第25話 真倉とカンナ
ユズは月曜日の朝また学校にいなかった。
「あーそうそう、今日ユズお腹痛くて病院行ってから来るそうだー」
また病院かよ。イルカでビショビショになったから?でも風邪じゃないしな…。結局、レイさんどうなったのかな。
「暇だ…」
最近休み時間はユズがくるから、ユズが休んだ日って暇なんだよな。白川さん本読んでるし。話しかけるような話題もないし。
「遅れましたー」
ユズは5時間目の途中にいきなりやってきた。ユズの声を聞いた瞬間、机に突っ伏して寝てたのに目が覚めた。ユズの顔は見れないけど、元気そうだ。よかった。
「真倉起きろー!」
「…ヘイ」
先生空気読んでくれ!俺の心をよんでくれ!頼むから!今ちょっと格好つけたい時期なんだよ!なんで今日に限ってサ開1.2時間目なんだよ!授業早く終わって欲しい。ユズのこと許したくない気持ちより一緒にいたい気持ちの方が強い。
「なぁ…昨日はごめん…」
帰りのHRの後、真っ直ぐユズの机に向かった。ユズビックリした顔してる。
「全然いいよ!こっちこそ黙っててごめんね!」
そんな笑顔で言わないでくれよ。言いたかったのに言えなかっただけなんだろ。
「レイに…何かまた酷いこと言われた?」
「まあ」
酷いなんてもんじゃなかったぞあれ。俺今生還してることの方が驚きだからな。
「…聞いてもいい?」
「レイさんに聞いたら?」
俺多分今レイさんにめっちゃ嫉妬した。
「…もう帰っちゃった」
「そっか。この後空いてる?」
「水曜日の放課後なら。松澤さんだけだから」
松澤さん…あの人殺されてないよな?大丈夫だよな?あのカス殺すとか言ってた様な気がするけど気のせいだよな。気のせいにしよう、ウン。
「…佐藤さんの日ない?」
「待ってねー。えっと…金曜日だって」
「分かった。じゃあ靴箱まで一緒に行こ」
「うん!」
彼氏なんだから靴箱まで行ってもいいだろ。むしろなんで今まで行かなかったんだよ。なんかさっきからユズ喋ってるしうるさいけど心地いいな。
「…でレイが倒れてさ」
「はっ⁈」
「いやだからレイが倒れたの」
レイさんが⁈あのレイさんが⁈えっ病弱だったの⁈全然話聞いてなかった⁈えっ⁈弱かったの⁈
「…実はレイさんって身体弱いの?」
「普通だけどすぐ無理するんだよね。無表情だし常に冷静だから周りに気づかれなくて気づいたら倒れちゃうの。本当馬鹿だよね」
馬鹿って言いながら笑うユズの顔は可愛いはずなのにモヤモヤとした感情が先に出てくる。
「…なんで倒れたの?」
「だからさっきも言ったじゃん!サガの使い過ぎ!店員さん脅して機械壊すまでやったの!」
「…機械ってサガ調節機器?」
「そうだよ!あれ高いんだって!値段知らなかったからびっくりした!」
あっ俺やっぱ昨日が命日だったのかもしれない。あれって壊れんの?壊れんの見た事ないんだけど?ていうか倒れるまでやるか普通?倒れるまでやるとか聞いた事無いんだけど。
「…だから真倉?聞いてる?」
「…聞いてる」
「真倉最近すぐ上の空だよね!ちゃんと話聞いてよ!私うるさい?」
「いや…もう下駄箱ついたなって」
「あっホントだ!じゃあね!」
「うん…」
走っていくユズを見送って、俺も家に帰る。
ユズ…レイさんの話する時笑顔だよな。いやまぁそりゃ許嫁だし…ユリを解放するのにレイさんと結婚して子ども作るのか。水の宮家なんだから誰と結婚したって…血筋は大事だよな。そりゃ3種より1種の方がいいに決まってる。もし、もしの話だけどユズが俺に一緒に逃げてほしいって言われたら?俺どうするんだろう。ユズをもし連れて逃げ…れないよな。
「ただいまー」
俺には残念ながら友達がいない。だから悲しいけど妹の部屋をノックする自分がいる。
「おかえりー」
「カンナ…気持ち悪がらずに聞いて欲しい」
「これ以上お兄ちゃんは気持ち悪くならないよ。安心して。私忙しいの」
「…シュークリーム買ってきた」
「紅茶淹れてきて」
「買ってきた」
ここまで言ってやっとカンナは振り返る。俺を気持ち悪いものを見る目で見ながら。
「…それで何?話って?相談?」
カンナもユズも女子って甘いものなんでそんな食べれるんだよ。カンナシュークリーム3つ目だぞ。
「そのさ…カンナはもし俺が反乱分子になったらどうする?」
カンナは目をまんまるにしてからツボに入ったみたいで爆笑する。
「もしも!もしもの話だよ!」
