの?」

チラッと佐藤さんを見る。大丈夫みたい。

「良い匂い!次これにしよっかな」

「ハンドクリームあり過ぎるからね…」

「そうだ!真倉ハンドクリームいらない⁈大量にあるんだよね!カンナちゃんにそれあげて!」

「やだよ…あげたきゃ自分で渡して」

「いいの⁈じゃあハンドクリームは終わり!向こうでお財布見よ!」

「ちょっとおい…」

真倉の腕を掴んで財布コーナーに行く。

「ユズは財布って持ってんの?さっきも佐藤さんが払ってたけど」

「一応あるけど学校の自販機ぐらいでしか使わないかなぁ。中身カードと電子マネーだし」

こうゆう話するの初めてかも。みんな私の事知ってるから話はする必要ないもんな。

「佐藤さんこれどう思います?…佐藤さん?」

「ユズちゃん…あっち見て」

佐藤さんの言われた方向を見て、血の気が引いていくのを感じる。

「…さぁユズ?何してんの?」

「真倉さ…逃げたり出来る?普通に歩いて入り口から堂々と出れる?」

「は?」

最悪。もう来た。黒い集団。1.2.3…8人ね。なんで今来るかな。デパートの人が連絡した?佐藤さん目立つもんな。いや一番目立つのは私か。

「すみません。今はプライベートなんですよ」

佐藤さんが私の事芸能人みたいに扱うの恥ずかしいな。

「佐藤さんいいです。真倉送ってあげて下さい」

「…分かりました」

後ろを向いてても真倉の視線を感じる。

「…きて」

「行くってば!」

「…お願いします」

冷たいスーツ姿の女の人が言う。名取さんも冷たいしスーツ姿だけど全然違う。名取さんの方が美人だもん!

「…」

無言で歩くのやめてくれない?こっちだって気まずいのに。絶対狙ってきたよね?最悪。

歩幅も全く合わせてくれない集団に囲まれてワゴン車に乗る。準備は完璧ってわけね。

「簡単なバイタルチェックをおねが」

「わざわざ狙ってきましたよね?この前倒れたの誰のせいだと思ってるんですか?」

「…配慮に欠けていました。すみませんでした」

「家じゃまずいからわざわざ車まで用意して私が放課後家に帰らないの狙ってたんですか?」

「…色々とまずいでしょう。来年にはレイ様」

「レイのも見張ってるんですか⁈まさか毎回邪魔してるんですか⁈レイまで見張る必要ないでしょ⁈」

「…仕事ですので」

「レイは!自由にさせてあげて!じゃないと血はあげない!今すぐ約束して!」

「…仕事」

「うるさい!別に2人っきりじゃないんだからいいでしょ!前も来たの⁈見張ってたの⁈」

「…前もあったんですか?」

あっミスった。いやでもあれはレイもいた。

「レイもいました!4人だから!」

「…そうですか」

凄い腹が立つ。毎回最高のタイミングで来てくれちゃってさ。私の幸せ妬んでるでしょ⁈なんでそんな冷静なのよ!名取さんにグワァーって怒られる方がまだマシだよ。

「レイへの見張りは解いてください。後、誰かを処分したり私の前から消したら許しませんから」

「…分かりました」

「今すぐレイへの見張り解いてください。今、電話してください」

「…少々お待ち下さい」

やっとどっか行ってくれた。といっても7人に見張られてるから何も出来ないけど。今思ったけど私の服ポケットないのシンを持ち歩かないようにする為だ。今度ポケットばっかりの服買ってやる。

「…お待たせしました」

「レイに謝りに行ってください」

「…分かりました。伺います」

「もう少し待ってくれてもよかったですよね。邪魔する必要ありますか?真倉に気付かれる可能性考えなかったんですか?」

「緊急です」

「…分かりました。もう…好きにしてください」

「…始めてよろしいですか」

「勝手にすれば?」

「…かしこまりました」

向こうは悪いと思ってるって言いながら110ml抜いた。

「…終わりました。意識は大丈夫そうですね」

むしろ意識がない方が嬉しいよ。真倉の前にまで現れるなんて最低。

「…家までお送りいたします」

「自分で帰れます」

「お一人で?そういう訳には」

「迎え!呼んでください!貴方達と一緒に帰ったら空気が重くなるんですよ!分かってください!」

「…少々お待ち下さい」

また見張りが7人。今シンがあれば多分殺せる。でも殺したってまた次の人が来るだけ。この人達だって好きでやってる訳じゃない。生活があって大切な物や人があるから仕事してるだけ。分かっているからどうしようもなくて涙しか出なくなる。

「お待たせっす」

「松澤さん…」

「また泣いちゃったんすか。ユズ様がいくら可愛くても泣いちゃった顔は不細工っすよ」

「あの前回の件誠に」

「黙ってもらえないっすかね。俺に言われても困るんすよ。サガラ様に謝りに行って下さいっす。じゃあユズ様行くっす」

松澤さんが言った時スーツ集団には申し訳ないけどちょっとスッキリした。

「体調どうっすか?暖房つけるっすか?」

「充分…あったかいです」

「…狙われてたんすか?」

「緊急って言ってたけど真倉と一緒にいる時に現れました。しかもレイも見張ってるって言ったから見張りをその場で解いてもらいました。今度謝りに行くって約束も取り付けました」

早口で涙声だったけどギリギリ言えた。

「レイ様には自分から話すっすか?」

「話したら今日血抜かれたことバレちゃうじゃないですか」

「隠してもレイ様にはバレるっすよ。あの人のユズ様センサーえげつないんすから」

「…私のせいでレイを縛り付けました。レイとユリを天秤にかけてユリの幸せを優先させました。だからレイは今だけでも幸せになってほしいんです」

「レイ様は充分幸せっすよ」

「水の宮家を背負わせて?幸せですか?」

「幸せなんすよ」

「本当は人前も好きじゃないのに?私のせいで色んな人の相手しなきゃいけなくなったのに?彼女まで見張られてたんですよ?」

「それはユズ様も一緒っすよ」

「私は自分で決めました。でもレイは…私がレイの優しさに付け込んだんです」

「どっちかっていうとレイ様が付け込んだんすよ」

「どういう事ですか?レイが?」

「レイ様、ユズ様のこと大好きっすから許嫁になれて喜んでると思うっす」

「…パーティーの人達がレイに良かったねって言われる度に辛くなります。その度にレイは喜んでるフリをしなくちゃいけないんです」

「喜んでるフリっすか⁉︎傑作っすね!」

「ちょっと笑わないでくださいよ!真剣な話しているんですよ!」

「ユズ様が思っているよりみんなユズ様のこと好きっすよ!安心してほしいっす!」

「そう…ですか」

なんで私はこんなに無力なんだろう。一番強い力があるはずのに、守ってもらってばっかりだ。真倉、今頃佐藤さんからなんて説明受けているんだろう。もう…隠し通せる自信がなくなってきた。

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