「マジ最近お兄ちゃんどうしたの?気持ち悪い通り越して怖いんだけど」
カンナに言ってしまいたい。シグレはユズで水の宮家で今俺の彼女でユリは無事なんだよ。でもレイさんって言う怖すぎる許嫁がいて、その人に昨日…。
「反乱分子になったら…だよ」
「予定でもあんの?」
「ない…と思う」
カンナは4つ目のシュークリームに手を出す。俺の分無くなった。
「よく分かんないけど、反乱分子になるんだったら言ってね。私もなるから」
「ハッ⁈馬鹿⁈なんで⁈消されんぞ⁈意味分かってんの⁈死ぬんだぞ⁈」
「何マジになってんの?本当になる気なの?」
分からない。分からないけどユズが望むなら俺は多分ユズを連れて逃げる。
「…冗談でもそうゆうこと言うな」
「別に冗談じゃ無いよ。私不登校だしお兄ちゃんと違って失うもの何も無いもん」
なんでカンナはそういうことを平気で言えるんだよ。俺はカンナまで失いたくないよ。
「…カンナ今度会って欲しい人がいる」
「はっ⁈絶対嫌!私が人に会わないの知ってるでしょ⁈お兄ちゃんと話すのだって苦痛なんだから!」
「俺の彼女だから」
「…今なんて言った?」
「俺の!彼女!」
「…頭大丈夫?精密検査受けなよ」
「だから!俺の彼女なんだって!昨日の水族館に行くっていったのも!彼女ができたから!」
「…現実?三次元?」
「現実!二次元じゃねぇよ!」
「…写真は?なんか証拠見せて」
俺人生でこんなに疑われてるの初めてだよ。カンナの中の俺ってそんな悲しい奴なのかよ。証拠って…写真もペアのストラップもそういや何もないな。
「…今度家に連れてくるから。それが証拠」
「嘘じゃないんだ…」
「嘘じゃねぇよ!」
「どんな人?」
「…シグレに似てる」
「シグレお姉ちゃんに⁈どこら辺が⁈」
「…雰囲気」
「へー。あのお兄ちゃんがねぇ。へぇ」
ちょっとしばらく「へぇ」は禁止して欲しい。
「…会ってくれる?」
「嫌だよって言いたいけど、シグレお姉ちゃんの名前出されたら会うよ。服買ってよね」
「全部買う。金は出すから頼む」
「そんなに会わせたいんだ」
「うん」
「…そっか」
「うん」
「お兄ちゃんなんか変わったね」
「そうか?」
「だってちょっと今までは私と月一回ぐらいしか喋らないし説教しかしなかったじゃん。ずっと戸間に居たのに急に受験するとか言い出すし」
「受験…?」
すっかり忘れてた。ユズが彩都に行ってしまうっていうから…。
「受験!どうしよう⁈やっちまった!今からでも間に合うかな⁈」
「えっ?今更受験校変えるの?」
「ハーレス!」
「はっ⁈流石に無理でしょ」
「いや違うんだよ!」
違わない。俺今ハーレスに行こうと本気で思ってしまった。ユズがいるなら行きたいって。もし入学式に俺がいたらユズどんな顔するかな。
「…なぁカンナはマジで学校行かないの?」
「行かない」
「学校ってさ…意外と良いよ」
「お兄ちゃん本当どうしたの⁈彼女できたらそんなに変わるもんなの⁈」
「カンナが頑張ってるのはわかる。別に行ったら人生が成功するなんて保証はないし学校なんて行っても行かなくても良いと思う。でもカンナの13歳は今しかないから。部屋で過ごすのはいつでも出来るけど中学一年生って一年しかないんだよ。考えて欲しい」
カンナは何も言わず涙を流した。カンナの涙を見た瞬間に俺も抑えてきた涙が溢れ出した。ユズ達が頑張ってきたように俺らも俺らなりに今まで頑張ってきたんだ。その頑張りは比較できるもんじゃ無いし他人に評価されるものでも無い。だから俺らはこれで良い。もし俺まで学校に行かなくなってたらシグレと再会することはできなかった。俺は学校に行っててよかった。
カンナは何も言わずにシュークリームを食べきってパソコンにまた向かった。普通こういう時は感動の涙流して夢を語り合うもんじゃね?とか思ったけど、「普通」って言葉に縛られたく無いから俺は自分の部屋に戻った。
ユズから金曜日どこ行く?ってきてる。本当は今すぐ家に来て欲しいけど、家の掃除しないといけないし男の部屋には色々隠さなければいけないものもある。カンナも服買いたいって行ってたし、何より放課後なんかじゃ足りない。「ユズと一緒ならどこでもいい」って書いてユズと一緒ならって部分だけ消して送った。
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